隷属姉妹
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■ 第1章 悪夢の始まり4



 叔母は状況が把握出来無かったが、叔父の後ろに付いて出て言った。
 嵐の去った後のようなリビングで、門脇は恵美に向き直り
「これで、落ち着いてお話しが出来ますね。あっと書類、書類…」
 門脇はバタバタと慌てて玄関に向かう。
 門脇は暫くして、靴と鞄を入れ替えて、リビングに戻って来ると
「この度は、ご愁傷様でした…」
 深々と恵美に頭を下げた。
 恵美は釣られるように、頭を下げ返す。
「私、この案件の窓口として、当社から派遣されましたので、宜しくお願いします」
 恵美に説明すると、恵美は再び頭を下げる。

 ざっと片付けを終えた、リビングのソファーに座り、門脇の話を聞いていた恵美の顔が蒼白に成っていた。
 事故の過失は1対9で両親に有り、事故により被災したパチンコ屋から、5千万円の損害賠償を求められた。
 それは、両親の生命保険でなんとか賄えるが、事故の当事者に対する保証が、1千万円までしか出せない。
 つまり、残りは恵美が自腹で払わなければ成らなかった。
「まぁ、後遺症が残らない限り、それ程の金額には、成らないでしょうが、まだ精密検査の結果が出ませんので、なんとも言えませんね…」
 門脇が説明を終える。

 二階から聞こえる、好美と愛美の泣き声が門脇の胸を掻き乱す。
 そして、目の前で儚げに肩を抱く美女を押し倒したい衝動に駆られる。
(へっへっへっ…。本当に良い女だぜ…、旦那は本当に良い仕事回して呉れたぜ…。ガキ共相手だから、どうとでも誤魔化せるし、上手く立ち回れば、この女も喰える…。辞められ無いぜ、この商売…)
 門脇は恵美にかなりの嘘を吐き、自分の都合が良い事を恵美に吹き込んだ。
 門脇は札付きの交渉人で有った。
 保険の契約者を騙し、保険の配当金を減らすなど当然のように行い、絞り取れると分かれば会社と契約者の間に入り、保険の配当金をくすねる事までしていた。

◆◆◆◆◆

 門脇が帰った後、警察からの連絡を受け遺品を受け取り、病院で遺体の引き取り手続きを行った。
 葬儀業者を紹介され、葬儀の話を始める。
 遺体は葬儀業者の葬祭場に安置される事と成った。

 その同じ病院のある個室に門脇が居た。
「また、あんたかよ…」
 病院の寝間着を着て、ムチ打ちのギブスを嵌めた男は、ウンザリした顔で門脇を迎える。
「まぁ、そう言うな。あんたにも悪い話じゃないぜ…」
 ニヤリと笑いながら、男に話掛けた。
「って事は、今度の相手は、絞り取れる相手って事か?」
 男は途端にニヤニヤと下卑た笑いを浮かべ、門脇に問い掛ける。
「ああ、相当な…。そのためには、あんたに重傷に成ってもらわないと成らない…」
 門脇が告げると、男は顔を歪め
「はぁ?俺はこの通りほぼ無傷だぜ。このギブスだってただのポーズだし…」
 男がギプスを軽く叩き、不思議そうに言うと
「ああ、大丈夫だ。それは、こっちで用意してやった。あんたはただ寝てれば良い。陳さん、入ってくれ」
 門脇が入り口に向かって声を掛けると、扉が開き一人の老人が入って来た。
「陳さんだ。中国針の名人で、この人に針を打って貰う」
 門脇が紹介すると、陳と言う老人はあさっての方を向いて、ペコリと頭を下げた。

 白い杖を持った老人の黒いロイド眼鏡の奥は、何も映さないのだろう。
「早くして、ワタシ忙しいね」
 老人は木枯らしのような片言の日本語で、急かせる。
「この人の針で下半身の神経を麻痺させる。な〜に、あんたの主治医は、この病院の医院長の馬鹿息子で、筋がね入りのヤブだ。絶対に見破れ無ぇ。針を抜けば、元通りに成るし心配する事は何も無い」
 門脇が説明すると
「3ヶ月針入れたままだと、戻らないよ。ちゃんと説明するね。治らないと、ワタシヤブ扱いされるね」
 陳は補足説明して、門脇に文句を言った。
 男は一瞬顔を歪めたが、ニヤニヤと笑い
「あんたが此処まで準備したって事は、相当でかいな…。俺の取り分は幾らだよ…」
 門脇に問い掛ける。

 門脇は苦笑いを浮かべ
「500万円でどうだ」
 開いた手を突き出し、男に言った。
 男はピューっと口笛を吹き、クルリと腹這いに成ると
「おい、爺さんちゃっちゃとやってくれ」
 陳老人に言った。

 陳老人は男に近付きながら、上着から針を取り出し背中に手を当てる。
 暫く身体を撫で回し、尻の割れ目の根本辺りに、針を2本刺した。
 陳老人が針を打ち込むと男の左右の足から感覚が消える。
「うおっ!足の感覚が無く成った!」
 男は驚きながら、門脇を見ると門脇はニヤリと笑い陳老人と供に出て行った。
 門脇は陳老人に約束の金を払い追い返す。
(クックックッ、これで3千は堅いな…)
 ほくそ笑みながら、病室に戻った。

 門脇は病室に戻ると、男を仰向けにさせ
「俺が帰ったらこれでナースを呼べば良い」
 ナースコールを手渡し、踵を返し出て行った。
 扉が閉まる瞬間
「上手くやれよ」
 門脇は男に釘を刺し病院を後にする。
 かくして男は事故の後遺症として、下半身不随と診断され、重度の後遺障害者と成った。

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