夢魔
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■ 第33章 終幕8

 純は佐山が観念したのを見て、後ろの円グラフを確認する。
 円グラフは柏木の時と同様、100%から一切動かなかった。
 そして、フッと伸也と西の円グラフに視線を向けると、伸也の[有罪]は30%に、西の有罪は80%に成って居た。
 明暗分かれた2人に向かい
「おい、伸也。お前は助かったな…。西…お前は…」
 それぞれ、処分を言いつけようとした、純の動きが止まり背後をユックリ振り返る。
「純さん…それ、変わって貰えますか…」
「ええ、僕も是非交代して欲しいんですが…」
 庵と稔が恐ろしい表情で立って居た。

 純はその2人の雰囲気に舌打ちし
「おい、加減しろよ…。お前等の雰囲気…それだけで、かなりの罰だぜ…」
 2人にボソリと告げ、その場を明け渡した。
 庵と稔は西の目の前に立ち
「お前は生かして置いてやる…。その代わり、二度と娑婆の土を踏むな」
「情状酌量も、赦免も許しません。貴方が出て来た瞬間、私達が迎えに行きます」
「生きてる事を後悔させてやる」
「塀の中を天国に思わせて上げます」
 腸が煮えくりかえる思いを殺しながら、西に告げる。
 西は2人の言葉と雰囲気で、気絶しそうになりながら、ブンブンと首を縦に振り、誓った。
 庵がスッと手を伸ばすのを真が止め、椅子に縛り付けたまま引っ張っていく程、2人の雰囲気は尋常では無かった。
 真に西を連れて行かれた庵は、その浮いた手を竹内親子に向け、ブスッとふくれ面のまま、2人を引き立てる。
 西と竹内親子の円グラフがフッと壁から消えた。

 その時佐山が突然笑いだし
「俺が、何をした。俺は、あいつ等の夢を叶えただけじゃないか!」
 稔に向かって、叫んだ。
 稔は佐山に向き直り
「夢を叶えた? 貴方がした事は、夢を叶えたんじゃない。夢を操ったんです…」
 稔は佐山に応える。
「操る? それは、主観の違いだろ? 俺は、あいつ等の願望を押しただけだ」
 佐山はなおも食い下がるが
「願望を押すにも、貴方がやった事は、ごく一部を強調し、全体を歪める行為だった。それは、貴方自身の主観で行った筈です。貴方自身が興味の有る事を強調してね…。それを操作と言うんです。貴方は、それを学校で習いませんでしたか?」
 稔は理論を展開し、佐山に問い掛ける。

 佐山は鼻で笑うと
「忘れた…」
 一言呟いた。
 稔はジッと佐山を見詰め
「それを忘れた者は、魔物と同じですよ…。夢を喰らい、夢を操る、悪意有る魔物…」
 ボソボソと稔が呟くと
「魔物…、夢魔か…。お前も似た様なモンだろ…」
 佐山はボソリと呟き、投げ出した様に稔に問い掛ける。
「そうなのかも知れません…。ですが、そうならない様に、僕は努力します。僕と貴方は紙一重だと思います。僕には僕を引き留められる、強い友人が居ます。僕を愛してくれる愛しい人が居ます。貴方にはそれが、居なかった…」
 稔は自分の心情を佐山に語る。
「友情と愛情か…それが、夢でないと誰が言い切れる…。それが、操られた物で無いと、誰が証明する?」
 佐山は稔に真剣な目で、問い掛けた。

 稔はその答えに詰まると、スッと純が稔の肩に手を添え
「俺が証明してやるよ。こいつは、こいつだ。頑固者で、我が儘だが、人一倍理屈を通す。こいつが、お前みたいに曲がる筈がねぇ! もし、曲がったら。俺が殺す!」
 純は真剣な表情で、佐山に告げる。
 佐山は鼻で笑い
「くだらねぇ…。もう良い、早く俺を殺せ…。俺は生きている限り、お前達に悪意を振りまいてやる」
 純に向かって、吐き捨てる様に言った。
 純はその言葉を聞いて、ニンマリと笑い
「お前、馬鹿? 俺達が、人を殺す訳無いじゃん…。今までの裁決でも、誰1人殺してないだろ?」
 佐山にゾッとする様な声音で告げた。

 佐山はその声を聞いて、ゾクリと総毛が逆立った。
「は〜い、稔君〜この叔父様に、催眠術を掛けて催眠術と自殺を封じて下さ〜い」
 稔は純の言葉どおり、佐山に催眠術を掛け、催眠に関する全ての記憶と自殺を封印する。
 純はそれが終わると、キサラを呼び出し
「キサラ姉さん、この叔父様に素敵なプレゼントを上げて下さい…」
 陽気に告げると、キサラはニコニコと進み出て
「うふふっ、これは、私のオナニー鑑賞代よ」
 そう言いながら、一本鞭を二閃する。
 佐山の顔面に大きな×が刻み込まれた。

 純は痛みに震える佐山に向かって
「庵からのプレゼントは、もう貰ってるみたいだから、後は俺のプレゼントだ…。お前さぁ、自分の昔の名前嫌いだったろ? だから、消して上げたから…。戸籍も、住民票も全部。電子データーも紙媒体も処分して上げたよ」
 楽しそうに告げる。
 驚いた佐山に、純は追い打ちを掛けた。
「庵のプレゼントに反応するセンサー。お友達に送っといたから、いつでも会いに来てくれるよ。確か山菱会、岸和組、東神会の広域暴力団に、シンガポールのジェ・ギンさん、香港のイ・ヨンさん、アラブのアッサムさんやイタリアのキシリアさん、台湾の竜幇、ロシアのスノーファング付き合い広いね? それと、名無しの人身売買組織…、代表は上松さんだっけ…全員に今の顔写真と送ったからね」
 純が告げた組織と名前は、全員佐山を捕まえようとしている者達だった。

 愕然とする佐山に、純はニッコリと微笑み
「俺達は殺さないけど、お友達はどうかな? 俺的には、台湾の組織なんかお勧めよ…。あそこは、中国本土のえげつな〜い、拷問を継承してるからね…。きっと、相応しい死に方に成ると思うよ」
 楽しそうに告げた。
 佐山はこうして、能力も素性も奪われ、身体に発信器を付け、ただ1つの特徴も消されて、追跡者の前に放り出される。
 佐山はこの後、一生涯安眠する事無く、無一文で逃亡生活を強いられた。
 何処にも、逃げ込めず、何処にも紛れ込めない佐山は、自殺すら出来無い事を呪う。

■つづき

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