三つの願い 〜男の夢〜
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■ 第四章 「第二の願い」45

 実際にはボロアパートの部屋の鍵は寮に置いてきたので、僕はいったん寮に戻ってから、すすむとともに、自分の部屋−悪魔さんのやかんがあるところ−に帰った。

 そして、僕はすぐにやかんを開いた。
 前回と同じように、稲妻が走って、雷が鳴ったような音がした。
 そして、悪魔さんは礼儀正しく現れた。

「いらっしゃいませ。この世界はお気に召しましたか?」

「いやあ、もう、ほんとに毎日が楽しいです! ありがとうございます」

 僕は、悪魔さんの笑顔につられて、現状の問題を一旦忘れてしまいこう言った。
 すすむが僕の肩を叩いて注意を促した後、こういった。
「あの、悪魔さん、コンドームが足りないんですよ。セックスが気軽にできる世界、なのだから、コンドームだって気軽に使えるくらいたくさんあってもいいのではないのでしょうか?」

 悪魔さんは笑顔のまま言った。
「お客様、申し訳ありません、我々は、物理的に無から有を作ることはできず、どちらかというとバケガク的な手段でお客様の願いをかなえるのです。すなわち、ある反応を促進したり抑制したりするのです。皆様の記憶を操作することも基本的にその延長上にあります。そのため、コンドームといったような物理的なものは、増えないのです」

 悪魔さんは「科学」でなく「化学」を表すため、バケガクと言った。

 悪魔さんなんて非科学的な存在からそんな科学的な? 言葉が出てきて、僕はちょっと首をひねった。

「無から有はつくれないんですか? あの、前回“車を出せる”っておっしゃいませんでしたか?」

 すすむはそう続けた。

 確かに言った。それで歩かなくなって堕落、というような例えで使ったのだ。

 悪魔さんは表情を変えずに続けた。
「はい、申し上げました。車を差し上げることはできます。確かに、文字通り出すために、いろいろな材料を少しずつ反応させたりして、だんだん車の形にしていくことも不可能ではありません。しかし、それよりは、車のディーラーの記憶を操作して、代金が入金されたように誤認させて車があなたがたのものになる方が、はるかに速いのです」

 なるほど。世界が変わっても、たとえば法律とかが変わっていない理由が、これで分かったような気がした。紙に書いてあるとか、コンピューターに入っていることは、変わらないのだろう。その後に誰か人が変えない限りは。


「では、仮に、コンドームを増やしてください、と願ったとすると、どういうことになるのでしょう? …あ、これはまだ、願いとしてカウントされませんよね」

 僕は言った。
「はい、大丈夫です。カウントされるのは、お客様が願いをここに記入してハンコを押したときです、そして、お客様、どの程度増やしますか?」

 確かにそうだ。

「ええと、例えば…世界中のセックス可能な…男性が、一日十個使っても大丈夫なように…とかですと…」


 ここで悪魔さん、数秒間“停止”した。
 計算か、または通信かしているのかもしれなかった。

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