隷属姉妹
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■ 第4章 突き付けられる選択3-4

 グッタリとした恵美を見詰め鼻先で笑い、笠原は恵美にシャンプーを命じ、自分の身体だけを洗い終えると
「おら、上がるぞ。車椅子に乗せろ」
 ぶっきら棒に短く命じる。
 笠原の命令で、今日は自分の身体を洗えない事を理解し、恵美はノッソリと立ち上がって、笠原の身体に上がり湯を掛け、笠原を抱え上げて車椅子に乗せた。
 恵美が背後に回り込み、車椅子を押して脱衣所に移動し、バスタオルで笠原の身体を拭き上げ、そのまま自分の身体を拭こうとすると、笠原がサッとバスタオルを奪い取り
「必要無ぇ」
 短く吐き捨てて、洗濯籠の中に放り込む。
 恵美は、濡れそぼったまま項垂れ、そのままペコリと頭を下げると、車椅子の後ろに回り込み、笠原を部屋まで運んだ。

 笠原をベッドに移し、恵美がアナル栓を拾い上げて差し出すと、笠原はアナル栓を受け取って、ベッドの戸袋に乗せ
「腫れ上がってるから、今は良い。飯喰った後に付けてやる」
 ぶっきら棒に言い放つと、恵美は驚いた顔で笠原を見詰め、固まった。
 固まった恵美に、笠原は枕に頭を乗せ位置を微調整しながら
「俺は、今から夕飯まで寝る。新しい下着と洋服も許可してやる。俺は、夕飯さえ喰えりゃぁ、それで良い。後は風呂に入る成り、寝る成り、おまえは好きにしろ」
 恵美に告げると、恵美は笠原の真意が分からず、思わず首を傾げてしまう。

 首を傾げた恵美に、笠原はムッとした表情を浮かべ
「んだっ?俺がおまえの身体を気遣うのが、そんなに不思議か?俺は、正当に評価して、おまえに許可を与えたんだ!それが不服なら、褒美なんかやら無ぇぞ」
 恵美に言い放つと、恵美の目が更に大きく見開かれ、愕然とした表情で立ち尽くす。
 立ち尽くす恵美に、笠原が怒りを浮かべ
「感謝は!」
 鋭く告げると、恵美はその場に倒れ込むように平伏し
「あ、有り難う御座います」
 今出せる限界の声で感謝を示す。
 囁く程の掠れ声で感謝を示す恵美に、笠原はケッと短く吐き捨ててそっぽを向き、追い払うように左手を上げ、ヒラヒラと手を振る。

 笠原の合図に、恵美は再び一礼し、部屋を出て行った。
 恵美が出て行くと、笠原はニンマリと笑い、恵美の出て行った扉を見詰め、愉しげな笑いを噛み殺す。
 一頻り意味深な笑いを漏らした笠原は、寝ころびながら天井を見詰め、ニヤニヤ笑って煙草を咥え、火を付け燻らせた。

◇◇◇◇◇

 笠原の部屋を出た恵美は、この褒美の意味を考える。
 確かに死ぬ程頑張った。
 だが、恵美は笠原がそれを正当に評価するような相手だと、どうしても思えなかった。
 [何かの裏が有る]と思っているが、それが何なのか全く分からない。
 今迄の人生で、人に対して邪な考えを抱いた事が無い恵美には、欲望の塊で有る笠原の考えなど想像の域を超えていた。

 浴室に戻った恵美は、汗ばんでいた身体を洗う為に、浴室用の座椅子に座り、ボディースポンジに手を伸ばす。
 すると身体を捻る動きで、尻朶が捻れ、アナルが引っ張られて、ポッカリと口を開け、ドロリと何かの液体が流れ出た感触を感じる。
 その感触に恵美が驚き、身体がビクリと震え、慌ててお尻を持ち上げると、プラスティックの座面の上に、気味掛かった白濁液が、落ちていた。
 恵美は、その粘り気の有る白濁液が何なのか直ぐに気付き、ペタンと尻餅を付く。
 白濁液をジッと見詰める恵美の脳裏に、つい先程まで行われていた行為が、ありありと浮かび上がる。
 自分が何をされ、何をして、何を言ったか、全てが記憶の中から蘇り、恵美に襲い掛かった。

 白濁液を見詰める恵美の目から、ポトリポトリと涙がこぼれ落ち、恵美の上体がユックリと下がって行き、両手を床に付いて身体を支えるような体勢に成るが、両腕は恵美の身体を支える事無く、恵美の身体は突っ伏した。
 床に付けた掌が、ジワリジワリと握り込まれて拳を作る。
 拳が握り込まれると肩が震え、背中が丸く成って行き、恵美の身体がギュッと縮むように蹲ると、鼻を啜る音が混じった。
 その音は、直ぐに嗚咽に代わり、嗚咽は全身を震わせ号泣に成る。
 大きく口を開け、心の叫びを上げるが、その声は掠れて音に成らず、まるで声を押し殺しているかのようだった。
 全身を振るわせ、掠れた声を張り上げ、顔をクシャクシャにして号泣する恵美。
 溜まりに溜まったモノが、溢れ出して止まらず、押さえ切れなく成ったモノを全て掠れた声と共に吐き出す。
 大事に思っていた事や、大切にしていた物を、全て叩き壊され、踏みにじられた思いが、恵美の中で荒れ狂っていた。

 やがて、恵美の声無き号泣は、始まった時の巻き戻しのように、嗚咽に変わり、啜り泣きに戻る。
 数分間泣き明かした恵美の激情が収まり、しゃくり上げに変わると、ユックリと上体が起き上がった。
 持ち上がった恵美の顔には、一切の覇気が消えており、目は諦めに染まり、瞳は無気力で力無く濁り、ドッと老け込んでいた。
 肉体的な疲れもかなりの物だが、肉体以上に精神的な疲弊が大きかったのが、一目で見て取れる。

 そんな恵美が、フラフラと立ち上がり、湯船に視線を向けヨロヨロと歩き出す。
(泣いてちゃ駄目…。悔やんでも駄目…。疲れなんて口に出せない…)
 自分を叱咤し始め、淀んだ瞳に力が戻り始め
(イヤだなんて、言っちゃいけない…。私がやらなくちゃ…。全部…、私が…)
 確固たる意思に変わって行き
(じゃ無いと…、じゃ無いと…。好美と愛美がさせられる…)
 表情から諦めが消えて、使命感に変わると
(駄目!そんな事、絶対に駄目!私が守る…。あの子達を、絶対に…)
 それは、重く固い決意と成って、表情に表れた。

 湯船に浸かった恵美は、膝を抱えて蹲り、ジッと湯面を見ながら
「あいつの目をあの子達に向けさせちゃ駄目。全部私が受け止めなきゃ…。その為なら、何でもやる。どんな泥にまみれても、どんな恥辱に晒されても構わない。あの男の命令を全部実行して、あの男の目を釘付けにしてやる!」
 思い詰めた目で宙の一点を見詰め、ブツブツと呟き続ける。
 笠原の求める[看護]を実際に味わった恵美は、甘い考えなど全て払拭し、何でもする事を心に決めた。
 だが、恵美は今日行われた事が、笠原の望む[看護]の入り口に踏み込んだだけだという事を知らない。
 恋いも男も世間も知らない20歳の小娘の決意など、笠原の欲望の前には、薄っぺらい張りぼてでしか無かった。
 恵美がそれを痛感するのは、それ程遠い時を要しはし無い。

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