隷属姉妹
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■ 第2章 支配の檻4

 恵美が堪らなくなって、笠原に躙り寄り
「それだけは、許して下さい…。まだ、好美は中学生、愛美は小学生です。私が、3億円の支払いを私1人で背負っても構いません。ですが、今引き離されるとこの子達は、誰も頼る者が居ないんです。どうか、どうかお願いします。私達を離ればなれにするのだけは、許して下さい…。お願いします」
 笠原に土下座して懇願した。
 笠原はそんな恵美を見下ろし
「そうか…。お前は、家族と離ればなれに成るのは、嫌なのか…?」
 低い声で問い掛ける。
 恵美はその質問で顔を跳ね上げると
「はい!私が居なくなったら、未成年のこの子達は、唯一の親戚である叔母に預けられてしまいます。そうなれば、どんな酷い目に逢うか解りません…、私はどんな事でもします。ですから、どうか引き離さないで下さい!」
 必死な顔で笠原に頼み込む。

 だが、笠原は恵美のその頼みを聞いて、大きく溜め息を吐くと
「どうもお前は勘違いしてるな…。俺は、言わば3億円でお前達三姉妹を雇ったんだ…。お前が俺の言う事を聞くのは勿論、お前の妹達も俺の命令に従う義務があるんだぜ。それが、連名の意味なんだからな」
 恵美にウンザリした顔で告げる。
 恵美は笠原の言葉を聞いて、顔を驚きで染めると
「そ、そんな…」
 小さく呟いて抗議しようとしたが
「お前があの書類にサインした時点で、お前達のこれから50年間は、俺の物なんだよ…。アレはそう言う書類だ。それが嫌なら言ってくれ、俺は[お前達じゃなきゃいけない]何て事は、これっぽっちも無いんだぜ」
 笠原は身体を乗り出し、右手を恵美に差し出して、小指の腹を親指の爪先で弾きながら、恵美に告げた。
 恵美は笠原の顔を泣きそうな顔で見詰め、言葉を探すが何も見付からずガックリと項垂れる。

 好美は恵美が項垂れたのを見て、逃げ場がない事を理解し、唇を噛みしめ泣きそうな顔で俯き、愛美も2人の雰囲気から、大変な話がされている事を知って、ポロポロと涙を零す。
 三人三様の表情を満足そうに見下ろし
「俺は、何のストレスも無く、楽しく過ごしていたい。そのために、お前達には俺に対する礼儀作法を教えてやる。俺の言いつけを守れば、お前達も少しは過ごし易くさせてやるが、俺の気分を害したり、言いつけを守らなかったら、容赦なく罰を与える。俺の罰は半端無いと思えよ、俺はかなりそっちは詳しいからな。良〜く、覚えとけ」
 ニヤニヤ笑いながら、三姉妹に告げる。
 三姉妹はその言葉に、顔面を蒼白にさせ、更に項垂れた。
「まぁ、俺の言いたい事はお前達に言った、後は好きに相談しろ…。答えは明日の朝まで待ってやる」
 笠原は楽しそうに恵美に告げると、車椅子の車輪を押しながら、リビングを出て行く。

 後に残された三姉妹は、笠原が出て行っても、暫く誰も動けなかった。
 恵美が考えて居たよりも笠原は悪人で、事態は想像より遙かに深刻だった。
 俯いた恵美の顔から、ポトリ、ポトリと涙が流れ落ちる。
 姉妹の境遇を嘆いているのか、自分の浅はかさを悔やんでいるのか、解らない涙だった。
 それは、流している恵美自身にも解らない。
 溢れる感情が恵美の中で渦巻き、意識せずに滲み出した物だったからだ。
(父さん…、母さん…、私どうしたら良いの…。このまま、あの男の言いなりに成るしかないの…。教えてよ…ねえ、教えてよ…。父さん!母さん!)
 恵美はいつしか頽れ、突っ伏して泣いていた。
 好美と愛美がそんな恵美に縋り付き、同じように声を出して泣き崩れる。

 笠原は用意された部屋に移動すると、携帯電話を取り出し操作した。
 数度のコール音が鳴り、相手が電話に出る。
『おう、どうだった?なかなかパンチが効いてただろ』
 門脇は開口一番、笠原に楽しそうに問い掛けた。
「ああ、流石の俺も面食らったぜ…。女達は目を白黒させて、震え上がってた。でっ、あいつらは一体何者なんだ?」
 笠原は苦笑いを浮かべ、直ぐに真剣な表情に成り問い掛けると
『あいつらか?あれは、俺の知り合いの愛好者で、ただの[入れ墨好き]だ。ヤクザだと思っただろ?』
 門脇が笑いながら笠原に告げる。
「ああ、最初はな…。だがよぅ、暫く話してヤクザじゃないって解ったぜ。ヤクザ独特の高圧的な雰囲気を一生懸命だそうとしてるのが、見え見えだったぜ」
 笠原は、唇の端を上げ皮肉な笑みを浮かべて門脇に告げると
『ははっ、まぁ仕方が無い…。あいつらは、ああ見えても酒屋とバーテンの客商売だからな。あんまり威圧的な態度は、馴れちゃいないんだ』
 門脇は言い訳がましく、説明する。

 笠原が[ハンッ]と鼻で笑うと
『ところで、ビデオは受け取ったか?』
 門脇が急に話を変えて、笠原に問い掛けると
「おお、受け取ったのは、受け取ったが…。こりゃ、何のビデオだ?」
 笠原が門脇に問い返す。
『へへへっ、それは、俺の秘蔵ビデオを集めたモンだ。中身は裏物の輪姦ビデオや、SMを通り越した猟奇物のビデオを集めて編集した物だ。俺らが見ても、寒気がする代物だぜ…。何にも知らない女が見たら、どう思うかな?』
 門脇は笠原に嬉しそうに説明し、そのビデオを三姉妹に見せた時のリアクションを楽しそうに問い掛ける。
「へぇ〜…。そりゃ、楽しみだな…。中身を見て、使い所を考えさせて貰うぜ」
 笠原は入れ墨男達が置いて行った、VHSの120分テープを左手で弄び、酷薄な笑みを浮かべ笠原に告げた。

 笠原は弄んでいたビデオテープをポンとベッドに放り投げ
「ところでよ…、そろそろ針を外してくれ…。俺も本腰入れるからよ…」
 門脇に真剣な表情で告げる。
『ああ、解ってる。陳さんにはもう連絡を入れてる。明日の昼前には、そこの家に着く筈だ…』
 門脇は、笠原の行動を読み、既に手を打っていた。
 悪党の考える事は、誰でも同じ物の様らしい。
 笠原は門脇に別れを告げると、携帯電話の通話を切る。
 電話を切った笠原は、1人酷薄な笑顔を浮かべひとしきり笑い、自分の荷物が収められている部屋に向かった。
 笠原は荷物の中から、黒いアタッシュケースを引きずり出し、目線を合わせる為に手近な段ボールの上に乗せ、蓋を開ける。
 黒いアタッシュケースの中には、一目で責め具と判る物から、何の用途に使われるか良く判らない物まで様々な物があった。
 それだけでは無く、いくつかの段ボール箱の中にも、同じような物が可成りの数入っていた。
「へへへっ、今までの8畳1間だと、使う度に組み立てなきゃ成らなかったが、この家ぐらい広かったら、幾らでも組み立てて置いておける…。思う存分使ってやるからな…」
 それは、笠原の[趣味]を満足させる為の道具類だった。
 笠原は嬉しそうに自分のコレクションを見渡し、ゾッとする笑顔を浮かべ呟いた。

 リビングで泣き続ける三姉妹は、悲嘆の涙を徐々に嗚咽に変え、鼻を啜り上げる。
 恵美は必死の思いで気持ちを立て直し、涙を拭った。
 その恵美を、まだ涙を溜めた好美が心配そうに見詰める。
「大丈夫よ…。もう、落ちついたわ…」
 恵美は暗く沈んだ顔を取り繕って、好美にニッコリ微笑み、泣きじゃくる愛美を抱き寄せ、ギュッと力を込めて抱擁した。
 恵美が気持ちを落ち着けた事に、好美と愛美も安堵を浮かべたが、状況は何ら変わっていない。
 恵美は不安げな妹達に目を向け、[ふぅ〜っ]と大きく息を吐き、自分を更に落ちつかせると
「良い、私達は3人で、笠原さんに3億円の慰謝料を保証しなきゃいけないの。これは、この前も話したわね?」
 恵美が問い掛けると、好美と愛美が大きく頷き恵美の質問に答える。
「だけど、私達じゃ3億なんて払えない。だから、笠原さんをお家に迎えて看護する。ここまでも話したわね?」
 恵美が妹達に確認すると、好美と愛美は再び大きく頷いた。

 真剣な眼差しを、好美と愛美が恵美に向けている。
 恵美は2人の視線を[フッ]と諦めたように微笑んで、受け止め
「でもね…。多分、笠原さんは…看護だけじゃ…満足しない…」
 ボソボソと2人の妹に続けた。
「でも、それは全部お姉ちゃんが受け止めるから…。お姉ちゃんが…全部…笠原さんの言う事を聞くから…」
 恵美は強張った笑みを妹達に向け、自分の決意を告げる。
 その言葉を聞いて、小学生の愛美は意味が分からず頷いたが、中学生の好美には恵美の言う事の意味が分かった。
「お、お姉ちゃん…、でも、それって…。お姉ちゃんが、あいつにエッチな事されちゃうって事だよ…。お姉ちゃん今まで、誰とも付き合った事無いのに…あんな人に、酷い事されちゃうって事だよ…」
 好美が泣きそうな顔で恵美に縋り付いたが、恵美はにこりと微笑み好美の唇に人差し指を当て、言葉を止めると
「良いのよ…。いつかは経験する事なの…。貴女達に危害が及ばなく成るなら…、私は全然平気…。ううん…、逆に嬉しいぐらいよ…」
 優しい微笑みを浮かべ、好美に告げる。
「お、お姉ちゃん…」
 好美は恵美の決意を聞いて驚きを浮かべ、直ぐに涙を溢れさせ恵美の太股に突っ伏して、声を上げ泣き出した。
 その好美に釣られ、意味も分からず愛美も泣き始める。
 恵美はそんな好美と愛美の頭をソッと抱きしめ
「大丈夫…、大丈夫よ…。お姉ちゃんが、貴女達を守るから…」
 2人の頭を優しく微笑みながら抱きしめ、約束した。

 恵美は知らない。
 善良な両親に育てられ、強い悪意に晒される事無く過ごした恵美は、邪な人間の考え方など、理解出来る筈も無い。
 ましてや、邪な人間がどう言う手段で、人を貶めるかなど、想像の範疇を越えていた。
 笠原がどう言う人間か知らず、そう言う人間が居る事すら知らない恵美は、無知故に泥沼に呑み込まれて行く。
 そして、恵美が呑み込まれて行くという事は、その庇護の下にある妹達もまた同じ道を辿る。
 笠原の用意した泥沼が、どれ程の汚泥か恵美達は知らず、善良に育った三姉妹は、善良であるが故に笠原の歪んだ思惑に否応無く染められて行くのだった。

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