隷属姉妹
MIN:作

■ 第1章 悪夢の始まり14

◆◆◆◆◆

 夕方の5時に成ると、妙子は恵美に向かって
「槇村さん、今日は上がって良いわ。ご苦労様」
 にこやかに微笑みながら、就業の終わりを告げた。
 恵美はキョトンとした顔で、妙子を見詰めたが
「貴女は暫く5時上がりよ。夜勤にも就く必要はないし、土日は休んで良いわ」
 妙子は優しげな表情を浮かべ、静かに告げる。
 驚いた顔をしたのは、右田を含む看護師全員で、妙子の顔を凝視していた。

 だが、そんな視線も振り返った妙子の目線を見て、微塵に消える。
 妙子が看護師達に向けた目線は、酷薄な支配者その物だったからだ。
 恵美は妙子のそんな変化には、一切気付いて居らず
「お、お疲れ様でした」
 深々と頭を下げて挨拶をし、指示通りナースセンターを後にする。

 恵美を見送った妙子は、ユックリと看護師達に向き直り
「良い。これから、私が許可を出すまで、あの子に業務以外の事を吹き込んだら、重い罰を与えるわ…。右田、お前は十分に注意しなさい。余計な事は一切しない事、じゃないとお前の嫌いなピンクに堕とすわよ、分かった!」
 鋭い視線で睨め付け、一喝した。
「は、はい〜〜〜っ、絶対に致しません〜〜〜っ。私には、夫と子供が居ます、それだけは、ご勘弁下さい。お願いします〜っ」
 右田は妙子の言葉に震え上がり、深々と頭を下げて懇願した。
「恭子と紗智子、お前達もだよ!立場が同じだからって、ベラベラ喋ったら、地獄のフルコースに叩き込むわよ!」
 相田と河合は真っ青に成り、ガタガタと震え
「言いません。何も言いません!絶対誓います」
 その場に崩れ落ち、土下座の形で妙子に誓う。
 妙子は他の2人の看護師も、冷たい目線で威嚇して竦み上がらせると[フンッ]と鼻を鳴らし
「他の全員にも徹底させなさい。良いわね!」
 鋭い語気で、通達するとツカツカとナースセンターを後にする。

 妙子は様々な恐怖を操り、病院中の看護師を牛耳っている。
 それは、雇用、待遇、恥辱、暴力、有りとあらゆる恐怖を巧みに使い、人を操り縛り上げていた。
 後に残された5人は、恐怖感から暫く業務に戻れない。
 5人がやっとの思いで、業務に戻れたのは、タップリ5分間震えた後だった。
 5人は大きく溜め息を吐き、申し送りの準備に取り掛かる。
 交代の時間までそれ程、余裕は無かった。

 恵美は更衣室に着くと、今日有った事を反芻する。
 先ず第1に[総婦長は怖い]で有る。
 それは、至極当然で的を射ているが、その深さまでは全く理解していない。
 次に浮かんだのは[規則が厳格]である。
 これは、的を射ているようで少しずれていた。
 何故なら、厳格な規則の内容自体、かなり特異な事に気付いていない。
 そして、最後は[看護師達が若い]で有る。
 恵美が今日見た中で40歳を越える看護師が、1人も居ないのだ。
 その上、ピンク服を着た者は、好みの差異は有るが、皆美人でスタイルが良い。
 スタイルが良いで感じた事だが、太った者が居ないので有る。
 精々居て、ポッチャリ型で、肥満の者は1人も居なかった。
 恵美は不思議に思ったが、この病院の裏を知れば、自ずとそれは判ってくる。
 迷宮に迷い込んだ恵美は、これからドンドンこの病院を理解し、深みに追い立てられるのだった。

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