三つの願い 〜男の夢〜
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■ 第四章 「第二の願い」27

 エレベーターは満員だった。
 乗っているのは女性…というか女の子、と言ったほうがいい若い子…が八割。もちろんほとんどが下着姿か紐に近い水着姿。何人かと肌が触れ合う感じになった。
 でも、あいかとはちょっと離れてしまったのは残念。

 一番上まで行った。あいかは勢いよく歩き始めた。僕は慌てて後についていった。

「閉店セール、多いねぇ」

 あいかがぽつりと言った。
 僕はこのような女の子の服をたくさん売っているところを歩くのは初めてだったので。ただ物珍しげに見ているだけだった(もちろん、女の子自体もちらちらとは見た)が、あいかの言葉に、改めて見ると、たしかにそういう内容のポスターが貼ってある店が多かった。

「みんなわざわざ服着たくないもんね」

 僕は一瞬どきっとした。服を着たくない…服を着ない状態でいたい…
 でも、改めて思い返した。大学の中とか寮とかで、服脱いだり着たりするのが面倒、という話、何度も聞いたなあ、ということを。
 みんな、特に若い人は、かも知れないけど、そう思ってるんだろうな。だから、しぶ○を歩く人も最低限だけ着てるんだなあ。

「そ、そうだね」

「着てなくても捕まらないようにならないかなぁ…だいたい、法律が古いよ…」
「そうだねぇ」
「でも捕まりたくないし。だから今日は脱ぎやすいパンティーを買いに来たの」
「脱ぎやすい?」
「ひもで結んでいるヤツ。わざわざ足を上げなくても脱げる…私何で今まで持っていなかったんだろう、って思ってね」

 それは、三日前まで、脱ぎやすい必要はなかったから…
 
 あいかは前を歩き、いくつかの店に入り、パンティーを選んでいるようだ。そうした、下着類とか水着とかをメインにしている店は、他より人が多く集まり、閉店セールではないようだった。

 エスカレーターで一階ずつ降り、また次の階を一回り、という感じで店を回っていった。

 そのうちあいかはまた一つの店に入った。
 ここはパンティーとかメインでは売ってなさそうだけど。

「さっちゃん! おつかれ! 忙しい?」
「あ、あいかさんじゃないですか! こんにちは〜見ての通り暇ですよぉ〜」
「ここでバイトしてるって聞いたから見に来たよ」

 そこには、午前中いっしょだった、さちこがいた。Tシャツにジーンズ、と前の世界の普通の女の子の服装だった(ただブラは外しているようだった)胸に店の名札を下げていた。
 さちこの言う通り、店には店員がもう一人いるだけで客はおらず、手持無沙汰そうだった。
「あ、まさるさんも。こんにちは」
「さちこさん、しぶ○に用事って、バイトだったの?」
「あ、バイトって言いませんでたっけ? そう。バイトなんですよ…あいかさん、まさるさんとデートなんですか」
「…ちょっとね」

 あいかはにこっとしてそう言った。
 ちゃんと肯定してくれないのがちょっと寂しい。まあ、合間に来てくれたんだ。しょうがない。

「ところで、この店大丈夫なの? 閉店多いみたいだけど」
 あいかはちょっと真剣な声になってそう聞いた。さちこは、あごに手を当ててちょっと下を向くような動作をした。

「残念ながら、ここも今月末で閉店です」
 さちこは左ななめ上、僕たちから見ると斜め後ろを指差した「閉店セール」の手書きのポスターが貼ってあった。
「そう…じゃあ、さっちゃん、このバイトも今月いっぱいになっちゃうの?」
「そう、失業ですよ。次どうしようかなあ、って」
 さちこは、努めて明るくそう言ったようだったが、顔は笑ってはいなかった。
「大変だよね…次見つかること祈ってるよ」
「ありがとうございます! …祈っていただけるついでに、何か買っていきません…? でも、着そうなのはTシャツくらいしか残ってないですが…安くしときますよ」
 さちこはここで笑顔を見せた。
「ありがとう。でもTシャツはとりあえずあるから大丈夫…」

 僕は、ちょっと考えて、身震いした。

 服が売れなくなったのは、僕たちの願いのせい?? …僕たちは、経済に悪い影響を与えて、こうしたクビになる人を出してしまいつつあるのではないか…

「まさるくん、行くよ」

 あいかにトランクスの上から棒を引っ張られて、僕の悪い考えはどこかに行った。
 
 そのうち、あいかは、5軒目くらいの店で、ひもで結ぶパンティーを試着してから3枚ほど買った(もとの世界では下着は試着できなかったはずだ、とあとですすむに聞いた。でもここでは何でも試着できるようだった)あいかは試着室に入った。しかし横では女子高生らしい子が突然パンティーを脱ぎ始めたのにはびっくりした。棒にも一気に血液が流れ込んだ。店員は「お客様、試着室をご利用ください」と一応言ったが、それ以上止めようとはしなかった。

 あいかはレジから戻ってきた。

「じゃあ行こう。ごめんね付き合わせちゃって」
「いいよ、ここに来られてよかった」

 実は、会ってからもう30分以上経っていた。もうセックスしないうちに1時間が過ぎてしまうのではないかと内心不安だった。

 でも一方では、こういう、一人では絶対来なさそうなビルに来られたのは、あいかのおかげ、というのも正直な気持ちとしてあった。

 あいかは駅と反対の方向に多少早足で歩いた。僕も後についていった。

 何人かの警官を見た。当然ながら警官の服装は変わらない。
 全身ボディーペインティングでよく見ると服を着ていない人とか、ブラが半分めくれたような状態で激しく胸を揉まれていた女の子とと揉んでいた男とか、が警官に注意されているようだった。

 あいかは、そのうちに細めの路地に入った。ここは…ラブホテル街??
 もちろん、ラブホテルなんて入ったことは無い。
 そういえば、僕は、セックスしに来たというのに、どこでセックスするのか、あまり深く考えていなかった。
 大学構内と同じノリで、その辺で適当にやるわけにもいかなそうだ。

「あいかさん…ホテル…行く…の?」

 僕は、ちょっと震えながら聞いた。
「うん。カラオケボックスとかも思ったけど、つかまっちゃう人の話も聞くしねぇ。トイレとかでも全然いいけど、せっかくしぶ○まで来たんだし…どっかトイレにする?」
「い、いや、それはホテルの方が、いいと思う…けど」

 ホテルって休憩でも数千円するのではなかったっけ? 学生に数千円はちょっと高い。しかも数十分だし。

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