隷属姉妹
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■ 第2章 支配の檻3

 男達はペコリと頭を下げ、いやらしい目を恵美に向け、舐め回すように見ながら
「1億円だと大体は、国内の金持ちですね…。まぁ、相当なサディストが飼ってくれるでしょう。1億5千万円以上だと同業や海外の富豪ですね。同業者の場合はアングラビデオの女優なんかだし、海外だとまぁ国に依りますけど、大概家畜以下のおもちゃです」
 背の高い方が、笑いを含んだ低い声で呟くように言うと
「ビデオ女優さんは凄いよ、何でも有り有りだからね。輪姦中出しなんて勿論だし、臨月の腹でも輪姦されて、堕胎ショーなんてのも有ったな。ビデオの10本も撮影したら、身体はボロボロで殆ど原型は残って無ぇな。でも、海外の富豪よりはマシかな。なんせあっちの奴らは、金で買った女なんて人間と思って無ぇから、死んだ方がマシって扱いはザラみたいだぜ」
 太った方の男が少し高い声で、楽しそうに恵美に教える。

 笠原はクイッっとビールを煽り
「俺は誰がどう払っても構わない。3人で国内の金持ちに就職するのも、2人で1億5千万円ずつ払うのも、1人が3億円背負い込むのも、全く気にしない。こいつらの親分は、好きな就職先を紹介してくれるぜ…」
 ニンマリ笑って恵美に告げた。
 恵美はクラクラと目の前が回っている気がした。
 足下がフワフワと頼りなく、直ぐにでも座り込みたい不安感に襲われる。
 全身が小刻みに揺れ、どうして良いのか分からなくなった。
 恵美は卒倒しそうな程、顔面を蒼白にして笠原を見ていた。

 笠原は呆然と見詰める恵美に、スッとグラスを差し出し
「取り敢えず、酌ぐらいしろよ…。さっきから、ビールが空だぜ…」
 恵美にビールをつぐよう命じる。
 恵美はその声で何とか我に返り、目の前に有ったビール瓶に手を伸ばし、笠原に差し出す。
 笠原の手に持つグラスに、ビールを注ごうとするが、カチャン、カチャンと派手にグラスと瓶がぶつかり中々注ぐ事が出来無かった。
「おいおい落ち着けよ…。俺は別にお前等を、どうしても、こいつらの世話にさせたい訳じゃないんだ。ただ、俺の契約した相手先がどんな奴等か、教えてやっただけなんだからよ…」
 笠原が猫撫で声で恵美に告げると
「は、はい…。はい…、分かりました…」
 恵美は蒼白な顔のまま、カクカクと何度も笠原の言葉に頷く。

 笠原はニヤリと笑うと
「じゃぁ、俺のお客に旨い物食わせてやってくれ。あと酒も忘れるなよ…」
 恵美の頭をポンポンと軽く叩いて告げる。
「あ、はい。直ぐにお作りします」
 恵美は周りを見渡し、入れ墨男達が持つグラスが空いている事に気付き、直ぐに酌に回る。
 何とか全員のグラスを満たした恵美は、リビングを出て行くと
「好美、お料理手伝って。愛ちゃんは、小父さん達のグラスが空に成ったら、直ぐに注いで上げて」
 2人の妹に、固い声で指示を出す。

 好美は直ぐにキッチンに向かうが、愛美は泣きそうな顔で
「おねぇちゃん…、愛美怖い〜…」
 恵美に震えながら抱きつき、訴える。
「愛ちゃん…、頑張って。愛ちゃんが出来無いと、お姉ちゃん達も凄く困るの…ねっ」
 恵美は愛美をギュッと抱きしめ、愛美を説得する。
 愛美は小学校4年生だが、末っ子の為甘えん坊で幼かった。
 愛美は少し躊躇ったが、笑顔を作って
「うん、頑張る」
 コクリと頷いた。

 恵美の指示を受けた愛美がリビングに戻ると、恵美もキッチンに急ぐ。
 キッチンに入ると、手早く料理を始め、次々に完成させリビングに運ばせた。
 恵美が最後の料理を作り終え、キッチンに運ぶと、殆どの料理が無く成っている。
 恵美は呆然とするも、最後の料理をテーブルに載せた。
 すると恵美に好美が近付いて来て、青い顔をしながら紙を差し出す。
 恵美が紙の内容を確認する前に
「おう、酒が切れたから、俺が適当に頼んだんだ。払っといてくれ」
 笠原が軽い調子で、恵美に告げた。
 恵美は酒屋の請求書を見て驚いた。
 1本4万円もする高級ブランデーが2本注文され、8万円が請求されている。
 恵美は咄嗟に、今月の給料の残高を計算した。
(8万円も払ったら、今月の残り1万ちょっとしか残らない…。まだ、給料日まで2週間もあるのに…)
 恵美は呆然として溜め息を吐く。

 宴もお開きになり、入れ墨男達が上機嫌で帰ると、恵美達がテーブルの上を見て肩を落とす。
 テーブルの上には、食器だけが無造作に散らばっている。
 本来その上にのっている筈の料理が、綺麗に無く成っていた。
「おねぇちゃん…お腹すいた…」
 小学校4年生の愛美が、恵美に訴えると、好美のお腹もグ〜と鳴る。
「今日は、お茶漬けにしましょう…」
 恵美が笑顔を取り繕って、愛美に伝えると
「うん、愛美もお茶漬け好きだから、それで良いよ」
 愛美も我が儘を言わず、笑いながら恵美に答えた。
 3人はリビングのテーブルの上を片付け、キッチンの隅でお茶漬けを啜った。
 この時点で3人はコレが日常に成るとは、夢にも思っていなかった。

 3人がお茶漬けを啜り終える前に、リビングから笠原が大きな声で恵美を呼ぶ。
 恵美はお茶漬けを置き、直ぐにリビングに向かうと
「今後の事について、少し話し合おうか…」
 笠原が酔った顔で、恵美に告げる。
 恵美はその言葉を聞いて、嫌な予感が身体中を満たし始めるのを感じ
「は、はい…。解りました…笠原さん…」
 震える小さな声で、返事を返した。
 笠原は恵美の態度を見て、ニヤリと笑いながら
「そう、固くなるな…。俺は、こう見えても結構優しいんだぜ…。従順な奴にはな…」
 ネットリとした声で告げる。
 恵美はその声を聞き、自分の予感が避けがたい物だと知った。

 笠原がユックリと背中を車椅子の背もたれに預けると、キッチンから好美と愛美が戻ってくる。
 恵美は2人の気配に気付き
「ちょっと、部屋に戻ってて。お姉ちゃん、笠原さんと大事な話があるから」
 慌てて振り返って、2人を部屋に戻そうとした。
 これは、もし笠原に身体を要求されても、妹達の目に触れさせない為だったが
「おいおい、ちょっと待てよ。俺を介護するのは、あんただけじゃ無いんだろ?妹達も仲間に入れてやれよ…」
 笠原はそれを許さず、恵美の言葉を打ち消した。
 恵美は泣きそうな顔で笠原に振り返り、懇願しようとしたが、笠原の睨み付けるような視線で項垂れ、言葉を呑み込む。
 恵美の態度を見て、固い視線を笠原に向ける好美と、オロオロと狼狽え、泣きそうな顔で恵美と笠原を見比べる愛美。
 恵美はそんな2人に
「こっちに来て、貴女達もお話しを聞きなさい…」
 打ち拉がれた小さな声で妹達に伝え、笠原の前に正座した。
 好美と愛美は恵美の左右に、怖ず怖ずと正座して並ぶ。
 笠原は、自分の前に正座した三姉妹を、満足そうに見下ろした。

 酔いの回った赤ら顔で、舐めるように三姉妹を見渡した笠原は
「俺はよう…、別にあんた達がどう思おうと構わねぇんだ…。俺は、あんた達に[好きに成ってくれ]なんて、微塵も思っちゃ居ないし、厄介者で構わねぇ…」
 楽しくて仕方が無いと言う笑い顔を浮かべ、話し始める。
「ただよぅ…忘れて貰いたく無い事が一つ有る。お前達は俺に3億円の借金が有り、それを返す義務も持っている。この義務を放棄するなら、遠慮無く放棄してくれ、俺は直ぐにでもこの家を出て行ってやる」
 笠原が[家を出て行く]と言った時、恵美はビクリと肩を震わせ、好美は唇を噛みしめ、愛美は嬉しそうに目を見開いた。
 そして、笠原が低く
「お互いの契約を清算してな…」
 楽しそうに付け加えると、恵美は泣きそうな顔を跳ね上げ、好美はキッと笠原を睨み、愛美は首を捻る。

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