隷属姉妹
MIN:作

■ 第2章 支配の檻6

 恵美が更に何か言おうとした時、スッと笠原の手が上がった。
「もう良い…。買いに行く必要は無ぇ…」
 笠原は低い声で、呟くように告げると、車椅子の車輪を回しながら、リビングの中に入って来る。
 その言葉を聞いた瞬間、恵美は愛美を自分の背中に隠し
「か、笠原さん…。お、お願いします、待って…待って下さい…」
 必死の形相で、笠原に懇願する。
 だが、笠原は恵美の言葉など聞こえていないように、車椅子を進ませると
「俺の為に、買い物に行くのが、それ程嫌か…」
 恵美の背中に隠れた愛美に向かって、低く抑揚のない声で尋ねた。
 愛美は恵美の慌てぶりにも驚いたが、その原因が自分だとこの時始めて気が付き、引きつった顔で笠原を見る。

 笠原は恵美と好美の間に車椅子を通し、愛美に近付こうとしたが、それを恵美と好美が身を挺して阻止し
「お願いします。許して下さい…許して下さい。愛美は、少し甘えん坊なので…これからは、ちゃんと言い聞かせますから…。許して下さい…」
「お願いです。おじ様、愛美を許して下さい。私が強く言ったせいで、少し拗ねただけなんです…」
 車椅子にしがみ付いて、涙を流しながら許しを請う。
 しかし、笠原の口から出た言葉は、2人の表情を強張らせるのには充分だった。
「お前達…、俺に逆らうのか…。俺の行動を…、妨げるんだな…」
 笠原の抑揚のない声は、低く呟くように三姉妹に届く。
 その声は怒りを噛み殺しているように、微かに震えている。

 だが実際は少し違っていた、笠原は可笑しくて堪らなかったのだ。
(おいおい…早くも、良いシュチエーションだな…。ここは、一気にこいつらに立場を叩き込んでおくか…)
 只一方的に、暴力を振るうより、[何かの代償で罰を与えられる]と言ったシュチエーションが有れば、同じ暴力でも支配される者には、雲泥の効力を発揮する事を笠原は経験的に熟知していた。
 笠原は様子を見ながら、そのシュチエーションを作る事を考えた居たが、それが思いの外早くやって来たのだ。
 しかも、[三姉妹が揃って笠原に逆らう]と言う、グッドシュチエーションだったのである。
 その笠原の心中を全く理解していない、三姉妹の必死の表情が、更に笠原を笑わせたのだ。
 笠原は込み上げる笑いを押さえ込み、威圧の表情を作るのに苦労していた。

 笠原は懇願する恵美と好美を尻目に、左手をスッと愛美に伸ばし
「こっちに来い…」
 低い声で呟いた。
 恵美はその笠原の行動に、顔を引きつらせ
「お願いします!悪いのは私です!ちゃんと…、ちゃんと愛美に言わなかった私が悪いんです!」
 笠原の左手に両手で抱きつき、泣きながら自分の罪を笠原に告げる。
 恵美の行動とほぼ同時に、好美も笠原の足に抱きつき
「私が悪いんです!私が愛美に強く言ったから!愛美は私に反抗したんです!」
 必死な顔で笠原に自分の罪を認めた。
 切迫した状況に耐えられず、愛美が恵美の背後で泣き声を上げる。
「おねぇちゃん、ごめんなさい…!」
 愛美も自分の我が儘を認め、それを庇ってくれている姉達に、泣いて謝った。
 三姉妹はそれぞれ、自分の中で非を認め、笠原に謝罪する。

 こうして、笠原の望む状況は完成した。
 笠原は身体を車椅子に凭せ掛けると
「お前達は、3人とも自分が悪いと思って居るんだな…」
 静かに問い掛ける。
 三姉妹は笠原の問い掛けに、怒りが納まったと勘違いし、安堵しながら一様に頷いた。
 笠原は大きく一つ頷くと、右腕を車椅子の背もたれの後ろに回し
「なら、3人でお仕置きを受けるんだな…」
 刺すような目線を向け、低い声で再び問い掛けた。
 三姉妹の安堵の表情は、一瞬で引きつり言葉も出ない。
 そして、笠原は背もたれの後ろに回していた右手を戻す。
 その手に握られた物を見て、三姉妹は訝しげな表情を浮かべ、小首を傾げた。

 笠原の右手に握られた物は、スポーツチャンバラで使う、刀そっくりである。
 表面が柔らかそうなゴムで覆われた、長さ80p直径5p程の棒であった。
 握る場所こそ20p程プラスティックで出来ていたが、後はどう見ても痛みを与える物には見えない。
 笠原が左手の掌にゴムの部分をポンポンと当て弄んでいたが、その動きも軽くしなっており、弾力がある事も理解できた。
 そして三姉妹は笠原の次の行動で、更に不思議そうな顔をする。
 笠原は今度は左手を後ろに回し、元に戻すと左手に鞭を持っていた。
 それは、三姉妹も一目見ただけで用途が判る騎乗鞭で、3人ともギクリと顔を引きつらせ恐怖を浮かべる。
 [こっちが本命か]と三姉妹が考えた時
「これとこれ…。どっちで罰を与えられたい…。どちらも、3人で30発だ」
 笠原が両手の得物を差し出し、恵美達に問い掛けたのだ。
 三姉妹は笠原の質問に思わず、黒いゴム棒を指さす。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊