夢魔
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■ 第32章 崩壊79

 ホテルに着いた庵は、メイド達を中に入れる。
 中に入ると、純がメイド達を迎え入れ、22人のメイドを呼び寄せ、別室に連れて行く。
 そこの部屋で、純はメイド達に残酷な事実を告げる。
 彼女達の家族は他界しており、天涯孤独になった事実だった。
「みんな行方不明に成っているが、その最後は、竹内の映像ライブラリーに納められていた…」
 砂を噛むような純の言葉に、項垂れるメイド達。

 シクシクと啜り泣くような声が響く室内で
「北条明日香」
 突然、純が明日香をフルネームで呼んだ。
「は、はい」
 明日香は驚いて、反射的に立ち上がり、返事を返す。
「おう、お前か。お前10年間もあそこに居たんだな…。お前は、7,000万円だ…」
 純が明日香の顔を見ると、ニヤリと笑って明日香に告げた。
 明日香は純の言葉にキョトンとし、意味が全く分からない。
「お前の貯金だよ。お前達は、毎月30万程の手取りが有った。竹内がそれだけお前達に払って居たんだ。それと、お前達の家族の生命保険も、受け取ってる。これは、お前達の財産だ」
 純は裏帳簿から、メイド達の貯蓄状況を調べ、教えたのだ。

 呆気に取られるメイド達を尻目に
「古川響子…、お前も7,000万円」
 次々にメイド達の貯金額を告げて行く。
 22人全員に伝え終わると
「まあ、おまえらの虐げられた、月日を考えりゃ、全く足りねぇがな…。無いよりマシだと思ってくれ。でだ、ここで本題だ。お前等のこの金、俺に預ける気は有るか? 預けりゃ3倍にはしてやる」
 ニヤリと笑って、メイド達に告げる。
 そして、その全貌をメイド達に語ると、メイド達の目が輝き始める。
「私預けます! お金が欲しいんじゃ有りません。会長を丸裸に出来るんだったら、喜んで差し出します!」
 1人のメイドが叫ぶと、次々にメイド達は賛同し、純に貯金を預けた。

 純はニヤリと笑うと
「ああ、お前等の金が、あの爺を地獄に叩き落とす。その様をしっかりと見てろよ」
 メイド達に力強く宣言する。
 本来純の財力が有れば、このメイド達の金など、全く不要で有ったが、純はメイド達に[仕返しの場]を与える為、あえて金を出させた。
 そして、全ての家族にも、同じ事を申し出て、[一丸となって戦ってる]と言う気持ちを与えたのだ。
 これぐらいの事をさせなければ、被害者達の溜飲は絶対に下がらない。

 純の話が終わると、その室内に家族が生き残ったメイド達が入って席に着く。
 メイド達が席に着くと稔と真が現れ、ペコリとお辞儀をする。
「この人が、お前達の傷を見て下さる、源真大先生だ。んで、こっちは、心理的フォローをする柳井稔、義肢や何かの相談は、お前達も知ってる垣内庵に聞いてくれ」
 純はそう告げると、さっさと部屋を後にし、治療計画の説明を稔に全て任せた。

 純が部屋を出ると、廊下に笠崎が控えていた。
「さて、承諾は得た。後は、あいつ等の身分証明だな…。どれくらい掛かる?」
 笠崎に向かって、静かに問い掛ける。
 笠崎は深々と頭を下げ
「はい、明日の夕方までには、公式の証明書を用意致します。」
 純に準備の完了予定を報告する。
 純は黙って頷くと、正面玄関に駐めて有る、黒のキャデラックに乗り込んだ。
「さってと、あいつ等は何処で気付くかな…。早めに俺に目を向ければ、すんなり事が運ぶんだがね…」
 純がニヤリと笑って、横に乗り込んだ笠崎に告げる
「左様で御座いますね…。気付く時間によって、こちらの利益にも違いが出ますからね…」
 笠崎は、ドアを閉めると純に答え、車が静かに走り出す。

◆◆◆◆◆

 夜の21:00になると、止まっていた竹内邸の時間が動き始める。
 催眠ガスの効力が切れ、全員の目が覚め始めたのだ。
「う…、う〜ん…。何じゃ…儂は、寝てたのか…」
 伸一郎が呟くと、正面にのソファーには、まだ田口が口を開け、涎を垂らして眠りこけていた。
 伸一郎は怪訝な表情を浮かべ、応接室を見渡す。
 だが、その応接室内には、伸一郎と田口の姿しか無かった。
(何じゃ! 主人をほったらかしにして、奴隷共は何をしてる!)
 伸一郎は、苛立ちを覚え両手を激しく打ち鳴らした。
 竹内邸の中に大きな[パンパンパン]と手を鳴らす音が響き渡る。
 田口はその音に驚き、ソファーから転げ落ちて、寝ぼけ眼を伸一郎に向けた。

 いつもはその手の音で、顔を引きつらせ飛んでくるメイドが、誰1人として現れない。
 伸一郎の顔が、怒りに染まるとテーブルの下に置いてある、緑・黄・赤のボタンが付いた、小さなリモコンを取り出し、赤のボタンを押した。
 途端に竹内邸内の至る所で、大きなサイレンが鳴り数秒後応接室に向かって、大量の足音が向かってくる。
「ど、どうされました。会長!」
 警備を担当する黒服の男が、応接室に入るなり、伸一郎に問い掛けた。
 黒服の警備主任の後ろから、今日の警備要員12人が慌てた顔で応接室に入ると、全員が怪訝な表情を浮かべる。
 それは、いつもなら自分達より、真っ先に揃っている筈のメイドの姿が、全く無かったからだ。

 一方その頃、使用人棟の自室で眠りこけていた、佐山はけたたましいサイレンの音で、目を醒ます。
「うをわぁ!」
 奇声を上げ、佐山は飛び起きると、その風景に違和感を感じる。
(んあ? 何だ…。やけに部屋が広く感じる…)
 佐山はその違和感の原因に直ぐ気づき、慌てて立ち上がった。
 だが、その佐山の顔が曇り始めた。
 佐山が立ち上がった瞬間、キーボードの右隅。
 テンキーの右下に有る、リターンキーを右手の親指が叩いていた。
 そして、佐山のパソコンが、プログラムを実行する。
 そのプログラムは、ネットオークションの売買成立を確認し、入金を受け取るプログラムだった。

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