夢魔
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■ 第33章 終幕9

 佐山が連れて行かれポツリと1人取り残された、田口はポカンと口を開け座っている。
 純は田口を見ると、ニヤリと微笑み
「後は、おっさんだけだな。で、このおっさん何だけどよ、昔は[マムシの田口]って呼ばれるぐらい、阿漕な商売をしていた、隣の市出身の土地ブローカーなんだわ。だけど、今はそれも引退して普通に暮らしてた…。それが、このキサラに連れられて、この市に来たのが間違いの元だったんだな」
 純はそう言って、キサラに視線を向け、田口に戻す。

 田口はガックリと項垂れ、純の話を聞いていた。
「そこで、俺達が調教中の5人を見て、悪い虫が騒ぎ出し、横取りなんか考えるからこんな目に逢ったんだぜ…。まあ、その後は、かなり悲惨な目には逢ったよな…。竹内の爺さんと手を組む為に7億円ポンと払ったは良いが、禄に奴隷を相手にも出来ず、佐山に催眠術は掛けられるわ、挙げ句の果てに全財産の400億円は消えてしまうわで散々だ…」
 純の言葉を聞いていた田口はドンドン落ち込んで行き、今にも崩れ落ちそうだった。

 純はそんな田口を見詰め[ふぅ]と大きく溜め息を吐くと
「しかもだ、このおっさん…何故、ここにいるかって言う程、何もしてないんだ…。金を払ったって言うぐらいしか、本当に何もしてない。学校の改装費も、殆どこのおっさんの出した金だ。それで、知らん顔をするのは、非道くねぇ?」
 純の話は徐々に田口を慰める物に成り、最後には同情を呼び掛ける。
 田口は確かに、純の言う通り金を出しただけで、酷い事は一切していない。
 荷担したのが、たまたま悪人サイドで[酷い事はこれから、するかも知れなかった]程度なので有る。

 田口は純の言葉で、徐々に元気を取り戻し始めた。
「で、このおっさん。実はかなり顔が広くて、優秀な実業家でも有る。確かに400億円も稼いで、個人資産にしてるくらいだ、自ずと解るだろ? 竹内グループがジェネシスジャパンに飲み込まれ、これからの学校運用を考えると、理事長と副理事長はしっかり、させなきゃならねぇ。竹内と金田が抜けた穴を埋めなきゃならねぇんだ…」
 純の話がドンドンおかしな方向に進んでいるのに、誰もが気付く。
「1人は決まってる。オーナー会社のジェネシスジャパンから、社長のこの男が副理事を兼任する」
 そう言って、純は闇の中に手を差し出すと、笠崎が現れペコリと頭を下げる。
 これには田口が驚いた。
 自分の財産全てを持って行った、男が目の前に現れたのだ。

 目を白黒させる田口に、笠崎はペコリと会釈し
「業務が多忙に成りますので、学校の方宜しくお願いしますね」
 田口に向かって、依頼する。
 田口はますます持って意味が分からない。
「と言う事で、このおっさんが新理事長に成る。みんなにも、納得して欲しい」
 純が田口を新理事長に任命すると、田口はもう我慢出来なかった。
「ちょ、ちょっと待て! 小僧、お前は何を言ってるんだ? 学校運営? 理事長? 何の権限で言ってるんだ!」
 田口は純に捲し立てると、スッと笠崎が間に入り
「田口さん、この方は、全ての権限をお持ちなんです。この方が、ジェネシス社の創始者で、今回のマネーゲームの勝者です。真のジェネシスジャパン社長、工藤純様です」
 田口に説明する。

 田口は目を向いて驚き、言葉が出なかった。
 そのやりとりを自宅で聞いていた、生徒とその家族も自宅で同じリアクションをする。
 純は大げさに頭を下げて挨拶をすると
「と言う訳で、新理事長が決まった所で、本日の私設裁判は終了します。みなさんで、彼らを裁いて処分を決めた事決して忘れないで下さい。もう、無関係な人間じゃ無い…、呉々も、ここで見聞きした事、口外しない様に…」
 静かに落ち着いた声で、言い含めた。
 スッと駐車スペースの電気が落ち、真っ暗になると全てのアクセスを切る。

 全てのアクセスが切り終えられると、パッと駐車スペースの明かりが灯り、呆気に取られた田口が純を見詰めていた。
「おう、おっさん驚いたか? まぁ、こっちも都合があってな…と言う事で、今後とも頼むわ」
 純は軽いノリで田口に依頼すると、[ハハハッ]と明るく笑う。
 未だ呆気に取られる田口に、キサラがスッと近付き
「田〜さん…、あんた美味しい位置を貰ったのよ…。考えても見なさい…美人教師と美少女の集う学校のトップよ…。やり様によっちゃ…うふふふふっ…だ・わ・よ…」
 耳元に妖しく囁いた。
 田口はキサラの言葉で、ブルリと震え、徐々に状況を理解する。
(俺は、一文無しになったし、職も無い…。そんな俺に、職を呉れるって言うんだ…、たとえもと敵でも、ここはすがるしか無い…。考える余裕がある訳でもないしな…)
 田口は両手で頬をバシィと叩き、気分を切り替え純の指示に従う。

 その後、純は笠崎からの報告で、佐山が奴隷を売りつけた組織と個人との、交渉が終了した事を知らされる。
「合いも変わらず仕事が早いな…。落としどころはどうしたんだ?」
 純が問い掛けると、笠崎は深々と頭を下げ
「はい、ゲームに参加して頂きました。逃げる佐山を捕まえた組織には、一昼夜佐山を責める権利を与えます。責め終えたら解放し、その責めている映像を公表します。より、多く佐山を責めた組織が勝ちで、賞金20億円を手にします。但し、ルールを守らなかったり、殺したり、狂わせたらその組織には消えて頂きます」
 丁寧に純に説明する。
「…お前、本当に容赦ないね…。まあ、それぐらい当然か…」
 純は笠崎の罰に舌を巻き、納得する。
「お褒め頂いて、恐縮で御座います…」
 笠崎はにこやかに微笑んで、純に答えた。
 純は大きな溜め息を1つ吐き、肩を竦めた。

 純と笠崎が話している所に、真が駆け寄ってくる。
 真は純を真っ直ぐに見詰めると
「柏木はどうしたんですか? 彼だけ、処遇を聞いていません」
 固い声で純に問い掛ける。
 純は笠崎に視線を向け、笠崎が頷くと
「源様…、柏木は、私どもの旧知の[ある研究所]にお入り頂きました。そこは、主に人体の構造を研究する場所で、ご存じの方はごく一部に限られる研究所です…。そこで、出来る限りの延命措置を受けながら、人体の耐久性を解明する、お手伝いをして頂く事に成りました」
 真にニッコリと微笑み、柏木の行く先を説明した。

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