鬼の飼い方
鬼畜ヒスイ:作

■ 檻ノ弐・鬼には豆より縄を5

 ことは、俺が思っていたよりも早く訪れる。
 もう少しゆっくり懐柔していこうと思っていたのだが、昨夜と言い今日と言い、彼女が本質に目覚めるのは時間の問題と言えよう。彼女が本当の快楽というものを知らなかっただけか、それとも俺が思っていたよりも高いイニチアティブを持っていたのか、分からない。
 けれど、彼女はこうして俺の前に居る。
 初めは服を脱ぐように命令しても、昨夜と同じ反抗的な目を向けるだけだった。が、抗えぬと分かると直ぐにワンピースタイプのカットソウを脱ぎ始めた。コスモスの絵柄をあしらった秋物らしいワンピースが、クイナの手から床に落ちる。
 まあ、これがまた意外にも似合っていたので、脱がすのが勿体ないぐらいだったのは余談である。
 ワンピースの下から露になったのは、昨日とは違う真紅のブラジャーとショーツ。
 子供らしいあどけないワンピースと、大人びた赤の下着。決して交わると思っていなかった二律背反の容姿に、更に激情が高ぶるのだ。
「ぬ、脱ぐのか……?」
 ついつい舌なめずりをしていた俺に、クイナが恥ずかしそうに問う。命令されて脱ぐ恥ずかしさよりも、似合っていないのでは、と俺の凝視を勘違いすることに顔を赤らめているらしい。
「いや、そのままで良い。汚したくないのなら、脱いでも構わないけどね」
 相変わらず、こうなると口調が変わってしまう俺だった。
 それに、この微笑も、この狂喜も、本来の俺ならば浮かべることの無いものだろう。
 クイナは、これからどんなことをされるのか分からず、数秒ほど考えを巡らせてからそのままの格好で落ち着く。
 俺はクイナを立たせた格好で近づき、解けかけた荒縄を一本に解す。十メートル前後の荒縄を前に、クイナの顔が少し引き攣る。
「首を絞めたり、しないよな? い、命の保証は……?」
 やはり、クイナはそうした知識に乏しいようだ。
「大丈夫だよ。首には掛けたりもするけど、息が出来ないような締め方はしない。ほら、手を除けろ」
 ここまで来てさえ、俺の言葉を信じるつもりなのか、クイナは赤い下着の上から手を除けた。
 まず、半分に折った縄で輪を作り首に掛ける。そして胸部一つ、腹部に連なるよう二つ、下腹部に一つの輪を作る。次に股下を縄が潜ろうとしたところでクイナが足を閉じそうになり、太腿を平手で叩いてやる。
「痛ッ」
「閉じるな。今度閉じたら、首を絞めるぞ」
 俺が脅すと、恐る恐る隙間を作るクイナ。
 そうだ、その怯え恥じらいを堪える顔が良い。お飯事をするみたいにやっても、面白くは無いのだ。
 背中まで回した二つの先端を首の輪に通し、下ろしてきた先端を脇の辺りで二つに分ける。それを小さな双丘の上から胸部の輪に通し、何度か捻るように結びながら再び前へもって行き、双丘の下から輪に通す。それを今度は腹部と下腹部の輪にも通す。
 ここまでなら、まだ俺を叩きのめしてでも逃れられる。もし、このまま俺の思惑通りに行けば、彼女は飼い犬ならぬ飼い鬼として俺に跪くだろう。
「腕を後ろで組め」
 耳元で囁くようにして、命令してやる。
 クイナは擽ったそうに体を捩り、初めての縄の感覚に肩を跳ね上げる。それは、そうだ。動きに合わせて、縄が開き切っていない割れ目に食い込むようになっているのだから。ショーツを脱がせなかったのは、必要以上に割れ目を擦らない配慮でもある。
 まあ、布の一枚があっても縄の快楽を押し留めることなど出来ないのだが。
「ふぅ……ふぅぅ……」
 もう既に、襲い掛かる快楽にクイナの息は上がり始める。恐る恐る後ろに回された腕に、余った縄の結びつければ完成だ。
 正面に菱形が並ぶ割と有名な縛り方で、亀甲縛りと言えばその手の人間には直ぐ理解できるだろう。ちなみに、簀巻きにした程度なら、プロにでもなれば間接を外して脱出できる。が、こうした特別な縛り方というのは縄を切らない限りは抜け出せないようになっている。
 要するに、クイナは囚われの鳥として俺の目の前に佇んでいる。
「これはまだ緩い方だが、逃げられると思うなよ。それから、縄を身につけている間は俺のことを――」
 言葉を切って、クイナを強引に前に向かせた。
「――ご主人様と呼べ。分かったな?」

「……ッ!」
 初めて、クイナの顔が恥辱で染まる。
 セッ○スをする分には『恥』で留まるそれも、縄を打たれて格下に成り下がれば『辱』が付け加えられる。
 もう一人の俺は、その顔を見るのが大好きだった。俺とは違い、三度の飯よりも。
「どうした、このままの格好で一晩突っ立っているつもりか? 頼んでみたらどうだ、何なりと。お前のご主人様は、お前を苛めるのが大好きなんだぞ」
「だ、誰が呼ぶかッ! お前にお願いするぐらいなら、このままでも逃げてやるよ!」
 俺の言葉に喰いかかるクイナ。口ではそう言いつつも、足を動かす度に荒縄が割れ目を擦るのだ。逃げようにも逃げられず、ただ縄の快楽に顔を歪めるのであった。
 ならばこれならどうだ、と俺はクイナをベッドに押し倒す。無理に足に力を入れると縄が食い込むので、クイナは簡単にベッドへ押し倒される。
 俺はリュックから取り出したピンク色の、空豆大の玩具を手にベッドへ上がる。ダイヤル式のスイッチを少し回すと、ブーッと音を立てて震えだす玩具。それを、怯えてたじろごうとするクイナに近づけてゆく。
 足を掴んで逃げられなくする。眼前に近づいてくるローターから、クイナが目を逸らせる。僅かに、瞼の隙間から涙が漏れている。
「ひうッ。あ、あぁ……」
 目を逸らせている間に、ローターを膨れかけの乳房へ触れさせる。クイナが、鳴き声を上げる。
「ひあぁぁぁ――ッ! や、やめてぇ!」
 更に強く押し当てれば、嬌声と懇願が同時に漏れた。痛いわけでもなかろうが、くすぐったさと痛みの間に位置する感触が堰を切らせるのだろう。
「そうか、止めて欲しいか。じゃあ、止めてやろう。ただし、こっちは止めてやら無いがな」

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