「脱ぎなさい」「はい……」
ドロップアウター:作

■ 恥ずかしいよ……2

 その後……真由子ちゃんは、白いインナーにも手をかけました。体の前で両腕を交差させて、たぶんおへそが見えるくらいまで引っ張り上げました。
 でも、そこで真由子ちゃんは手を離しました。もう一度、同じようにして裾をつかんだけれど……今度は少しも上げないで、また離してしまいました。
 痛々しい姿でした。インナーを取ったら、上半身が丸見えになってしまう。そう思うと急に恥ずかしくなって、なかなか脱げないのかもしれません。やっぱり真由子ちゃんにとって、それは辛すぎることなんです。
「パンツ以外は脱ぐんだぞ、森川」
 先生が、そんなこと本人だって分かっているのに、余計なことを言いました。真由子ちゃんは恥ずかしいから、真面目で女の子らしい性格だから脱げないんです。それを言うなら、さっきどうして男子に注意しなかったのって、腹が立ちました。
「はい……」
 真由子ちゃんは消え入りそうな声を発して、またインナーに手をかけました。
 でも、脱げなくて……真由子ちゃんは裾をつかんだ格好で、そのまま床にしゃがみ込んでしまいました。
 席を立って駆け寄ると、真由子ちゃんはインナーから手を離して、指先で目元を押さえました。押し殺すようなため息が漏れて、鼻の筋がちょっと濡れているのが見えました。
 真由子ちゃんは、泣いていました。ただ涙を流して、泣き声が漏れるのをこらえていました。わたしは、声をかけるのをためらいました。
 わたしを見ると、真由子ちゃんはまだ目元を涙で濡らしたまま、少し微笑んでくれました。でも、真由子ちゃんの細い足を見ると、両方の膝がかたかた小刻みに震えていました。自力では立てないと思います。よっぽど動揺しているんだって分かりました。
「利香ちゃんごめん……ちょっと立つの、手伝ってくれる?」
 手の甲で涙を拭いて、真由子ちゃんは小さな声で言いました。
「うん……」
 真由子ちゃんの肩を後ろから抱いて、倒れないように体を支えてあげました。インナーから露出した肩がとても冷たくて、わたしは抱きしめたくなりました。
 あっ……
 何とか立ち上がると、真由子ちゃんはもう一度インナーの裾をつかみました。そして、今度こそ……わたしの目の前で脱ぎました。「大丈夫?」って、声をかける間もありませんでした。
 横に立っているから、わたしは真由子ちゃんの裸を見てしまいました。自分でも言っていたけれど、まだ膨らみかけの小さな胸でした。同性から見ても、まだ幼さの残る身体です。足やお尻の脂肪も少なくて、お腹もそんなにくびれていません。
 でも、きれいって思いました。胸はそんなに大きくないけれど、他の箇所も脂肪が少ないから、すらっとした感じの体つきをしています。何より、真由子ちゃんは透き通るように白いつややかな肌をしていて、うらやましいくらいです。
 それに、こんなこと本人には言えないけれど……乳首がかわいいって思いました。乳輪はそんなに大きくなくて、ピンク色のちょこんとした感じです。真由子ちゃんはすぐ隠してしまったけれど、一瞬で目に焼きつきました。
 パンツ一枚の格好で、真由子ちゃんは頬を赤く染めて、すごく恥ずかしそうな顔をしました。また涙があふれて、真由子ちゃんの白い乳房の上に落ちました。
「また風邪引いちゃうね」
 わたしはいたたまれなくなって、つい場違いなことを言ってしまいました。
「うん。そうかも……」
 真由子ちゃんは左腕で乳房を押さえながら、涙交じりの声で言いました。
「その時は、また一緒に保健室まで来てくれる?」
 ばか。本当にそうなっても、知らないから……
 わたしは、もう何も言えませんでした。裸にされて、それでも必死で平静さを保とうとする真由子ちゃんを見ていると、なんだかわたしまで泣きそうでした。
 真由子ちゃんが服を脱ぎ終えると、先生は身体測定の記録カードを渡して、名前を書くように言いました。
 左腕を使えない真由子ちゃんは、右手でカードを受け取って、教卓の上で書こうとしました。でも、緊張して手が震えているせいか、カードを床に落としてしまいました。慌てて拾おうとしたけれど、片手ではうまくいかなくて、何度もつかみ損ねました。
「はい」
 わたしが拾ってあげると、真由子ちゃんはちょっと申し訳なさそうに、「ありがとう」と言いました。そして、教卓の上でカードに名前を記入しました。
 真由子ちゃんは書道を習っていたらしく、いつも先生にほめられるくらい字がきれいです。でも、片手だと紙が押さえられないから、字が乱れて何度か書き直しました。それでも精一杯丁寧に書こうとするのが、真由子ちゃんらしいなって思いました。
 名前を書き終えると、真由子ちゃんは上履きと脱いだ服を持って、いったん自分に席に戻りました。
 すれ違う時、真由子ちゃんはわたしに、ぽつりと言いました。
「恥ずかしいよ……」

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