隷属姉妹
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■ 第2章 支配の檻1

 恵美が殿村総合病院に勤務し始め3週間が経った。
 殿村総合病院の特異な雰囲気にも慣れ、少し心的余裕が出始めていた。
 罰則は厳しく、遅刻などしよう物なら、酷い体罰を受ける。
 それが日常化し、恵美に植え付けられた頃だった。
 主治医の殿村の判断で、笠原の退院が決まる。
 理由は[長期的治療が必要で有り且つ緊急性も無い為、在宅医療に切り替える]と言う物であった。

 その判断が為されて即日には笠原の退院手続きが行われ、翌日に退院となった。
 これは、妙子が笠原に許可を出したピンク服の看護師達が、相当疲弊した為だった。
 笠原の性癖は、暴力や脅迫による精神圧迫、いわゆる[拷問]好きで、どこまでも追い詰めて行くのが好き]である。
 そのため、ピンク服の中には、使用に耐えられるまで、長期の休養または、再教育が必要になる者が少なからず出た。
 妙子は注意事項に[精神]の保護を入れなかった事を深く後悔し、怒り心頭で病院から早々に追い出したのだ。

 笠原は病院の介護用の車で送られ、恵美の自宅に入った。
 笠原が玄関を潜ると、好美と愛美が待っており
「ようこそいらっしゃいませ。これから、よろしくお願いします」
 可愛いらしく頭を下げ、挨拶した。
「あぁ、よろしく頼むな…」
 笠原は車椅子に座り、ニヤニヤと笑いながら2人に返事を返す。
 2人はその笑顔を見て、自分達の笑顔を引きつらせる。

 そんな2人を見て慌てた恵美は
「さぁ、さぁ。笠原さんをお部屋にご案内するわよ」
 車椅子を押して笠原を中に運んだ。
 好美達も納得して笠原を迎えたのだが、笠原の持つ雰囲気は少女達には、恐ろしくて仕方が無かったのだ。
 恵美は笑顔を取り繕って、笠原を一階の奥へと案内する。
 恵美が案内した部屋は、両親が使って居た寝室で、12畳の洋室だった。
 好美達は大反対したが、他に一階に有る部屋は、20畳のリビングと8畳の客間、それにトイレ、風呂、キッチン等の水まわりだけだ。
 その上8畳の客間も、笠原のアパートから引き揚げた荷物が入っており、介護するスペース的にも両親の寝室を明け渡すしか無かったのだ。
 恵美にしても、両親の思い出深い部屋を明け渡すのは、断腸の思いで行った決断だったが、下半身が動かない笠原の介護には仕方が無い事だったのだ。

 恵美が、笠原を寝室に案内すると、笠原の携帯電話が鳴る。
 サブディスプレイには、[門脇]と浮かび上がっていた。
 笠原は慌てて電話を取ると、恵美は気を利かせて、スッと離れていった。
『おぉ…、女の家に着いたか?』
 門脇が問い掛けて来る。
 笠原は、恵美に聞かれ無いように注意しながら
「あぁ、今部屋に案内されてる…」
 ぶっきらぼうに答える。

 離れて行ったと言っても、恵美はまだ数m先に立っている為、会話の内容が分かるような遣り取りは出来無かった。
『って事はそこに、居るんだな…。じゃぁ、黙って聞いてくれ。今日、俺の知り合いをお前の所に送る。パンチの効いた奴達だから、ビビるなよ…。そいつらには、お前の退院祝をするように、言い含めて有る。かなり下手に出て来るから、お前は出来るだけ横柄に振る舞って、そいつらの話しに併せるんだ』
 門脇は、まくし立てるように笠原に小声で告げると、電話を一方的に切った。
 笠原は何の事だか、意味が分からなかったが、取り敢えず、心づもりだけはした。

 笠原が携帯電話を片付けると、気を聞かせていた恵美が近付いて来て。
「あ、あの…。今日、笠原さんの退院を祝って…。ささやかですが、パーティーを開きたいと思っているんですが…」
 恵美が笠原に問い掛ける。
「んっ。あぁ、構わないぜ…。丁度今の電話も俺の知り合いからで、祝いに来るって話だった」
 笠原は恵美に予定を告げた。
 恵美は、一瞬ドキリとしたが笑顔を作りながら
「じ、じゃぁ。一緒に祝えますね」
 笠原に告げる。
(えっ、どうしよう…。男の人かな…女の人かな…。何人ぐらい来るんだろ…。お料理間に合うかしら…)
 恵美は、パーティーの心配をする。

 だが、それを告げた笠原自体、かなり心配していた。
(かなりパンチの効いた奴達?門脇が何考えてるかわかんねー…。ったくどうしろってんだよ…)
 門脇の真意を掴みかね、笠原はブスリと不機嫌な顔をする。
 恵美は笠原の表情の変化を、寝室が気に入らなかったと誤解し
「あ、あの…。すみません…、でも、この部屋しか使える部屋がないので…」
 笠原に詫びると、笠原は恵美の言葉に悪い虫が騒ぐ。
「あぁん…。あんた、まさかここに、俺1人置いておけば良いと思ってるだろ?それで、誠心誠意の看護って言えるのかよ。病院の時は、ナースコールで直ぐに看護師が飛んで来てくれたけど、ここも、そういう風にしてくれるんだよな」
 恵美は笠原の言葉を聞き愕然としたが、直ぐに俯いて
「あ、あの…、私が責任を持って、善処します…」
 小さな声で、笠原に約束した。

 だが、笠原の攻撃はそれだけでは、止まらなかった。
「あんたよ…、何か勘違いしてないか?俺が説明してやっても良いが、俺の説明じゃ信用できないだろ?あんたに渡した契約書、アレ持って弁護士先生にでも話を聞いて来いよ。面白い話が聞けるぜ…」
 笠原は恵美に酷薄な笑みを浮かべ、顎をしゃくって促した。
 恵美は顔を強張らせ、笠原の言った言葉の意味を計りかねている。
「ま、あれだ、自分達の立場は、良〜く理解してた方が良いぜ。俺も、その方が気が楽だしな…」
 笠原はニヤニヤと笑いながら、恵美に告げた。
 恵美はその表情を完全に強張らせ
「えっ、あっはい…それじゃぁ、聞いてきます」
 固い声で笠原に断って、契約書の写しを持って出て行った。
 その恵美の背中に、笠原の哄笑が降り注ぎ、恵美の不安感は膨れ上がって行く。

 恵美は駅前で手近な弁護士事務所に入り、無料相談を申し込む。
 30分は無料で法律の事を相談できるサービスを使い、契約書の中身を詳しく聞いた。
 恵美が応接室で待たされていると、暫くして50歳ぐらいの弁護士が応接室に入って来て
「30分は、無料で相談を受けますが、それ以上は有料に成ります」
 そう言いながら、恵美の正面のソファーに腰を掛ける。
 恵美はその言葉を聞き、慌てて鞄から契約書の写しを取りだして、弁護士に見せた。
 弁護士はその書類を手に取ると
「あ〜ん…。これは、公正証書だね。ふむ、何々…」
 一目見て、その契約書の種類を告げ、内容を読み始めた。

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