鬼の飼い方
鬼畜ヒスイ:作

■ 檻ノ参・飼い鬼の刻印1

 それからというもの、俺とクイナの一つ屋根の下で行われた。既に宿泊を通り越し、自分の家のようにクイナは振舞う。
 俺が目を覚ませば、そこに風呂上りのクイナがいる。自分で服も着ずに居間までやってくるクセに、俺が目を覚ましていると顔を赤くして足蹴にしてくる。
 まあ、らしいと言えばらしいのだが、そうした態度が更にもう一人の俺の陰湿さを高めることをクイナは知らないようだ。
 例えば、
「早く飯ぃ〜」
 バイトから疲れて帰ってきた俺に、クイナは全く立場を弁えない言葉を投げかける。そんな彼女に、もう一人の俺はお仕置きと称して、縛り上げてから執拗にローターで恥豆や乳房を責め立てる。
 最初はローターの振動で軽く達するのだが、途中からは達する寸前でスイッチを切る。
「……?」
 怪訝そうな顔で見つめてくると、再びスイッチを入れて敏感な恥帯を責める。また、達しかけたところでスイッチを切る。それを何度か繰り返し、子供のようにクイナを焦らせて遊ぶ。
 恥辱で顔を紅潮させたクイナが顔を伏せても、もう一人の俺は彼女の心を読んでいるように絶妙なタイミングでスイッチを切り替えるのだ。
「イきたいのか? イきたいんだろ? ほら、なんてお願いするんだったかな?」
 執拗に焦らされ、恥壷から蜜を滴らせるクイナにその台詞を言わせようとする。何度か教えたにも関わらず、クイナは自らその台詞を口にしようとしない。
『お願いします、ご主人様。淫らな私に慈悲をお与えください』
 など、その時に多少の違いはあるものの、飼い主に対して敬意を払うように教えている。
「お願い、します……。どうか……な私にご、じひを……」
 モゴモゴと口を動かして羞恥に全身を火照らせるクイナを、観察してもう一人の俺は悦ぶ。悦に入る俺に対し、クイナは『鬼』なる眼光をぶつける。
「まだ、ご主人様への態度がなっていないな」
 それがまた、終焉を迎えぬ責苦の始まりとなるのだ。縄にしろ、玩具にしろ、所詮は仮初めの快楽にしか過ぎず、クイナの目が本当の快楽を切望し始める頃にようやく終わりは来る。
 息も絶え絶えになったクイナの割れ目に、俺の肉棒が突き刺さる。リズムも何も考えず、躾の反動で高まった欲望を吐き出すためだけに前後する。
 目の前でクイナが喘ぎ、苦しむことさえもう一人の俺には関係のないことだった。独り善がりの欲望で、愛しき少女の小さな恥壷に精をぶちまけて一日が過ぎる。
 そして、泣きじゃくる少女を俺が慰める。頭を優しく撫でて、耳元で愛を囁きながら。そうして嗚咽を収めた少女は、一日の疲れを癒すために俺の腕の中で眠るのであった。
 そんな流れを二、三日続けたある日、その日は訪れる。



 綱吉に躾けられながらも、彼との生活を始めて三日ほどが過ぎた。そんなある日の朝、クイナは珍しく昼過ぎになってから目を覚ます。
 昨夜も、日課のように受けた躾が軽い疲労となって襲い掛かる。縛り付けられた腕が凝り、締め付けられた体がヒリヒリと痛む。何度と無く絶頂を迎えて漏らした喉が、ハスキーに枯れてしまっていた。
 しばらくすれば今日の躾にも耐えられるだろうが、こう毎日となると辛いものがある。だた、クイナの口から休ませては貰えない。自分は綱吉に飼われている身であり、自分を躾けるか否かは彼の恣意にかかっているのだ。
 それに、綱吉がクイナを躾けしないといことは、彼が自分を見限ったということに他ならないからである。もし頼んで、綱吉が肯いたのならば、クイナは必要とされなくなったことを意味する。
「う、うぅ〜ん。おはよう……って、もうお昼か。ふあぁ〜」
 だらしない欠伸を噛み締めながら、窓際に立つ綱吉に挨拶する。
 綱吉は、振り向かずに遮光カーテンの隙間から外を眺めるだけだ。何を見ているのか分からないが、少し険しい表情をしている。
 そして、綱吉が振り向いて口を開く。
「クイナ、お前は帰れ」
「えっ?」
 唐突に出た綱吉の台詞に、クイナは戸惑う。
 帰れ、とはどういう意味なのか。何故、そんなことを言うのだろうか。
 クイナは戸惑いながらも綱吉の意図を読み取ろうとする。
(帰る……家に? 自分の家に帰れ、ってことだよね。どうして、帰らなくちゃいけないの?)
 クイナが帰るべき場所は、本来なら元々自分が住んでいた家だろう。そこへ帰るように言ったのは、分かるに決まっている。
 ただ、やはり理由が分からない。いや、もしかしたら考えたくなかったのかもしれない。なぜなら、綱吉がクイナを躾けないということは、それで二人の関係が終わったことになるからだ。
「ど、どうして? 私が、何か悪いことをした? まさか……え、でも……」
 やっぱり、三日も躾けられて、綱吉が自分の主人であることを認められないことに、彼は腹を立てたのだろうか。確かに、心のどこかでは自分と綱吉が対等な立場であることを信じたかった。

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