隷属姉妹
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■ 第4章 突き付けられる選択1-1

 直腸に笠原の小便を注がれたまま、病院に出勤した恵美は、直腸の圧迫感と戦いながら、午前中の業務を終わらせる。
 この時点で恵美は、この病院ならではの決まりに気付く。
 病棟の中でこそ、誰もが[さん]付けで呼ばれるが、病院関係者専用のエリアでは、白い看護服の師長クラスは、[様]と呼ばれ、青い看護服の看護師達は、名字に[さん]の敬称付けで、ピンクの看護服の見習いクラスは、名前を呼び捨てられる。
 そこに、年齢や勤務年数等の考慮は、無く。
 年若い青看護服の看護師が、年長のピンク看護服の看護師の名を呼び捨てにしていた。
 そして、年上のピンク看護服の見習いは、青看護服の年下看護師に不当と思える罵倒を受けても、愛想笑いを浮かべ、ペコペコと頭を下げ、媚びへつらっている。

 恵美にとっては、異常な光景で有り、異様な世界で有った。
 恵美の知る看護師の世界では、知識や技術、そして何より資格の有る者が、依り上位に立ち、技術知識の伴っていない看護師達を指導するのが常で、常識で有った。
 だが、この病院では、青看護服を着ているだけで、何の知識も技術も持たない者が威を張り、的確な処置を行えるだけの知識と技術を持った、ピンク看護服の者達が蔑まれている。
 無論、それが全てでは、無い。
 中には、しっかりとした知識と技術を持った青看護服も居れば、全く動けないピンク看護服の者もいる。
 しかしそれは、一部の者で、この傾向がかなり強いのだ。
 恵美は、この傾向を見て
(な、何?何なのこれ…。青とピンクは、どういう基準で分けられているの…、何で…?)
 内心で首を傾げるが、その答えは、一向に見付けられない。

 この階層分けの判断基準は、一向に分からないのだが、しかしこの区別は、病院側が主体と成っている事は、入ったばかりの恵美にも理解出来た。
 それは、この病院の社員章とも言える、IDカードの使用方法で、馬鹿でも分かる事だった。
 この病院のIDカードは、ICチップが入っており、出勤から退社までの一切を管理し、タイムキーパー機能を有しているだけで無く、病院内では財布の役割も果たしている。
 自販機に翳せば、選択ボタンが一斉に灯り、病院内の売店や食道の券売機にまで読み取り機が取り付けられ、全てが自動的に給料から使用した金額が引かれ、このIDカードさえ有れば、全てが賄える。
 それだけでは、無く。
 病院内でのあらゆる医療行為も、このIDを翳さなければ、医薬品の受け渡しや、医療機器の操作、点滴や投薬に至るまで、全てこのIDカードを読み取らせなければ行えない。

 ここ迄なら、医療事故を防ぐ導入目的通りで、更に便利な機能が付いていると思えるのだが、このIDカードには、それぞれの役職に依り、権限が付与されており、依り上位のカードでなければ、開かない扉や起動しないパソコンが病院内にゴロゴロと転がっている。
 それを使用しなければ成らない状態に成ると、それを使える権限を持った者のIDカードが必要と成っていた。
 そう、ピンクより青、青より一般医師、一般医師より師長の白、白より各部の部長医師、その各部の部長医師より権限が有るのは、3枚しか無い。
 それが医院長と事務局長に、総師長の持つIDカードだった。

◇◇◇◇◇

 そのIDカードを持つ、3人の内の1人が、自分の個室の執務椅子に座り、パソコンのキーを押す。
 すると、スピーカーから同僚を気遣う女性の声が問い掛ける。
 その問い掛けに、モニターのウィンドウの中で、脂汗を滲ませる美女が
『いえ、大丈夫です…。お腹が張ってるだけですから…』
 問い掛けた同僚に答えると、同僚の看護師は、怪訝そうな顔で
『出してらっしゃい。ここは、やっとくから。我慢は、身体に毒よ』
 脂汗を滲ませる看護師に告げると、看護師はフルフルと顔を左右に振り
『いえ…。トイレに行っても、駄目なんです…』
 か細い声で、同僚の看護時に告げると、同僚の看護師は、小さく鼻先で笑い
『ははぁん。さては、便秘だな?』
 したり顔で問い掛けるが、脂汗を滲ませる看護師は、曖昧な笑みを無理矢理浮かべ
『に、似たような…、物です…』
 ボソボソと答えると、同僚は、驚きを浮かべ
『流石、総師長様…』
 ポツリと呟き、ピンクの看護服のポケットから、錠剤を取り出して差し出し
『これ、総師長様から預かったの。朝のミーティングの時に、[あなたの具合が悪そうだから、折を見て渡して]って。総師長様、あなたの便秘を見抜いてたのね』
 ニッコリと笑って告げる。

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