夢魔
MIN:作

■ 第33章 終幕3

 稔が全ての治療、ケアを終えたのは、もう日没が近い18:30頃だった。
 流石に疲労の色が濃く出ている稔に、一本の電話が入る。
『稔…、こっちの事情聴取は終わったぜ…そっちはどうだ…』
 受話器から純が問い掛けると
「ええ、こちらも終わりました。場所は、地下に行けば良いんですか?」
 稔は治療を終えた事を告げ、純に集合場所を問い掛ける。
『ああ、下に降りてきてくれ。こっちも、準備は終わらせた…』
 純は稔に少し、暗い声で告げた。
「今、降りて行きます」
 稔は静かに純に告げると、受話器を戻し、診察椅子から立ち上がる。

 稔は地下駐車場に降りて行くと、駐車スペースに5人の男女が立って居た。
 純、庵、真、黒沢、キサラの5人だ。
 稔を迎え入れた、5人は駐車場の闇の方向に、身体を向ける。
 その先には、7人の男が、椅子に縛り付けられていた。
 左から西、伸也、田口、榊原、柏木、伸一郎、そして佐山の7人だった。
 稔達5人が佐山達に向き直り、ジッと見詰める。
 久しぶりの邂逅、初めての対面。
 それぞれに思う事を秘め、両者が向かい合う。

 そんな中、純が一歩前に進み出て、右手を挙げて指を鳴らすと、5人の背後の壁に、プロジェクターでPCの画面が映し出される。
 PCの画面には大きな円が1つかかれ、左上に[当事者]、右上に[賛同者]と書かれていた。
「今から、私設裁判を始める。お前達が手に持ったスイッチは、直に数字に表れる。イエスかノーかしかねぇが、率直な意見を聞かせて欲しい。但し、お前達の声がダイレクトに、こいつ等の運命を決める事を承知してくれ。その上での意見だ…、そしてこれだけは忘れないでくれ、こいつ等は悪党だが、俺達の言葉で死ぬ目に逢う。もしかして、それ以上の目に逢うかも知れねぇ…。だが、それを決めるのは、スイッチを押したモンだ。それを背負うつもりが無ければ、今すぐスイッチを置いてくれ。最初の意見を聞く…俺の言った事を理解し、賛同するならイエス、しないならノー…二択のスイッチを入れろ…」
 純は虚空に向かって、淡々と話しモニターに向き直る。

 純が告げてから直ぐに[当事者]の数字がクルクルと回り始めた。
 奴隷教師48人調教教師12人それに教頭を合わせた61人の学校関係者。
 メイドの32人と34人の残留家族。
 マンション奴隷30人とその家族143人。
 分院で被害に遭った28人の生き残り。
 そして、生徒480人とその家族1,421人。
 延べ、2,229人にそのスイッチは行き渡っていた。
 [当事者]の数字は2,229と成り、私設裁判は全員の合意を得る。
 大きく描かれた真ん中の円は、赤く染まり[100%]と数字が浮き上がった。

 純は大きく頷くと
「本当は、100%の意見じゃないんだがな…。口惜しいだろうが、死んじまった者の意見は、聞けねぇんでな…」
 ボソボソと済まなさそうに呟き
「これは、日本の法律じゃねぇし、どんな法律にも当て嵌らねぇ…。言って見ればリンチだ! だが、決定には従わせる。俺の持てる力全てを使ってもな!」
 純は7人に向かって、高らかに宣言する。
 こうして、7人の当事者に対する私設裁判は始まった。

 純は先ず一番最初に、この事件のあらましを全員に伝えた。
 稔の計画も、夢も、考えも全て伝え、その時に平行して行われていた、伸一郎の悪行も全て包み隠さず公表した。
 その上で、佐山の暗躍や、柏原の行動、田口と柏木の介入と筋道立てて、背景を説明する。
 ここで、学校関係の巻き込まれた者と、竹内グループ関係の巻き込まれていた者に意見が分かれた。
 だが、当初稔達の計画で、巻き込まれたと感じていた者達も、多かれ少なかれ自分達の家族が、毒牙に掛かる可能性を否定出来なくなる。
 伸一郎の悪行は其処まで感じさせる、物だったのだ。

 純は具体的、且つ分かり易く全員にあらましを説明した後
「俺は、正直この馬鹿男が、クソ爺に騙されてるのが、見えていた。だから、敢えてこの計画に乗り、ひっくり返すチャンスを待っていた。このお節介野郎は、本気で学術的にSとMを研究してる。その上で、ストレス無くパートナーを探せるネットワークを作ろうとしていた。これは、事実だ。この事を理解しなくても良い…、ただ少し踏まえてくれ」
 全員にそう告げると、いきなり稔を呼びつけた。
 稔は驚いた顔もせず、中央に出るとスッと顔を上げる。
「俺の話を聞いた上で、こいつに罪があると思う者。スイッチを入れてくれ」
 純はオーディエンスにいきなり、裁決を求めた。

 すると数分後結果が現れる。
 [当事者]の欄には、61人の学校関係者、分院で被害に遭った28人、生徒480人とその家族1,421人を足した1,990人が表示され、70%が無罪を主張する。
「やっぱり、100%ではねぇよな…。稔よ、これが現実だ…肝に銘じろよ…」
 純が稔にそう告げると、稔は項垂れ
「解りました…。今後気をつけます」
 素直に謝罪を示した。
「んで、賛同者の意見を踏まえると、こう言う風になる」
 純はそう言いながら、[賛同者]の239人の意見を足して、全体の統計を写し出す。
 その結果73.2%が無罪を主張した。
 これは、[賛同者]が全て、稔に罪は無いと擁護した結果である。

 純や稔が見ている画面は、インターネット上で全ての関係者が目にしていた。
 ホテル内で見ている者、自宅で見ている者様々である。
 コントロールルームで、この結果を見ていた、奴隷教師達は
「何で、柳井様に責任があるのよ! 確かに強引な部分は少し有ったかも知れないけど、私達はみんな満足してるわよ!」
 憤慨しながらディスプレーに文句を言った。
 しかし、その声を涼やかな声が遮る。
「お黙りなさい…。今、工藤様が為されている事は、もっと別の意味が有るのよ…。フフフッ本当に怖いお方達…、まだまだ先をお望みなのね…」
 大貫がディスプレーを見て、微笑みながら言った。

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