夢魔
MIN:作

■ 第32章 崩壊78

 明日香が警備室に入ると、そこには9人の男が居た。
 それぞれが、銃の手入れを行っている。
 時刻は17:30。
 もうじき交代時間で、男達は武器の異常を点検していた。
 明日香はお辞儀をすると、警備室の机の上に、ティーセットを置いて、スッと部屋を見渡す。
(無い! 箱が…無いわ…。ここじゃ無いのかしら…)
 明日香が部屋を出ようとすると
「おい!」
 1人の男に呼び止められた。

 ビクリと明日香の肩が震え、男の方を向くと
「今日は警備員が増員されるから、もうワンセット頼む…」
 男は明日香にティーセットの追加を依頼する。
 明日香は、ペコリとお辞儀をすると、その時有る物を見つけた。
(あ! あれは…。どう言う事?)
 明日香の目には、自分の探し求める箱では無く、その中身が飛び込んできた。
 明日香は頭を持ち上げ、何気なく部屋の隅に視線を飛ばす。
 20畳程の警備室の四隅にリバーシーの駒が1個ずつ落ちていた。
 内心、相当動揺したが、明日香は平静を装い、警備室を出て様々な部屋をチェックする。

 すると、屋敷内で、常時人が立ち入る部屋には、既に駒が撒かれていた。
 疑問を感じつつも、明日香は警備室にティーセットを追加して、使用人棟に戻る。
 使用人棟に戻ると、メイドの1人が明日香を見つけ、手招きした。
 明日香の頭の中で、全ての状況が繋がった。
(誰かに指示を受け、私の仕事を先にみんながしてくれたんだ…)
 明日香はホッと胸を撫で下ろし、メイド達が集まる佐山の調教室に入る。

 明日香が入ってくると、直ぐに響子がそれに気が付く。
「あ、明日香さん。庵様から連絡を受けて、睡眠ガスの機械は撒いておきました。でも、犬小屋には私達じゃ行けなくて、待っていたんです」
 響子は困った顔で、明日香に告げる。
 明日香は佐山の命令で、自分を陵辱した犬達の世話を命じられていた。
 毎日犬達を見るたびに、明日香はその陵辱の日々を思い出し、足がガタガタと震える、この屋敷で一番近付きたくない場所だった。
 明日香はキッと表情を引き締め、大きく頷くと響子に手を差し出す。
 明日香が手を差し出すと
「ガスの噴出は、18:00丁度です。番犬の解放も、今日は早めみたいなので、直ぐにお願いします」
 響子は明日香に催眠ガス噴出装置を2個手渡した。

 明日香は直ぐに踵を返して、犬達の餌を載せた台車を押して、犬小屋へ向かう。
 犬小屋が近付くと、犬達の吼える声が聞こえ、明日香の足がガタガタと震え始める。
 明日香が犬小屋の、2階に上がると餌の投入口に、台車を固定し中の生肉を犬小屋に投げ入れた。
 犬達は我先にと、生肉に飛びつき、引き千切りながら奪い合う。
 明日香が一番見たくない光景。
 その生肉が、自分の姿とダブり恐怖感が、一番煽られる光景だ。
 明日香はガタガタと震える身体を押さえつけ、ポケットの中に入れていた、催眠ガス噴射装置の黒面を強く押し、犬小屋に投げ入れた。
 投入口を締め、風上に移動すると、ジッと待機する。
 すると、犬達の争う声が消え、何の物音もしなくなった。
(10秒で噴出が止まって、5秒で消えるから…。後5秒ね…)
 明日香は5秒数え終わると、直ぐに立ち上がり2階から下りる。
 犬小屋の犬達は、全て深い眠りに落ちていた。
 明日香は直ぐに沙希の待つ、調教部屋に向かった。

 明日香が調教部屋に入ると、沙希が出迎える。
「お帰り、明日香ちゃん。[全ての暗示は今より、無効とする]どう、解けた?」
 沙希は、明日香が掛けられた、後催眠の暗示を全て無効にした。
 明日香は身体を襲っていた快感が、スッと消えて行くのを感じ
「はい。今、掛けられていた暗示が消えました…」
 沙希に答える。
 沙希はニッコリと笑うと、明日香の身体に抱きつき
「さあ、この忌々しい場所とも、おさらばよ」
 明るい元気な声で、メイド達に告げる。

 メイド達が歓声を上げ、喜んでいると調教室の扉が開き
「上手く行ったようだな。沙希帰るぞ」
 庵が中に入って来て、低い声で静かに告げる。
「あっ! 庵様〜。みんな、行くわよ〜」
 沙希は庵の胸に飛び込み、満面の笑顔で甘えながら、メイド達に指示した。
 メイド達は沙希の指示に[はい]と返事をすると、庵と沙希の後ろに続く。

 庵達は地下から出ると、メイド達を真っ白な布で覆われた大型バスに乗せ、沙希と2人で佐山の部屋に行き、家具にされている奴隷達を覚醒ガスで目覚めさせ、暗示を解いた。
 家具にされていたメイド達も、暗示が消え自由を取り戻す。
 庵はパソコンの前で突っ伏す佐山を見ると、音も無く近付き[プシュ]と何かを打ち込んだ。
 沙希が不思議そうな顔で、庵を見詰めると
「何したんですか?」
 庵に問い掛ける。
「万が一の用心さ…」
 庵はニヤリと笑い、佐山の部屋を後にした。

 庵はメイド達を乗せたバスを運転し、途中で布を剥ぎ取って、一路ホテルに向かう。
 竹内の家に囚われたメイドは、全て回収され誰1人として、女性は居なくなった。
 催眠ガスの効力が消える3時間後、竹内邸に怒声が響き渡る。
 だが、その時は全ての関係者は、要塞の中で匿われていた。
 まさに、後の祭りである。
 どれだけセキュリティーに金を掛けようと、それを操作する人間が居なければ、それは只のガラクタだ。
 竹内が気付いた時には、崩壊は止めようが無い物に成っている。
 竹内の仲間、全ての崩壊だ。

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