三つの願い 〜男の夢〜
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■ 第五章 「裸、裸、裸…」2

 僕は、聞いた条文を(頭に入った範囲で)頭の中で反復しながら、何気なく顔を上に向けた。駅前の大画面には、ちょうどこんな文字が流れていた。

「警察長官『性器の露出や性行為を不快に思う人多い』-国会答弁」


「頭の固い警察に恣意的に使われるより、やっぱり法律の方を時代に合わせて変えたほうがいい、と個人的には思う」
「…そうですねえ」
 そういえばあいかも「法律が古い」と言っていた。
「みんなわざわざ服着たくない」世界なんだ。当然、このようなことを思っている人は多いのだろう。

 国会でまで取り上げられるくらいだし。


「…まあ、あの国会で、すんなり改正されるとは思えないけどね」
「…そうですねえ」


 そんな会話をしながら、あいかと来た数字三文字のファッションビルの横を通った。
 このビルの前には小さいイベントができるスペースがある。今回はそこに人だかりができていた。

「…『新時代ファッションの提案』?? ちょっと見ていこうか」
 じゅんこさんはそう言い、方向を変えた。僕もついて行った。

 そのイベント? はちょうど始まったばかりのようだった。
 
「…最初に、全国服飾業協会 理事長の…さんから…」

 割と体格の良い、笑顔のおじいさんが現れた。服装は、クールビズではあるが普通のノーネクタイのYシャツだ。
 ちなみに司会の女性はビキニの「水着」だった。

 そして長い挨拶が始まった。
 まず、現状の若者のファッションの変化について肯定的に述べ「これまでの水着や下着を本格的に街着に…」的なことを言ったうえで
「そして私達は、時代にも法律にもあった新しいファッションを提案する、こういったイベントを順次開催しております」のようなことを言って挨拶を締めた。

 そして、ほどなく「水着」や「下着」のモデルが次々と登場した後…「新しい」というのか…なんとも微妙な服装の女性が次々と登場した。
 前の世界だったら、「芸術的」と思っただろう。そして、興奮したかもしれないくらいに十分な露出はあった。
 何か、服を切り刻んだような、またはどうやって着るのかよくわからないような複雑な感じの「斬新な」服が続いた。

「まさるくん、行こう」
 じゅんこさんが僕の手を引っ張った。

 人だかりから抜けて、じゅんこさんはいらいらしたように話し始めた。
「ファッション業界も、今の若者が、そもそも服を着ることとかに興味を失っているのが分からないのかな!」
「そうですねぇ…」
「まあ、スクール水着だとかっこ悪いとか、そういうちょっとのことはあるよ。それだって、イメージがあるからだし…ボディペインティングする人はいるのは、ファッション意識する人でも服じゃない方向に行っていることだし」
「そうなんですか」
「だいたい、もし『性器を露出が不快』と言うんだったら、ちょっとここだけ隠せばいいんじゃない、と思う」

 じゅんこさんはスクール水着の、その向こうに割れ目がある所を両手を隠すしぐさをした。

「男ならそれに近い服装OKなのに、女性は、胸を隠さないといけない、という解釈になっているのは、差別だよ、と前から思っている。そういうルールだから守るけどね。胸は性器じゃないっていう判例が西洋ではある。西洋では結構前から、女性でも上半身裸になってもいい、という運動とかあるけど、この国ではなかなかそういう方向に行きそうにないなあ…」

 そう言いながらじゅんこさんは目的地と思われるビルに入って、まっすぐに、目指したと思われる売り場に行き、2、3着のビキニを手にとって試着室に入った。そして僕を試着室に招き入れた。
 じゅんこさんは勢いよくスクール水着を脱いだ。
 寮で見慣れている姿だが、いきなり別の場所で見ると、心臓も高鳴る。
「苦しかった」
 じゅんこさんはそう言って、しばらく試着には取りかからず、くつろいだ感じになった。

 あまり書かなかったが、じゅんこさんは結構胸が大きい。何カップと言われても知識がないが。

 そして、どちらからということもなく、抱き合ってディープキスした。

 他の仲のいい女子とだったら、道中でいくらでもディープキスしていただろうが、じゅんこさん相手だとそうでもなく、ここで今日は初めてした。


「トップフリーOKになったら、私ブラなんて着けない! …私だけじゃないと思うけど」
 じゅんこさんは、外に聞こえない程度の声でこう言った。

 聞きなれない言葉だ。

「あの『トップフリー』って?」
「トップレス、っていう言葉は知ってるでしょ」
「はい」
「レス、っていうのが『あるべきものが無い』ようなマイナスのイメージなので、その言い替えとして作られた言葉」
「そうなんですか」

 帰ってから検索して、インターネット上のフリー百科事典の履歴から判断すると、僕は知らなかったが、前の世界から存在した言葉のようだった。

 そしてじゅんこさんは、僕の、法律解釈上、隠すべき場所を、トランクスの上からなでて、にやりと笑った。
「元気ね。言うことは?」
 
 予想はしていた。例によってじゅんこさんはこちらから言わせようとする。

 じゅんこさんとは、あの2日目以来だ。緊張はするが…やはり僕の体は求める。

「あの…あとで…僕と…セ、セックスしてください」
「よろしい。このあと、ホテル行こう」

 じゅんこさんはシンプルなビキニの「水着」を2着ほど買って、もう一回律儀に(その場で着替えている人もいるのに)試着室に戻ってそれを着た。

 そして、あいかと行った同じホテル街の、また別のホテルに入った。ここも1時間1000円で入れた。

 じゅんこさんは、部屋に入ってすぐ、ビキニをぱっと脱ぎ、ベッドの上に大の字になった。
 そして、叫ぶに近い大きな声で、こう言った。
「みんな、本当は、性行為したいから、邪魔な布なんて、つけたくないのにね!」
 そういって、じゅんこさんは、ちょっと口を抑えたような動作をした。
「あ、私が、したいわけじゃないよ。あくまでも一般論…」

 今までも、それっぽい話は、聞いてこなかったわけではなかった。
 でも大体「面倒だから」的な話だった。
 しかし、ここまではっきりと、しかもあのじゅんこさんから、聞くなんて思わなかった!

 僕のものはまた一気に膨張した。

 こんなことを叫ぶなんで、じゅんこさん、ルール、ルール、というけど、実は結構ストレスを溜めていたのかもしれない。

 僕もぱっとトランクスを脱ぎ、半分飛びかかるようにじゅんこさんの上に覆いかぶさった。
「私が、いれてほしいわけじゃ、ないんだからね…」
 僕はもう我慢できなくなっていた。
「はい、おっしゃるとおりです…じゅんこさん、いれさせてください」

 そして、暑い中を歩いてきた割には、シャワーも浴びずに、僕たちは「法律解釈上隠さなくてはならない」行為に及んだ。

 一回目が終わった後、じゅんこさんは僕を抱きしめ、こう言ってくれた。
「上達したね」
 そして、二回目はじゅんこさんが上になってくれた。

 そのまま延長したいような雰囲気にもなったが、帰ったらまた続きができる。1時間で僕たちはホテルを出た。
 行きとは異なり、仲のいい友達同士くらい、キスしたり服の上から触りあったりしながら帰った。

 寮に帰り、あらためて一緒に風呂に入って、2SEの談話室でもう一回、になった。



 談話室には僕たちしかいなかったのだが、直前まで誰かいたのか、テレビがつけっぱなしになっていた。

 特に見ても聞いてもいなかったのだが、そのうち、耳を引くチャイムの音が聞こえた。

「ニュース速報」

 なんだろう?
 遠方の気象警報のケースが多いが、重要なニュースのこともある。
 僕たちは動きを中断してテレビに顔を向けた。

「全国服飾業協会 理事長 贈賄の疑いで逮捕」
「警察長官 秘書 収賄容疑で聴取」

 あれ、昼間見かけた人?? とは思ったが、僕は“よくある話か”と思い、そのまま画面から顔を離した。


 そのときは、それだけだった。


 しかし、こんなことまでが、あの悪魔さんの思し召しであろうとは!

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