隷属姉妹
MIN:作
■ 第1章 悪夢の始まり3
◆◆◆◆◆
病院を出た恵美は、自宅に戻り、両親が何故あんな時間に車を走らせたか理解した。
叔母夫婦が、リビングで眠っていたからだ。
リビングには、父親の秘蔵の洋酒の瓶がゴロゴロと転がり、叔母夫婦はリビンリビングの床で大の字に成っている。
2階から、恵美の気配を感じた妹達が、泣きながら下りて来た。
2人共唇が切れ、頬や額に痣が出来ていた。
恐らく身体中にも痣が出来ているだろう。
この叔母夫婦は、どちらも酒乱で暴れ出したら止まらない夫婦だ。
叔母と言っても血の繋がりは、一切無く父親の祖父が再婚した連れ子である。
恵美の母親は孤児だったため、唯一の親類がこの叔母夫婦だった。
普段はこの家に寄り付きもしないが、たまに父親が不在の時を狙って押し掛けては、好き放題して帰って行く。
2人の妹達の姿を見れば、昨夜此処で何が有ったたか、手に取るように理解出来た。
恐らく押しかけて来た、この2人が暴れ出した為、両親に助けを求めたのだろう。
(この人達…この人達のせいで…、父さんと母さんが…)
恵美は怒りがこみ上げてどうしょうも無かった。
恵美はキッチンに飛び込み、包丁を手にするとリビングに戻る。
そのまま叔母の横まで歩いて来ると
「あんた達のせいよ…」
呟きながら、包丁を振りかざした。
それを見ていた中学に上がったばかりの好美が
「お、お姉ちゃん、何するの?い、嫌!止めてー!」
姉の行動を抱きついて止めた。
その時玄関から
「すみません、槇村さん宜しいですか〜」
声が掛けられたが、2人の耳には入らず、揉み合ったままだ。
玄関の声の主は、この揉み合った気配に異常を感じる。
声の主に取って、こう言った大事故の後、取り返しの付かない行動に出る者が居る事を経験で知っていた。
直ぐに土足のまま、玄関から声がするリビングに飛び込んだ。
「あわわっ!な、何をしてるんですか!」
リビングに入った男は、大の字に成った2人と包丁を持った恵美にしがみついた好美を見て、完全に殺人現場に鉢合わせしたと勘違いする。
男は腰を抜かしそうに成ったが、包丁を持っているのが、線の細い女性と見て、取り押さえに掛かった。
男は恵美の手首を注意深く握り、包丁の刃を背から掴む。
この時、初めて恵美と好美は男の存在に気付き、驚いて狼狽える。
その怯んだ瞬間、男は包丁を取り上げる事に成功した。
男はホッと胸を撫で下ろし、恵美に言葉を掛けようとした時
「うるせー!ったく、何を騒いでやがる」
大の字に倒れて居た叔父が身体を起こしながら、文句を言った。
男は死んでいる物と思い込んで居たため、相当驚いたが、職業がら直ぐに情報を分析し直して
「あなた方はどなたです?ここの家の方では、無いでしょう」
起きたばかりの叔父を、問い質す。
「あん?あんたこそ誰だよ!」
叔父は酔いで濁った目を向け、値踏みするように足先から頭まで不躾に睨め上げる。
普段は小心者でオドオドとしているが、アルコールが残っているせいで、態度が横柄なままだった。
男は包丁を呆気に取られて居る好美に手渡し、靴を脱ぎながら、スーツの内ポケットから名刺を取り出して恵美に渡し
「○○生命保険の門脇(かどわき)と言う者です」
丁寧な口調と態度で、恵美に自己紹介をした。
恵美に頭を下げた門脇は、叔父に向き直り
「槇村さんは、ここに居られる筈が御座いませんし、ご家族として登録されているのは、年齢的に言ってこちらの方でしょう。そうした場合、あなた方はご家族以外の方ですよね?そんな方がリビングで何故、眠られて居るんですか?」
にこやかに理路整然と質問する。
門脇の質問は、叔父の怒りを飲み込ませるのに充分だった。
「お、俺はこいつ達の親類だ。叔父が親類の家で寝てて何が悪いんだよ」
叔父は鼻白みながらも、門脇に食って掛かる。
「家人の許可無く、家屋に入り、家人の所持する物を摂取した場合、れっきとした犯罪に成るのをご存知ですか?」
門脇のこの言葉に、ギクリとしながらも
「俺は、ちゃんと許可を得て…」
門脇に反論しようとしたが
「嘘よ!玄関を開けないと火を付けるって、脅したから、仕方なく開けたんじゃ無い!」
好美が指を指して、可愛いらしい声で怒る。
叔父はチッと舌打ちすると
「パパの大事なお酒も勝手に飲んだのよ!愛美がダメって言ったのに何本も飲んじゃったんだから」
小学4年生の愛美が、好美の背中に隠れながら、追い討ちを掛けた。
叔父の顔が赤く怒りに歪む。
門脇は、ポケットから携帯電話を取り出すと
「取り敢えずこの後の言い訳は、警察で警察官にして下さい」
操作を始める。
「ま、待て。オイ起きろ!帰るぞ!」
叔父は慌てて、横に寝て居る叔母を起こした。
「う〜…、何よ〜」
叔母は頭を押さえながら、起き上がりまだ酔っている目で門脇を見る。
「帰るぞ!早くしろ!」
怒鳴りながら、門脇の横をすり抜け、ソファーに掛けた上着を手にリビングを出る。
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