お姉さんの種
一月二十日:作

■ 2

僕には楽しみが増えた。
いったいいつ人間の形になるのか分からないけど、毎日僕がちゃんと水を掛ければ、お姉さんの種は変わっていってくれてる。これはお姉さんの優しい部分だろう。
それに最近ここは暖かい。寝るとき布団が要らない。
こうして楕円形の下の方を抱えていればとても温かい。
パジャマも要らない。
楽しみは、こうして楕円形の下の方から上を見上げる時。変な毛があってその向こうがピンクで全体は透ける様な白で、そして青い血管が大きくなったり小さくなったり。
まだ巨大な乳房みたいな変な形だけど、それはそれである意味満足している。
だって僕より大きい身体の一部分って面白いから。
そこに全身でしがみついてあの先っぽを舐めて振り落とされることを何回も繰り返して、疲れて、そしてまた楕円形を抱えて眠るんだ。

ある朝楕円形に片手だけ生えていた。
それは確かに女の人の手だった。
白くて細いけど、触ったらとても柔らかかった。
まだ何も見えないからかその片手はしきりに宙をまさぐっていた。そのたびに楕円形の血管が浮いてドクンドクンしていた。
僕が手を握ってあげるとぎゅっと握り返してきた。
そしてドクンドクンも落ち着いた。
その手をあのピンク色のポチョっと突き出た所に当ててやると、とても慣れた動きでゆっくりと揉み始めた。
やっぱりお姉さんは気持のいいことを知っているんだ。
僕は少し離れて膝を抱えて座った。
片手はピンク色の突き出た所を手のひらでゆっくり揉んでいた。そのうちつまんだり引っ張ったりし始めた。
するとドクンドクンが大きくなって、楕円形はごろごろ転がり始めた。
ちりちりの毛が上になったり下になったりする。
時々勢い余っておしっこのシミだらけの壁にぶつかった。

そのうち楕円形は汗をかくようになった。
少しずつ人間に近づいてきた様だ。
僕はタオルを掛けてあげた。でも楕円形は嫌がってすぐに手で払いのけてしまう。
仕方がないからぽんぽんと拭いてあげる。
その間は楕円形は大人しくしていた。
まだ視覚も聴覚も利かないかも知れないけど、僕は拭く時に「きもちいい?」と声を掛けて笑っていた。
片手が生えただけで、楕円形はえらくお姉さんっぽくなっている。手も賢くなって、楕円形を起こして支える様になってきていた。
そしてそこうするうち、僕が帰るたびにもう一本の手、片脚、もう一本の脚が生えていた。
楕円形に手足が揃った。
でも脚はまだ自分が何者なのかわからないみたいで、ただいたずらに放り投げられているだけだ。
水遣りは相変わらず続けていた。
僕のおしっこがお姉さんには唯一の食べ物だ。

そしてとうとう、楕円形に目がひとつだけ出来た。
ただ忙しそうに瞬きしている。
脚は相変わらず投げ出されたまま。
手は重たい楕円形を支えてるだけ。
はっきり言って巨大な乳房に手足と片目が付いただけ。
そして意味不明の毛。
これが今のところの僕のお姉さん。
でも僕は最近この手に抱いてもらっている。
初めて目が現れた日に、目は僕をじっと見てた。
ただそれは僕を慈しむ様な目じゃなかった。
しきりに下の方を見てる。
あの毛の辺りだ。
身体を支える手が片方、そっちへ伸びようとして躊躇していた。
「あ、触りたいの? 姉さん?」
目は激しく瞬いた。
お姉さんはどうやらその毛の辺がどうなっているのか触りたいみたいだ。
「でもなんにも無いんじゃないかなぁ。」
僕は聞こえないだろうけどそう言って
「ま、いいか、うん、触ってごらん?」
と、躊躇したままの片手を掴んで毛の辺へ持って行った。
手は中指と薬指を立てて毛の下の方から何度も上下した。目は宙を見てうっとりしている。でもすぐに激しく瞬いて、僕を睨みつけた。
「え? 姉さんどうしたの?」
僕はお姉さんの手をのけてそこを触った。
毛の下はただの平面だった。
「あ、まだ出来てなかったんだね?」
そう言うや否や楕円形のピンク色の突起から甘い汁がぴゅーぴゅー噴き出した。
「ごめんね、まだ早かったね、姉さん。」
僕は蜜まみれになりながら必死になって楕円形におしっこを掛け始めた。

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