隷属姉妹
MIN:作
■ 第1章 悪夢の始まり13
◆◆◆◆◆
午後に成ると、妙子がナースセンターに入った来た。
妙子が登場するとナースセンターに、ピリピリと緊張が走る。
「午後からの往診には、私も同行しますね」
妙子が静かに宣言すると、3人の看護師は一斉に頭を下げ
「はい、総婦長様。よろしくお願いいたします」
声を揃えて、妙子に告げる。
恵美も見よう見まねで頭を下げ、何とか違和感なく声を合わせられた。
人は新しい環境に入ると、それに馴染もうと同じ行動をする。
そう、人は孤独に耐えられない生き物だからだ。
恵美も同様に、集団に溶け込み、同一化しようと無意識に、行動を合わせ始める。
午後の往診は、個室の患者に対する物だった。
現在個室には5人の患者が入っていた。
[B個室]と呼ばれる個室に3人、[A個室]と呼ばれる個室に2人。
[B個室]と呼ばれる個室は全部で15室で、それぞれ6畳程の広さに、トイレと洗面台が付いた物で、[A個室]はその倍の広さに浴室まで付いている。
内装も、ホテル並みの豪華さだった。
笠原が入っている個室は[B個室]で、それでも1日当たり、3万円の個室料が必要で、[A個室]は金額の見当すら付かなかった。
まず最初に[B個室]の診察から始められ、笠原の部屋には3人目に入る。
「およ?姉ちゃんここで、何してんだ?」
笠原は恵美を見て開口一番、驚きながら問い掛けた。
「こんにちは、私は今日からこの病院で勤務するように成りました。どうか宜しくお願いします」
恵美が深々と頭を下げて、笠原に告げると
「へへへっ、何だ…。良い練習が出来るじゃないか。しっかり、看護頼むぜ…」
笠原は意味深な口調で、恵美に告げた。
恵美は表情を硬くしながら、頭を下げ
「は、はい…。誠心誠意、務めさせて頂きます…」
蚊の鳴くような声で、笠原に答える。
この遣り取りを聞いていた、妙子の目がキラリと光り、2人を探るような目で見詰めていた。
診察は、笠原の下半身麻痺の回復を調べる物だったが、どんな治療も笠原の麻痺に反応しない。
杉本は頭を抱え、溜め息を吐きながら
「まるで、どこかで脳の指令が止まってるみたいだ…。こんな症状は初めてだな…。どこかが切れてる訳でもない…、怪我をしている訳でもない…。う〜ん分から無い…」
腕組みをして、右手で口元を押さえながら呟く。
この時、妙子は俯せに成った、笠原の尻の割れ目の付け根に、有る物を見つける。
それは、MRIの画像を見て、気になっていなければ、注意も払わない変化だ。
だが、妙子はそれに気が付いた。
笠原が針を打ち込まれた場所は、まるで注射を射たれたように赤く腫れている。
それは、そこに異物が入り、化膿している証拠だった。
妙子は[フフン]と鼻で笑い、MRIの画像を右田に渡すと、スッと笠原から視線を外す。
(確か、針で神経をブロックする技術が有ったわね…。そう、そう言う事をしてるんだ…。それで、この子達からお金をむしり取る算段ね…。って事は、頻繁に来てた、あの保険会社の奴も絡んでそうね…)
妙子は門脇と笠原の関係と思惑を嗅ぎつけた。
妙子の唇がキュウッっと三日月型に持ち上がり、邪悪な微笑みを浮かべる。
(こいつらを上手く使えば、この子は簡単に堕とせそうね…。こんな綺麗な子なんだもん、人気者に成るわよ…)
妙子は笑みを掻き消すと、スッと硬い表情の恵美を盗み見た。
笠原の部屋を出て更に廊下を進むと[関係者以外立ち入り禁止]と、看板が貼ってある扉があった。
廊下を区切るその扉の向こうが、[A個室]と呼ばれる病室だった。
恵美は[A個室]の患者に紹介され、挨拶を済ませる。
この個室はどうやら、VIP専用の個室のようで、入院していたのも、大会社の社長と古手の県会議員だった。
舐めるような目線が気に成ったが、午前中に感じた刺すような目線より幾分マシだった。
深々と頭を下げて退出すると、恵美はこの挨拶にも意味を感じる。
(そうか、あんな偉い方達を看護するんだ…。こうやって、礼儀を身に付けるのは当たり前なのね…。厳しい規則も必要に成るわ…)
自分で勝手に理由を付けて、恵美は異常な環境を容認していった。
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