夢魔
MIN:作

■ 第33章 終幕31

 居住区内を一台の大型トラックが走っている。
 ジェネシス運輸のトラックだ。
 この居住区内は、この業者のトラックしか走る事が出来無い。
 それは、この都市が特殊な都市だからだ。
 一般の何も知らない人達に、この市内での事を目撃させないためだった。

 運転手が道路を走っていると、歩道に犬を散歩させている、初老の男性が居る。
 初老の男性が散歩させている犬は、つがいの人犬だった。
 手足に、犬の足と手の着ぐるみを付け、高足の四つん這いで散歩している。
 運転手はハザードを付け、公園の中が見える位置でトラックを止め、休憩に入った。
 運転手が缶コーヒーを空け、飲み始めると初老の男性は、公園内に向かう。
(あの爺さんも好きだね〜…、確かこの2人は、自分の息子夫婦じゃないのか…)
 運転手は、初老の男性がそう言っていたのを、配送中に聞いた事があった。

 公園に入った初老の男は、同じ趣味の女性と談笑し、犬に向かって何かを言っている。
 犬の格好をした3匹の中で、雌は1匹しか居ない。
 その1匹がお尻を高々と上げると、女性が連れていた雄犬が雌犬のお尻に被さる。
[きゃう〜ん]と言う声が、車に乗っている運転手にまで聞こえた。
 すると、雌犬の首輪を初老の男性が引き上げた、持ち上がった雌犬の顔に、もう1匹の雄犬が近付いて、口を塞いだ。
 運転手は空に成った、コーヒー缶を運転席のゴミ箱に捨てると、車を走らせる。
(誰の趣味なのかね…。おっさんか、兄ちゃんか…、それとも嫁さんか…。まぁ、俺は羞恥プレーは良く判らんからな…)
 運転手はボンヤリ考えながら、配送に向かった。

 トラックが閑静な住宅街に入ると、運転手は住所を探す。
 運転手は目的地に着き、トラックを止めると、荷物を持って1軒の屋敷の玄関に立ち、インターホンを押す。
[武藤]と言う、表札の横に四角に十字の金色の金属が嵌め込まれ、その横に上下に8個ずつの数字が並んでいた。
 数字は1つずつ色が違い、赤、青、黄、緑、橙、紫、ピンク、白の8色だった。
 運転手はその数字を見て、[おっ]とした表情に成り、ニヤリと笑って時計を確認する。
(へへへっ、金印に赤の8か…、旦那の方は、橙と紫の6、ピンクと白が9か…奥さんは、橙、紫、ピンク、白が7だから、相当楽しめそうだな…。後は、幾つぐらいかだ…)
 運転手がその印と数字から、この家人の情報を読み取ると、ブツブツと呟いた。

 暫くすると、インターホンから
『は〜い…、どちら様ですか〜?』
 若い女性の声が流れてくる。
「はい、ジェネシス運輸です。お荷物をお届けしました」
 運転手は爽やかな声で、インターホンに用件を告げた。
『あ、どうぞ入って下さい〜』
 女性が運転手を招き入れると、運転手は鍵が開いた門扉を押して、庭先を進んで行く。

 玄関に立ち、ノッカーを鳴らすと、家の奥から[はーい、今開けま〜す]と先程の女性の声がする。
 運転手が玄関先で立っていると、扉が開いて30代前半の美しい女性が出て来た。
「お待たせしました〜」
 女性は優雅に頭を下げると、運転手に挨拶する。
「こちら、配送依頼のお荷物です。こちらの受け取りに、印鑑かサインを頂けますか」
 そう言って、運転手は荷物を差し出しながら、荷物の上に置いた伝票を示して言った。
[はい]と微笑みながら、伝票を取ろうとした女性の動きが、ピタリと止まる。

 女性は運転手の顔を驚いたように見詰め、頬を赤らめると
「あ、あの〜…、そのバッジは、本物ですよね…。お願いします、お相手をして頂けませんか…」
 女性はスッと土間に正座して、運転手に懇願した。
 運転手は荷物を下駄箱の上に置き、伝票を女性に渡して
「1時間程度なら、お相手出来ますよ。その前に、仕事を済ませればですが…」
 ニッコリと微笑んで、告げた。

 男の胸には上に真っ直ぐ伸びた、金色の四角いバッジと、赤い9と橙の9、そして紫のSと言うバッジが付いていた。
 十字のバッジは嗜好を表し、金色は[プレイOK]、銀色は[NG有り]、黒は[挿入無し]、白は[手出し不可]と区分されている。
 そして、数字は0から9で表され、その上にSとSSが有った。
 これらのランク分けは、厳正な試験の結果、認定され偽造不可能な技術で作られた、バッジを与えられる。
 因みに紫のSを持っているのは、この市内で50人足らず、SSに至っては5人しか居ない。

 女性は運転手の差し出す伝票を受け取ると、素早くサインして、押し抱くようにして運転手に返す。
 運転手が伝票を受け取り、ウエストバッグに入れると
「さぁ、休憩に入りましょうか…」
 ボソリと呟いた。
 女性の顔がパッと輝くように微笑むと、運転手は腰を屈めて女性の乳房を握り、引き上げて立たせる。
「あくぅ〜ん…、申し訳ございません…。直ぐにご案内致します〜」
 女性は謝罪しながら、イソイソと着ている物を脱ぎ捨て、全裸を晒す。

 運転手は廊下を歩く、女性の白いお尻を見ながら、女性の後をついて行く。
 この後女性は夫婦の寝室で、初めて逢った男に縄で縛られ、鞭打たれて潮を吹き絶頂に溺れる。
 運転手は若く美しい女性を蹂躙し、弄んで精を放ち帰って行く。
 女性はウットリとした顔で、パーソナルデーターの交換を求め、男は答えてやる。
 これで、この女性は男の求めに応じて、身体を開き奉仕を行う。
 男は女性の生活を壊さぬように配慮しながら、この女性を好きな時に弄べるのだ。
 この市内では、これはごく普通の光景である。
 サディストがサディストで有り、マゾヒストがマゾヒストでいれる町。
 1人が欲望を独占するのでは無く、欲望を共有する町。
 退廃と快楽の町だった。

◆◆◆◆◆

■つづき

■目次5

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊