夢魔
MIN:作

■ 第33章 終幕4

 意味を把握出来ない、女教師達はキョトンとした表情を向け、意味を理解した女教師は、その先読みに驚愕する。
 意味を理解出来た者と理解出来なかった者に分かれた、コントロールで答えを求めようと問い掛ける教師に
「駄目よ、これぐらいの事理解出来ないと、あの方達には付いて行けないわ。自分で、考えなさい」
 ピシャリと大貫に叱られ、一生懸命考え始める。
 意味を理解した女教師も、これが咄嗟に理解出来た大貫を見詰め
(私も早く追いつきたい…)
 心からそう願い、努力する事を誓った。

 稔の行動を73%が容認し、稔の推定無罪が確定すると
「一連の流れは、こんな感じに進んで行く。そして、他の人間を裁いて居る時にも、この数字は変更可能だ。俺は最終的に、80%の支持を得なければ…、稔。俺は、お前でも裁くぜ!」
 純は稔に向かって、真剣な眼差しを向ける。
 稔は純に向かって、大きく首を縦に振ると
「純。僕は他の誰の言葉より、純の言葉に従うよ…」
 ニッコリと微笑んで、全てを受け入れる意思を表した。

 純は稔の言葉に頷いて、稔の罪を暴き始める。
 それは、稔のモルモットとして研究対象にされた、梓、美香、美紀、沙希、弥生の5人が対象に成ったが、勿論対象者の5人は稔に罪を求めなかった。
 そしてこの件に関しては、残りの賛同者で稔の罪を認める者は、僅か2%に止まる。
 更に、学校中を巻き込んでの、開花に至っては全校生徒480人の当事者は90%が無罪を訴え、賛同者は50%が罪と主張した。
 この結果は当然である。
 如何に本人がマゾと認めていても、それに染まる切っ掛けを作った人間に、罪を感じるのは当たり前だった。
 10%の者が、[マゾに染められた]と思った瞬間、[染めた者]は罪に問われるのである。
 それは、罪の大小で表現されるのでは無く、イエスノー、オンオフの世界だった。

 ましてや、両親にすればアブノーマルに目覚めさせられたと知れば、自ずと反対意見に走る。
 それは、当然の事だった。
 それが反対意見の50%に反映されている。
 この50%は、奴隷にされた者達の両親の意見だった。
 稔は厳粛に、この裁定を受け止め、自らの罪を認めた。
「これで、稔の罪を確定させる。稔は刑罰で言う、略取暴行の罪で起訴する。それに異存は無いな」
 純は全員にそう問い掛けた。
 その瞬間、数字がカタカタと動き始める。

◆◆◆◆◆

 自宅で、食い入る様にPCでインターネットを映すディスプレーを見ていた生徒達が、突然家族の顔を見詰め
「お父さん! お母さん! まさか、[罪]に入れてないでしょうね! 馬鹿な真似は止めて! 私は、何も恨んで無い! もし、柳井様が罪に問われたら、一生恨むわ! 本気で家を出て行くわよ!」
 家族に向かって真剣な表情で訴え始める。
 それは、殆どの家で巻き起こり、少女達の懇願が各家庭を席巻する。
 両親家族達は当事者で有る、娘の怒りや哀願、恫喝や懇願により、意見を変え始めた。

◆◆◆◆◆

 数分もしないうちに、稔を罪に問う意見は10%を割り、一桁に変わる。
 稔はその結果に、カメラに向かって深々と頭を下げた。
 純はその結果を静かに見詰め、小さく頷く
(あ〜…ヒヤヒヤしたぜ…。本気で80%超えるとは思わなかった…。流石稔の分析能力だぜ…)
 純は冷静な顔をしながら、稔の出した条件に冷や汗を垂らした。
 純は事前に稔に問い質していた、数字を口にしていたのだ。
 稔は純の質問に
「80%を割る様でしたら、僕はどんな罪でも享受しますよ。僕がした事は、そう言う事ですから」
 ハッキリと答えていたのだ。

 稔はペコリと頭を下げ、元の場所に戻ると、純は次の罪人を呼んだ。
 次に呼ばれたのは、西だった。
「この男は、町のチンピラで、竹内伸一郎の奴隷調達係だった」
 純がそう説明すると、西の行って来た、悪行が説明される。
「婦女暴行、それも極めて極悪な暴行を加え、対象者の心を折って、屈服させた女性を伸一郎に売り付ける。その際、やり過ぎて使え無く成った女性は、部下の玩具にした。お前が、そうして手を掛けた女性は22人で、内15人を伸一郎に売り付けた。間違い無いよな?」
 純が調べ上げた西の行為を本人に確認する。

 西はふてくされた顔で
「だから、何だよ。俺だけか? 女をこの爺さんに用立てたのは、俺だけじゃ無ぇぜ! 何で、俺だけが殺されなくちゃ成らない!」
 西は説明する純に食って掛かる。
「まぁ、そりゃそうだ…。それを言ってれば、切りがねぇわな…。だが、お前は今ここに居るのは、どうしてかな? お前の相棒の谷って居たよな? あれが、ここに居ないで、何でお前だけがここに居ると思う?」
 純は西の顔を覗き込み、問い掛けた。
 確かに、純の告げた通り、谷が居らず西だけがここに居るのは、片手落ちだった。
「俺ゃよう…、それなりの調査機関を持ってて、地道に調べ上げた。その結果、あいつ殆どがお前の依頼で、墨を入れただけじゃねぇか。他の奴らにしても、警察の厄介になってる。竹内の[スカウト]で生き残ってんのは、お前だけなんだ…。知ってたよな…この事実…」
 純は睨め付ける様に、西を見詰める。

 西は純の言葉に、顔を引きつらせた。
(んだ…このガキ…。何でそんな事まで知ってるんだ…。7〜8年前の事だぞ、俺が[スカウト]始めたの…)
 西は、純の情報収集力を完全に舐めていた。
 まさかこんな16〜7の少年が、世界に冠たる情報機関を顎で使えるとは、思っても居なかったのだ。
 西はシラを切り通そうか迷ったが、[どんな罪に成っても、スッとぼければ勝ち]と開き直った。
「ああ、お前の言う通り、谷は女に殆ど興味無ぇ。あいつは、俺の悪評の身代わりにした。それが何だ!」
 西はそう言って、純に告げ罪を認めた。
 途端にカタカタと、数字が動き始める。
 西の場合[当事者]の数は教師61人と生徒の480人だったが、その541人全員が[有罪]を押す。
 それ程西の学校内での専横ぶりは、酷かったのだ。

■つづき

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