隷属姉妹
MIN:作

■ 第2章 支配の檻5

 三姉妹がリビングで話を終えた時、笠原が車椅子の車輪を自分で回し、移動して来る気配に気付く。
 恵美はその気配に顔を上げると、丁度笠原がリビングの出入り口に差し掛かる所だった。
 笠原はリビングの三姉妹に一度顔を向け、三姉妹を一瞥すると、何事も無かったように顔を戻し、キッチンに向かう。
 恵美はその素っ気なさが逆に気になり、思わず笠原に声を掛けてしまう。
「あ、あの…。どう為されました…」
 恵美は笠原に無意識に敬語を使い、問い掛けると
「ふん…。その言葉遣いは、腹を括ったのか?」
 笠原が恵美に問い直してきた。
 恵美は一瞬笠原の言葉に息を呑み、少し躊躇って
「はい…。その事で、お話しが有ります…。お時間を頂けますか…」
 笠原に頭を下げて、依頼する。

 笠原はニヤリと微笑み
「良いぜ、お前の話を聞いてやる。飲み物を持って来い」
 車椅子の方向を変え、好美に向かって命令した。
 好美は一瞬恵美を心配そうに見詰め、直ぐに項垂れると立ち上がり、キッチンに向い掛けるが
「あっ、お姉ちゃん…、もう、お酒が無い…。全部無く成っちゃった…」
 飲み物がない事を思い出し、恵美に告げる。
 恵美は直ぐに財布を取り出し、好美に手渡すと
「これで、買って来て。お酒屋さんには、お姉ちゃんが連絡しておくし、愛美と一緒に行って来て」
 恵美と2人で、お使いに行くように頼んだ。
 好美は何故愛美を連れて行くように、恵美が言ったのか直ぐに理解し、唇を噛んで項垂れる。
(お姉ちゃん…。自分の考えを、こいつに話すつもりなんだ…。そうしたら、多分こいつは、お姉ちゃんに恥ずかしい事を強要する…。愛美が見たら…きっと泣くに決まってるし、私も見たくない…。お姉ちゃん…ごめんなさい…)
 恵美の言葉を聞いた好美は、恵美の気持ちが痛い程分かり、何も出来ない自分が悔しかった。

 好美はグッと込み上げる感情を抑えつけ、愛美に向かって手を伸ばし
「愛美…行こう…」
 小さな声で、愛美を誘う。
 だが、小学生の愛美にも今の雰囲気が異常であると感じ、心細さから好美の手を掴まない。
 恵美にしっかりと抱きつき、イヤイヤと小さく首を横に振る。
 愛美の行動は仕方が無かった。
 突然両親を亡くし、見知らぬ男が同居するように成って、その上恐ろしい男達が我が物顔で自宅で飲み食いしたのだ。
 今の愛美の心中は、抱える不安がピークに達していて、唯一の拠り所がいつも優しい恵美だった。
 愛美は心細さから、片時も恵美から離れたくなかったのだ。
 だが、愛美の気持ちも分からなくも無いが、好美にとってもそれは同じ事であり、同じ思いだった。
 出来れば、自分も恵美から離れたくはない。
 しかし、好美はこれから起こる事も理解していた。
 大好きな姉が、粗暴なだけのこの男に、淫らな真似をされる光景を見たくは無かったし、恵美も見られたく無と思っている事を感じ取っている。
 だから、愛美のこの態度が、無性に腹が立ったのだ。

 好美はむずかる愛美の腕に手を伸ばし
「良いから、早く来なさい!恵姉ちゃんも困るのよ!」
 乱暴に掴んで、無理矢理引き起こした。
 愛美はその好美の行動に驚き、不安を強めて
「おねぇちゃん〜…」
 泣き顔を恵美に向けて、行きたくないと駄々を捏ねる。
 そんな愛美に恵美は優しく微笑みを向け
「愛ちゃん、好美お姉ちゃんを手伝って上げて…。ほら、お荷物が増えると、お姉ちゃん大変でしょ」
 優しく諭すように告げるが、愛美は一向に言う事を聞かない。
 恵美は困り果てた顔で、尚も説き伏せようとしたが、笠原の顔を盗み見て顔を引きつらせる。

 笠原は甘える愛美をジッと見詰めていた。
 その笠原の視線には、苛立ちや怒りなどの感情は浮かんでいない。
 それどころか、一切の感情が払拭され、まるで物を見ているようだった。
 そう、その視線は小学校4年生の愛美を[不要な物]と言っていたのだ。
 恵美は笠原のその視線を見て、一瞬で背筋が凍り付いた。
(駄目!このままじゃ、愛美が何処かにやられちゃうわ!)
 恵美は瞬間的に視線の意味を感じ取り、愛美を奮い立たせる。
「愛美。お姉ちゃんの言う事を聞きなさい。これからは、愛美も笠原さんの役に立つ事をしなきゃいけないのよ!お使いに行くぐらいで、ごねちゃ駄目!」
 少し強い口調で恵美が愛美に告げると、愛美は驚いた顔で恵美を見詰め、少し拗ねた表情を浮かべて項垂れる。

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