隷属姉妹
MIN:作
■ 第1章 悪夢の始まり10
ミーティングが終わり全員が報告と申し受けを済ませると
「槇村さん、前に出なさい」
妙子が静かな声で恵美に命令する。
恵美はその言葉に頷き、イソイソとホワイトボードの前に出て、俯きがちに立った。
「みなさん、今日からこの整形外科で勤務する槇村恵美さんです。彼女はまだ入ったばかりで、見習い看護師の[就労教育]がされていません。そのつもりで宜しくお願いしますね」
妙子が恵美を紹介する。
青服の看護師達は一瞬刺すような視線を恵美に向けたが、妙子の紹介で納得したように頷く。
ピンク服の看護師達の目には、何故か同情の色が強く浮いていた。
妙子の紹介が終わると、40代後半の恰幅の良い医師がスッと立ち上がり、恵美の前に進み出ると
「樫村だ。整形外科の副主任をしている」
恵美の右手を取り握手して、ナースセンターを出て行った。
すると、もう1人の30代後半のひょろりとした医師が立ち上がり、同じように恵美の前に来ると
「杉本です。良いな〜僕も早くお近づきに成りたいや…」
恵美の身体をジロジロ見て、握手をして出て行った。
杉本が出て行くと妙子が口を開き
「後、お3人居ます。平田医師はもう外来の方に詰められてますし、山本医師は夜勤ですので、明日の朝ご紹介しますね。殿村医師は今日はお休みです」
後3人整形外科医が居る事を教えた。
(殿村医師って…ひょっとして、この間の…)
恵美は妙子の言葉を聞いて、事故があった日に出会った、30代半ばの医師を思い出す。
恵美が襲われ掛けた時の事を思い出し、ブルリと背筋を震わせると
「正看護の右田(みぎた)よ、よろしくね」
いつの間にか30代後半の青服の看護師が恵美の前に立ち、見下すような目線を向け、恵美に右手を差し出していた。
恵美が右手を握ろうと前に出すと、右田はスッと手を引き、指先だけで軽く摘んで、握手を終わらせる。
青服の他の看護師も、皆同じように指先だけで握手をし、スッとカウンターの方に移動して直立した。
青服の看護師の挨拶が終わると、次はピンク服の挨拶だった。
「見習いの、相田恭子(あいだ きょうこ)です。宜しくお願いします」
20代後半の可愛らしい顔をした看護師は、両手でしっかり恵美の右手を握り、深々と頭を下げて自己紹介する。
「見習いの、河合紗智子(かわい さちこ)です。どうか宜しくお願いします」
30代前半のスラリとした看護師も、同じようにしっかりと握り、深々と頭を下げる。
木下と村上と名乗った看護師達も、皆一様にしっかりと手を握り、深々と頭を下げた。
その場にいた全員の看護師がそれぞれ挨拶すると
「あと、2チーム11人の看護師が居るわ。今日は深夜勤と休みの日だから、明日以降紹介するわね」
妙子が残りの看護師について説明した。
恵美が頷くと、右田がスッと前に出て
「槇村さん。これだけは先に言わせて。貴女、総婦長様に対して失礼よ。何、その頭の下げ方」
恵美に対して鋭い口調で注意を与える。
恵美はその剣幕に慌てて
「すみません」
深々と頭を下げた。
「出来るなら、最初からしなさい!」
右田が捲し立てようとすると
「右田さん…。私、言ってなかったかしら…、まだ[就労教育]が終わって無いって…」
静かに妙子が右田に囁く。
右田はビクリと震え、妙子に向き直ると深々と頭を下げ
「も、申し訳御座いませんでした」
妙子に謝罪し、口を閉じて元の場所に戻る。
一瞬でナースセンターに、ピリピリとした雰囲気が満たされる。
だが、そんな雰囲気を妙子はフッと微笑む事で霧散させ
「班長の貴女が気になるのは分かるわ。でも、物事には順序も必要よ…」
右田の出過ぎた真似を許し、注意を与えた。
「はい、承知致しました」
右田は深々と頭を下げて、妙子の意志に従う事を示した。
自分の行動で、張りつめてしまった空気を緩和してくれた、妙子に感謝しながら、恵美は深々と頭を下げる。
すると、スースーとお尻を空気が撫でて行く。
ハッと気付いた恵美が、慌ててお尻に手を当てると、お尻は1/3程外に出ており、自分が下着を着けていない事が丸分かりに成っていた。
慌ててスカートの裾を掴んで降ろし、気を付けの姿勢を取る。
(頭を深々と下げたら、2回が限界よ…。お尻が丸見えに成るわ…)
恵美は青い顔で、自分の頭の中に注意を刻みつけた。
「あ、それと…、彼女の制服。小さいようだから、時間を見て見繕って上げて…」
妙子は右田に告げると、スッと席から立ち上がる。
恵美は妙子の言葉を聞いて、ホッと胸を撫で下ろし、深々と頭を下げ
「あ、有り難う御座います。婦長様」
他の看護師と同じように、妙子を様付けで呼んだ。
「総婦長様よ…[そ・う]…」
右田が鋭く、恵美の言葉に足りなかった部分を指摘する。
恵美は弾かれたように頭を持ち上げ、ハッと驚いた顔を浮かべた後
「申し訳ありません、総婦長様」
再び勢い良く頭を下げた。
その瞬間、恵美の真っ白なお尻が、ツルリと顔を出す。
恵美は慌てて頭を上げて真っ赤に染まった顔を見せ、スカートの裾を引っ張って元に戻す。
だが、看護師達は、恵美が下着を着けていない事に、初めから気が付いていた。
それは、薄い夏用の看護服の場合、どうしても浮かんでしまう下着の線が、全く無いからである。
しかし、看護師達はそんな事一切気にとめない。
この病院では、そんな事日常茶飯事だったからだ。
[あぁ〜、何かの罰を受けてるのね…]そんな、単純なノリである。
■つづき
■目次
■メニュー
■作者別