夢魔
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■ 第32章 崩壊80

 佐山は62体の奴隷を6団体と4人の人物に売り渡し、その金を受け取ってしまった。
 受け渡しは、1週間後で有る。
 金額は4億4千万円程で、価格は個体により高い安いは有る物の、平均700万円程の値段が付いていた。
 佐山はその結果に驚き、ほくそ笑んだが、肝心のメイド達の姿が見えない事に、気持ちを切り替える。
(何でだ…、あいつ等が、あの状態でどこかに行ける訳も無い…。一体何が有ったんだ…)
 佐山が考え込むと、直ぐに有る事を思い出した。
(沙希だ! 沙希なら、俺の暗示を全て解ける!)
 佐山はその答えに気付き、直ぐに沙希を押し込めた調教部屋へ急ぐ。

 階段を地下に降り、扉を開けて奥に進む。
 沙希を押し込めていた部屋には、人っ子1人居なかった。
 佐山は愕然とするも、直ぐに踵を返し母屋へ急ぐ。
(ここまで、誰1人として会わなかった。まさか、全員か…)
 母屋の応接室に走り込むと
「おい、佐山! これはどう言う事だ!」
 伸一郎が佐山を認め、怒声で迎え入れた。
 その怒声を聞きながら、応接室の中を確認する佐山の後ろから、警備の要員が次々に応接室に入り
「裏庭誰もいません」
「犬小屋で、犬が眠ってます!」
「母屋にメイドの姿はありません」
 次々と報告する。
 その時佐山が、部屋の隅にチカチカと、ランプを明滅させる物に気付く。
 竹内邸の母屋に繋がる、電話機だった。

 佐山は電話機に近付き、光っている留守番電話の再生ボタンを押す。
『ピッ、メッセージを5件窺っております…。1件目…18時、32分…』
 機械的な女性の言葉で話し始める。
『こちら、巡視です…。警備室で何か有ったんですか? 定時連絡に誰も出ません…』
『次の1件です…。19時、05分…』
『もしもし、第1市街地区、港湾地区…供に監視者居ません…』
『次の1件です…。19時、38分…』
『もしもし…、何か変な雰囲気です…。第2市街地区も、誰もいません。これから、マンションに向かいます』
『次の1件です…。19時、54分…』
『マンションに誰も居ません! どの部屋も鍵が掛かっています。そっちで、何か有ったんですか?』
『次の1件です…。20時、24分…』
『監視家庭30件全て留守です。マンションももぬけの殻です…。これからどうしますか? 指示を下さい…』
 次々に流れる留守番電話のメッセージに、佐山の表情が真っ青に成る。

 呆然とする佐山の背後から
「何だ、この事態は! ハッキリさせろ佐山!」
 伸一郎が怒鳴り散らす。
 だが、その時佐山の頭の中には、全く別の問題が渦巻いていた。
(ちょ、ちょっと待て…奴隷達の売値が、4億4千万円…。違約金は、5倍返しだ…、って事は、22億円…。山菱会、岸和組、東神会の広域暴力団や、シンガポールのジェ・ギン、香港のイ・ヨンが、許す訳無い…。ましてや、アラブのアッサムやイタリアのキシリア…、台湾の竜幇、ロシアのスノーファング、あいつ等は新興勢力だ…間違い無く俺を殺しに来るぞ。それに、俺が逃亡を頼んだ人身売買組織…。あいつ等は、俺の全部を知ってるのに…、今更[奴隷が居ない]で済ませられる訳が無い!)
 グルグルと回る佐山の頭の中で、伸一郎の怒鳴り声が木霊する。

 怒鳴り声を掛けられた、佐山の雰囲気がその瞬間変わった。
「うるせ〜爺! お前は黙ってろ!」
 佐山が怒鳴り声を上げると、伸一郎の口がピタリと閉じ、伸一郎はそれに気付かないのか、口を閉じたまま佐山に抗議する。
「おい、お前! 何が有った、俺に直ぐ報告しろ! 全部だ!」
 佐山が警備主任に怒鳴り散らすと、警備主任は真っ直ぐに立ち
「はい、私達警備員25名は、何らかの原因で、眠っていたようです。防犯カメラの映像等の判断から、およそ18時から3時間何かによって、眠っていました」
 虚ろな表情で、佐山に報告した。

 警備主任の後ろに立っている、警備員は主任の突然の態度の変化に驚きながら、佐山の顔と主任の顔を見比べる。
 佐山は警備主任に向かって
「探せ! 草の根分けてでも、居場所を探し出せ!」
 怒鳴り散らすと、警備主任は深々と頭を下げ
「全員、町の隅から隅まで探せ、スタンバイの者も総動員だ」
 虚ろな声で、全員に指示を出した。
 警備要員達は、戸惑いながらも警備主任の指示に従い、全警備要員60名に連絡を入れ、捜索に当たった。

 佐山は指示を出しながら、ジッと考え始める。
(沙希が絡んでるとなると、絶対あの小僧が絡んでる筈だ…。何か、俺は見落としてる…。何をだ…)
 佐山がジッと考えていると、警備主任を呼び寄せ
「おい、昨日警備の報告で、センサーの故障が有ったと聞いたが…。他に、変わった所は無かったか?」
 警備主任に問い掛けると、警備主任はボーッとした表情で
「はい…昨晩は、犬達が妙に怯えていました。何か、恐ろしい物に威嚇されたような…そんな感じを受けました。私が感じたのは、夜の21:00過ぎでしたので、それ以前に何か有ったのかも知れません…」
 佐山に答えを即座に返す。

 佐山はその答えを聞いて、更に考え込むと
(もしかしてあのゴリラみたいなガキがここに来た…。だが、そうなら何故沙希だけでも…。いや待てよ…、奴らの狙いが最初からメイドに有るなら、この監視家族が消えた事も、今日の明日香の呼び出しも繋がる。クソ! チビにも嵌められた!)
 佐山は優秀な頭脳を駆使して、今日までの流れを読み始めた。
(あいつ等は、ずっとチャンスを待ってた…。いや、違う。あの柳井と言うガキは、少なくとも学校を追い出されるまで、竹内を信じてた…。初めから、胡散臭かったのは、あのチビの方だ…。そう、日本に来させた、1年半前から…。クソ、何を考えてる…)
 だが、佐山は、純の考えが読み取れず、苛立ちが増すだけだった。
 そして、佐山はそれ以上の現実に、向き直り打開策を考えるが、一向に考えが纏まらない。
 佐山は焦りと苛立ちから、自分を見失い始める。

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