三つの願い 〜男の夢〜
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■ 第五章 「裸、裸、裸…」1

 第二の願い“性病が無い世界”が受け付けられたあと、すすむは、寮に帰ってすぐにその辺にいた女子(もちろん顔見知りらしいが)を押し倒して、早速ゴム無しでやっていた。
 そして二、三日後には「全快だ」と言った。

 さちこもその頃には「医者から大丈夫って言われた」のようなことを言って、生で入れさせてくれるようになった。

 それから数日のうちに、性病は“昔あったけど今は大丈夫なもの”という意識が、特に若い人の間では広まったようだった。

 ネットのニュースによると、役所で“性感染症は撲滅されたと宣言するかどうか”という議論が行われているらしかった。
 科学的には、無くなったことは議論の余地がないが“宣言すると若者の性の乱れを助長する”という反対意見もあるという。

 これだけ“乱れきって”いるのに、お役人は何を考えているのだろう…と思った。


 性病が無くなっても妊娠はあるから、コンドームは必要で、不足は相変わらずだ。
 そのため「あたし危険日だからゴムつけて」よりも「外に出して」と言われる率が高くなった。
 すすむが言っていたように、誰もそれで不安を感じている様子はなかった。

 それでも、大臣がコンドームのメーカー幹部を集めて異例の増産要請を出したり、実際に新工場建設計画が出てくるなど、そのうち少しずつ不足は解消されそうな感じではあった。


 そのうちに6月が終わった。
 しほや、りんこさんなど何人かの女子は、例の“男子寮を女子も住めるきれいな環境に改造しよう”プロジェクトで男子寮に引っ越していった。
 引っ越し先は大学構内なのだし、しほは学科で会うし、りんこさんにしても、ビラを配っているところで会ったりするから、会えなくなるわけではない。
 それでも、空いてしまった場所は、ちょっとさびしい。
 まあ、しほが使っていた棚とかは、だんだん僕やすすむのものが並ぶようになるのだが。

 空きを待っている女子が多いはずの女子寮。空いたら、本来はすぐに他の女子が来るはずだが、大学事務の役所的な遅さにより、すぐには来ないようだった。
 そして、あいかはほとんど帰ってこないし、僕たちも寝るときは他の女子のところにいるわけなので、僕たち4人のしんしつは、しばらくはあまり使われないことになった。
 正規寮生の女子の友達が遊びに来た時とかは使うが、そう頻繁にあることでもない。


 そんなふうに女子が減った後でも、ますます男子は増えているような気がしていた。


 ある日、ゆみの中に発射した後、一緒に横になっているとき、僕はこう言った。

「何か、女子寮なのに、そのうち男子ばっかりになってしまいそうな気がする…」
 ゆみは言った。
「多分大丈夫ですよ」
 ここでゆみは一息入れて
「エントロピー増大の法則、って知ってます?」

 うっ、ゆみの理系トークが始まるのか…

「あの、僕、文系だからよく分からないんだけど…」
 ゆみはつづけた。
「エントロピー、っていうのは、乱雑さの度合いのことです。本当は原子とか分子とかの世界で使う言葉なんですけどね…」
「たとえば、暖かい空気と冷たい空気がそれぞれ部屋にあって、その間のドアを開けたら、両方の空気が混じり合うでしょう。暖かい空気だけで、冷たい空気だけで存在しているよりも、まじりあった方がエントロピーが高い、そういう、乱雑な方向に自然に向かう、というのが、エントロピー増大の法則なんです」

 そういう説明だったら、分かる気がする。

「なるほど」

「人間の行動は、本来その理論で説明するものでもないんですが、たとえとしては当てはまっていると思うんです。昔の女子寮のように、女子だけいたら、エントロピーが低い状態です。それが、だんだん男子が来るようになって、エントロピーが高くなっていきます。それでも、そもそも男子はセックスしにくるわけですよね」

 直接的だな。

「そうだなあ」

「男子の方が多くなったら、セックスしにくくなる人が出てきて、自然に他のところに行くことになるでしょう。そうすると、一番安定した状態は、男女半々くらいだと思いますよ」

「ああ、それは説得力ある」

 理系の言葉とか使わなくても、本当にそうなりそうな気がした。

「だから、しほさんとかが男子寮に行ったのは、ここも男子寮もエントロピーが増大する、自然な方向のような気がします。きっと遅かれ早かれ男子寮もかなりの割合の女子の実質寮生がいるようになりますよ」

 それは、まだ想像できなかった。

 でも、そういう話なら、だんだんそうなっていきそうな気もした。






「…その、会員制の温泉施設も、実は完全に合法なのか、は疑問があって。“会員制”ならいい、っていうことだったら、昔あった“ハプニングバー”の事件だって公然わいせつにはならないわけでしょう。それ知ってる?」
「はい、そういえば、ハプニングバーが取り締まられた話、聞いたことあります」

 僕は、じゅんこさんとしぶ○に向かっている。
「外出用の“旧水着”を買いに行きたいけど、一人で行ったらナンパが面倒だから」
 とつき合わされたのだ。

 こんなふうに女子と2人きりで一緒に歩くことは、今ではそんなに違和感なくできるようになっていた。
 これは元の世界だって、できる人はできたことだから、多分世界が変わったからではなく僕が変わったから、が大きいと思う。

 ところで“旧水着”という言い方は初めて聞いた。じゅんこさんが、水に入るわけでもないけど着る服、という状況をなるべく正確に表現しようとしてのことのようだ。
 他の人は、水着のことを単に“服”と言ったり、ちょっとにやっと笑って“水着”と言ったりしていた。
 “下着”もそんな感じ。
 あるとき誰かに、これを本当は何と呼ぶのか、と聞いたことがある。その人はちょっと考えて
「以前水着と呼ばれていた服…?」
 と言った。
 結局、あまり決まっていないようだった。

 さっきの温泉施設の話に戻ろう。
 せっかく法学部のじゅんこさんと一緒にいるので、こないだ疑問に思った会員制の温泉施設のことを聞いてみたのだ。

「あの業態は、今のところ全国でできているわけではなくて、数県にしかないらしいの。しかも一番需要がありそうな首都にはまだできていない」

 首都にできていない、と聞いて、僕の頭の中には、元作家という、保守的な、たまに暴言ともされるような発言をする、知事の顔が浮かんだ。


「あんな堂々と、違法な業態が出てくるわけは無いから警察もある程度認めているはずだし…警察の中でも、いくつかのところで実験的に認めてみているのかもしれない」


 こんな話をしながら、しぶ○に着いた。僕は周りに合わせてトランクス一枚になった。
 そして、じゅんこさんがTシャツを脱いだ下は…スクール水着!
 この世界でスクール水着は初めてみた。しかも大学の先輩が着ているなんて! ちょっとどきっとした。

「三のなんとか、とかの札は取ったけどね。でもさすがにこれじゃあ高校生みたいで」
 じゅんこさんはそう言って笑った。


 しぶ○の街中を見渡しても、やはりスクール水着の女子は、他には見当たらなかった。
 本当の高校生と思われる女子は、基本的には、水着ならビキニを着ていることが多いようだった。

  じゅんこさんの法律の話は歩きながらもまだまだ続く。
「そもそも公然わいせつ罪“公然とわいせつな行為をした者は…”というのが“わいせつ”って何? っていうことも含めて、結構よく分からない法律でね。あとは軽犯罪法“公衆の目に触れるような場所で公衆にけん悪の情を催させるような仕方でしり、ももその他身体の一部をみだりに露出した者”っていうのも、どういうのが“けん悪の情を催させる”のか、もあるし」

 じゅんこさんは、警察に呼びとめられている男女を見ながら言った。それ関連のようなのだが、この二人が何で呼び止められたのかはよく分からない。

 それにしても条文の一字一句をよく覚えている…さすがだ。

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