三つの願い 〜男の夢〜
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■ 第四章 「第二の願い」32

 談話室でビール(なぜかりんこさんだけウーロン茶)を乾杯する。こういう構造も2階と3階で一緒だった。
 僕が一番奥の入口が見えるところに、前にりんこさん、右隣にけいこ、右斜め前にあつし。

 りんこさんは僕にいくつかの質問をしてきた。
 2SEのあいかさんとしほさんの学科メイトです…このくらいは本当だから答えられるのだが、架空の記憶の範囲になってしまう問いは、適当に流した。

「まさるくん、本当は正式にここの寮生になりたいと思ってる?」

 正式に寮生…女子寮の?

 それは思ってもみなかった。じゅんこさんに、単にカードがここで使えるようにならないのですか、と聞いた時の話でも、かなりハードルが高いだろうと言われているし。

 でも、そうならないよりは、なった方がもちろんうれしい。

 いちいち寮の食堂に行く時に誰かのカードを借りなくてもいいし、深夜に帰ってきても(そういうことはしばらくはなさそうだけど…あまりにここがいいから)自分のカードで玄関入れるし…なにより、正式にあいかと同じ部屋に住める! …まあ本人はあんまりいないかもだけど…
 …何より、そうなったらもう“誰かに招待してもらわないと”とか気にする必要なく、正々堂々、いつでもここに帰って来られる!

「ええ、もちろん、なりたいです。でも、なかなかハードル高いみたいですね。女子寮に男子、を大学側が認めるのは」

 あつしは、ここで一生懸命に会話に入ってきた。

「ぼ、ぼ、僕もな、なりたいと、お、思ってます…」

 ここでりんこさん、ちょっとニヤリと笑った。

「でも、一ついいニュースもある。建設中の(仮称)第二女子寮、知ってるでしょ」

 これは元の世界から知っている。女子が増えたから、大学敷地内に建設しているのだった。

「ええ、もちろん」
「そこが、書類上“(仮称)第三寮”にいつのまにか変わっているのが今日わかって」

「えっ、じゃあ、女子寮でなく男子も住める寮になるんですか?」
 けいこが身を乗り出して聞いた。
「まだそこまではわからない。変わったのは仮称だけで、たとえば“お風呂は1つ”のような設計は全然変わってないみたい」
「大学側、もしそうするなら、男子女子の入浴を時間で分ける、とか言うのでしょうね」
「まあ、そうなっても当然誰も守らないだろうけどね」

 りんこさんは再びニヤリと笑った。

「第三寮が男子も女子も仲良く一緒に住める寮になれば、寮増設の経緯を考えても、男子寮も女子寮も、男子しか、女子しか入れない理由は全然なくなる! これで三つの寮は全部男女混合に!」
「なってほしいですねえ」

 けいこがそう相づちを打った。

 あとで聞いたのだけど、りんこさんは、例の「ヘルメットに角材を持った」団体の幹部だそうだ。でもそれを前面に出すと引かれるので

寮ではあまり強調していないらしい。うちの大学では、学生代表として大学側と交渉できる権限をこの団体が抑えている。そのため、さっきのような裏話が早めに出てくるらしかった。

「でも、ここはなってほしいですけど…でも…女子で寮の空き部屋を待っている人が多いことは理解しているんですが…女子が今の男子寮に住むっていうのは、わたしからみると、ちょっと……男子がいっぱい、には惹かれますけどねえ…りんこさん、あれ、本当に大丈夫なんですか…」
 けいこは、ちょっと口を押さえるようにして笑ったあと、りんこさんの方を改めて見つめてそう言った。

 りんこさんは、にっこり笑って「心配しないで」のようなことを言った。

“ちょっと…”と言った意味はなんとなく想像がつく。

 男子寮に遊びに行ったことは、元の世界を含めてないが、男子が集まって住んでいる雰囲気は噂に聞いている。相当な散らかりぶりとか。元の世界でも多くの人は敬遠していた。

「男子寮には女子の実質寮生はいないのですか?」
 そうはいっても僕は質問した。女子寮に男子がいられるこの世界なのに、男子寮に女子がいないのは変なような気もした。
 りんこさんが答えた。
「うん、遊びに行くことはあっても、あの雰囲気だとなかなか居つかないみたい」
 りんこさん、ここで一呼吸おいて、
「それで、実は私たちは移住計画を持っていて…あ、しほさんから聞いてる?」
「いえ、全然」
「何人かの女子で、思い切って男子寮の実質寮生になって、男子寮の協力者と一緒に、男子寮を女子も住めるきれいな環境に改造しよう、っていうプロジェクトがあって、しほさんとかも賛同してくれているの」
「えっ、じゃあ、しほさん、男子寮に引っ越しちゃうんですか?」
「ええ。今月末で」

 しほ…まあ、割とボーイッシュな子だから、男子の中に交じってもそれほど違和感はないだろう…しかし、男子寮に引っ越すとは…これは当然、僕たちが世界を変えたせいだろうな。僕はちょっと申し訳なく思った。

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