夢魔
MIN:作

■ 第33章 終幕29

 10年後

 市の様相は変わり、様々な様式の家が立ち並ぶ。
 財政難に苦しむ市を、5年前に就任した市の総合病院を束ねる、若く美しい女性市長が立て直し、何もしなかった国と県を相手に[特別行政区]に指定させた。
 それは国に補助金を貰わない代わりに、国は一切関与しないと言う物で、国側は当初取り上げすらしなかったが、様々な所から恐ろしい程の圧力を掛けられ、認めざるを得なかった。
 その年から建築ラッシュが始まり、駅を取り囲むように壁のようなビル群が立ち並び、その奥に住宅地が整備される。

 本社を市内に置く、ジェネシスグループが市の殆どの企業を取り込み、世界中から居住者が増える。
 増えた居住者はその殆どが、ジェネシスグループ内で高い地位に居る、高所得者で有る。
 そのため市の財政は一気に立ち直り、様々なインフラが整備される。
 また、富裕層が増えたため、保安の目的で市の周りに高さ5mのコンクリート壁が出来、5箇所のゲートを通らなければ、市に入れなく成った。
 市外の者で中に入れるのは、駅前の[解放区]だけに成る。
 だが、この[解放区]ですら実際は[入場パス]が無いと入る事は出来無い。

 世界のセレブが集まる、この市内は様々な商品が並んでいる。
 インターネットや都内にすら無いような物が、ここではゴロゴロと転がっているのだ。
 そんな[解放区]を見て、この市に憧れない者は居ない。
 そしてその奥に有る、一切公開されない[居住区]を皆羨望の目で見詰める。
[壁の中は富裕層だけの別世界]そんな噂が真しやかに流れていた。

 そんな中、学校は更に羨望の眼差しを集めて居た。
 全寮制のこの学校に入る=世界有数の企業、ジェネシス本社に入社出来、社内でエリートを約束されるからだ。
 更にスポーツ、学力、芸術も群を抜き、各種大会で好成績を収めている。
 その上、どんな成績が悪い者でも、この学校を出る時には、国公立の大学に楽に合格する学力レベルに上がり、 海外の大学に入学する者も少なく無かった。

 男子はしっかりと鍛えられて、運動神経も強化され、女子は完璧な礼儀作法を学び、スタイルが整えられる。
 この学校に入学し、半年程で劇的に体型が変わるのは、最早風物詩のような物だった。
 そして、そんな学校に入るには、不思議な試験と面接を受け合格する以外道は無い。
 どんなコネを持とうが、金を積もうが合格者以外は入学出来なかった。
 学校の教育システムを他の学校はどうしても知りたかったが、誰一人として学校に関する情報を漏らさなかった。

 定員200人に対して、例年日本中で3,000人程の学生が試験を受け、合格者が決まる。
 合格者は意気揚々と入学し、自分の性癖を開花させ、稔の組み上げたSMネットワークに登録された。
 稔の組み上げたネットワークは、全世界に張り巡らされ、理想のパートナーを探し出す。
 1人の少年が夢想した夢は、多くの者を巻き込み実現した。
 それは、異端者達の夢でも有った。
 淫靡で妖しい世界は日常と化し、支配と服従が席巻する世界。
 それが、現実に溢れ出す。

◆◆◆◆◆

 女性徒は週末に成り寮から自宅に帰ると、2階に駆け上がり自室の扉を開けて、ベッドに飛び込み俯せのままジッと動かなくなる。
 ベッドに埋めた顔の下から、うめくような声で少女が何かを呟いていた。
「悔しい…、悔しい…、ご主人様…、どうして、あんな女なんですか…」
 少女は自分の主人が、コソコソと隠れるように、フリーのマゾ女性徒に、フェラチオされてる現場を見つけたのだ。
 少女の目にはフリーの女性徒の濃厚なフェラチオが目に焼き付き、主人の恍惚とした表情が、胸を切り裂いた。

 ベッドに埋もれた少女の顔は、幼さが残るが、とても美しかった。
 1年の時、学年でベスト10に入った事も有ったのだ。
 そして、その時からお付き合いしていた主人が、事も有ろうに自分より遙かに下の女性徒に懇願し、プレイを楽しんでいた。
 少女に取っては、屈辱以外の何物でも無かった。
 少女は声を上げて、泣き始める。

 すると、少女の部屋の扉をノックして
「どうしたんだ? 学校で、何か有ったのか?」
 家で寛いでいた父親が、心配そうに扉越しに問い掛けてきた。
 少女はその声を聞き、ガバリとベッドから顔を上げ、身体を翻してベッドから飛び降り、扉に走る。
 少女は扉のノブを掴み、おもむろに扉を開けると、心配そうに中を窺う父親を見詰めた。
「パパ〜っ…。私どうして良いか解らない〜…。私の、お話し聞いて!」
 突然開いた扉と、真剣な娘の表情に、父親は大きく頷くと
「う、うん。解った、何が有ったんだ?」
 手を引かれるまま、少女の部屋に入って行った。

 少女は父親に自分の机の椅子を勧めると、その前にチョコンと正座して、事の次第を話し始める。
 少女の話を聞いていた父親は
「そうか…彼が、そんな事を…」
 父親は溜め息を吐きながら、沈痛な表情を浮かべ、少女の頭を撫でた。
 少女は父親の膝に身体を投げ出し、甘えるように太股に頬摺りする。
「パパ〜…、私どうすれば良いのかな〜…」
 少女が父親に問い掛けると、父親は優しく少女の頭を撫でながら
「う〜ん…。お前には、悪いが…、パパは彼を責められ無いな…。隠れて、プレイしたという事は、少なくともお前に見られたく無かったって事だ。だが、彼はそれに手を出した…、これの原因は、全てお前に有るんだぞ…」
 静かな声で、少女を責めた。

 少女が驚いて顔を上げると、父親は優しい顔で少女を見詰め
「少なくとも、彼は父さんに会いに来た時、本気でお前をパートナーにしたいと思っていた。父さんは彼の熱意を認め、お前達の仲を許したんだ。確か今では、在校中にサディストがパートナーを決めるのは、相当な試験に合格しないといけないと聞いている。彼はその許可を受けるだけの努力をした筈だ…。だが、お前はどうだ? バッジを外して、それで終わりじゃ無いのか?」
 父親の問い掛けに、少女は唇を尖らせ下を向く。

 父親はその仕草に、全て理解し
「お前は奴隷として、主人を持ったんだ…。その踏ん切りを付けさせたパートナーが、どうして他の女の子に、プレーを頼んだか…。自分で解らないのか?」
 少女に問い掛けると
「だって…、いっつもご主人様の側にいたし…。何が悪いか、解らないんだもん…」
 少女は言い訳をした。

 父親は一つ溜め息を吐きながら
「自分に嘘を吐くのは、楽な事だけど…、悪い事だよ…。お前は、見た目の良さだけしか、追い求めない…相手の気持ちをもっと理解しないと…。いい女には成れないぞ…」
 優しく少女に伝える。
 少女は顔を上げて、父親を見て
「パパ…。パパが教えて…。私、ご主人様の次に、パパが大好きだモン」
 甘えながら、コーチを頼む。

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