隷属姉妹
MIN:作

■ 第4章 突き付けられる選択5-5

 そして、愛美も引き攣った顔に笑顔を浮かべ
「おじさま。愛美にも、お肉をお恵み下さい」
 笠原に懇願し、大きく口を開けて笠原に突き出す。
 愛美のこの行動は、恵美の行動を真似た物だが、その動機は恵美とは大きく違う。
 愛美を突き動かしているのは、偏に強い恐怖であった。
 姉妹の中で愛美1人だけが、自分達が行き着くと言われた、凄惨な映像を見ており、一際強い現実感と恐怖を抱いている。
 愛美の中には、[逆らったら、姉妹全員あんな目に遭わされる]と言う、強い想いが確立され、心を縛り上げられていた。
 この2人の行動を見て、何も知らない好美は、2人に強い裏切りを感じる。
 恵美の立場ならまだ理解する事もできたが、愛美の行動は屈服して媚びている以外に理解でき無かったのだ。
 只でさえ、第二次性徴期で精神的に不安定な反抗期にいる愛美は、この件を境に心の中に壁を作る。

 これら3人の心の動きは、笠原が意図した物では無いし、その効果がどう言う意味を持って居るか、笠原は理解していない。
 只単純にやりたい事をやり、言いたい事を言った結果なのである。
 だが、その効果は、笠原の予想を大きく超えていた。
 恵美は自己犠牲の気持ちから、率先して服従を示し、愛美は姉妹離散やその先で行われる、目を覆いたくなるような地獄絵図の恐怖から、恵美を習って笠原に媚びを売り、2人の気持ちを理解でき無い好美だけが、ポツリと取り残され、反発から背を向ける。
 本来なら、一致団結して笠原の暴虐に立ち向かわなければ成らなかったのだが、その方法は、笠原が恵美達の家に君臨し、僅か2日目で消え去ってしまった。

 恵美と愛美が笠原の手から、切り分けたステーキを頬張る中、好美は1人付け合わせとサラダでご飯を食べ、笠原にペコリと頭を下げ、とっととダイニングを出て行く。
 恵美が去って行く好美に声を掛けようと振り返ると
「放っとけ。アレが、あいつの気持ちだ」
 笠原が言い放ち、恵美が慌てて振り返ると、酷薄な笑みを浮かべた笠原が
「好きにすれば良い。俺に仕えるのが嫌なら、就職口は幾らでも探してやる」
 ボソリと呟くと、愛美の顔が蒼白に染まり、ヒッと息を飲んだ瞬間、直ぐに口を押さえながら俯き、胃の内容物をぶちまけた。

 これはこれで、仕方が無い事である。
 人1人が責め抜かれ、手足まで奪われた挙げ句、魚の餌に成った映像を見せられた小学生が、ステーキを食べられただけで、賞賛に値するのだが、その映像を思い出させる言葉に、反応したとしても誰も責められない。
 しかし、その事実を知らない恵美は、笠原の眉根の皺を見て、咄嗟に
「愛美!お行儀が悪いわよ。直ぐに片付けなさい」
 捲し立てると、吐いた愛美が頭を持ち上げ、笠原の顔を見る。
 嘲るような笠原の表情に、愛美は涙を浮かべると
「勿体無ぇな…」
 ボソリと一言呟く。

 その一言で、愛美は顔をクシャクシャに歪めながら、自分の吐瀉物を唇で摘み上げ、舌で掬って、胃の中に戻して行く。
 テーブルの上の吐瀉物を平らげた愛美は、床に落ちた吐瀉物を這いつくばって舐め上げる。
 その光景を間近で見る恵美は、気が狂いそうに成りながら、愛美以上の恥辱や汚辱に耐える事を誓い、ダイニングの入り口の影に隠れ、様子を窺っていた好美は、ここまでの屈辱に従う2人に対する不信を強めた。

◇◇◇◇◇

 食事を終えた笠原は、リビングに移動してテレビを見ながら酒を飲み始める。
 笠原の横には、恵美が正座して控え、水割りを作っていた。
 そんな恵美に、笠原は強い刺激は一切与えず、触れるか触れないかのレベルで、乳房に軽く指先を這わせ、うなじを撫で、耳朶を擽り、恵美の性感を刺激して反応を見て遊んでいる。
 笠原の、この遊びにジッと耐えていた恵美だが、その実、限界に近かった。
 性感の中心は、ずっとジンジンと疼いており、そことは違う性感を刺激され、身体全部が快感で炙られ続けるも、突き抜ける事が無いのである。
 前日の恵美なら、これにも耐えられた筈だが、肛虐の快感を刻まれ、絶頂を知ってしまった恵美には、酷くもどかしい生殺しの状態だった。

 そして、そんな生殺しの状態は、どれ程耐えている様に見せても、他者から見れば隠しようも無く淫らで、そんな淫らな姿をジッと見続ける者達が居た。
 リビングの入り口で、洗い物を済ませた愛美が蹲って凝視し、客間との襖の影に隠れた好美が、侮蔑の視線で睨み付けた居る。
 刃向かった結末を知る幼い妹は、身を投げ出す恵美を手本とし、理解でき無い妹は不信を更に強めて行き、孤立の道を突き進んで行く。
 こうして、仲の良かった姉妹の関係に、大きく深いひびが入る。

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