隷属姉妹
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■ 第4章 突き付けられる選択7-2

 笠原の言葉に、門脇は大きく目を剥いて息を飲み、固まったまま凝視すると、笠原が大きな溜息を吐いて
「んじゃ、今迄何でその事をおまえが知らなかったか、教えてやろうか…」
 ボソリと言い放つと、門脇はコクリと顎を引いて頷く。
「その売春婦達を使ってる奴らが、俺達とは無縁な奴らだからだよ」
 門脇の頷きに笠原は、ウンザリしたような顔で教え、肩を竦めながら
「市議会の有力者、商工会のお偉いさん、警察関係や弁護士先生もそうだ。スキャンダルが怖い好き者野郎達は、みんなあの病院の特別病棟に入院して、ピンク服の看護師達を奴隷扱いしてんだよ」
 入院期間中に自分が知った事実を教え、黒い手提げバックから市販品の軟膏を取り出し、ポンとベッドの上に投げ
「そいつは、一見市販品の軟膏に見えるが、中身は全く違う。そいつを塗られたら最後、どんな女でも、狂っちまう。そのビデオを見りゃ分かる筈だ…」
 呆然とする門脇に告げ、項垂れる。

 門脇の顔から血の気が引き、半歩後ずさると、項垂れた笠原から噛み殺した笑いが漏れ、肩を揺らす。
 呆然とした門脇がそれに驚くと、笠原の顔が跳ね上がり、満面に邪悪な笑みを浮かべ
「俺達にも、とうとう運が向いて来たぜ。上手い事立ち回りゃ、この市の中枢に食い込める。もう、あんなジジイの影に怯え、上前を跳ねられる必要なんか無ぇんだ!」
 言い放つと、門脇の顔が引き攣り
「おい、止めろ!軽々しく口にする事じゃ無ぇぞ!」
 慌てて笠原を止めると、笠原は鼻で笑い
「心配すんな。何も、今すぐって訳じゃ無ぇ。だがよぉ、上手く立ち回って、俺達があの病院とのパイプを作りゃぁ、あのジジイも早々手出しはでき無ぇ。これって、相当なメリットじゃ無ぇか?」
 門脇に申し出る。

 笠原の言葉に、門脇はグッと言葉を呑み込むと、笠原がニンマリと笑って
「俺があんたにこの話しをした意味分かるよな?」
 問い掛けると、門脇の顔が歪み
「嵌めやがったな…。あの人は、この話しを知っても手が出せ無ぇ…。おまえは、今そう言う状態にいるって事だ…。んでっ、俺もこの話しを聞いた時点で共犯者だ…。あの女に、ちょっかいを掛けたのは、俺だからな…」
 ボソボソと言い放つと、門脇は肩を竦め
「んで、俺に何させようってんだ?」
 問い掛けると、玄関の呼び鈴が鳴り、笠原と門脇は訝しげな表情を浮かべる。

 笠原が車椅子を操り、玄関に向かうと、
「ちわっす!槙村さんのお宅で、間違い無いでしょうか?」
 笠原の前に並んで、確認を取る。
 状況を整理できない笠原が曖昧に頷くと、並んでいた男達が散らばり、テキパキとトラックの荷台に消えた。
 そんな中、笠原に確認を取った男が車椅子を押してリビングに向かい、笠原の前に跪いて数枚の伝票を差し出し
「受け取りの確認をお願いできますか?笠原さん」
 笠原に告げると、名を呼ばれた笠原の脳裏に、1人の妖艶な看護師の姿が浮かび上がった。

 笠原は、笑いを噛み殺しながら、伝票にサインを書き込み、何が運び込まれるのかを確認する。
 運び込まれた物は、高級介護用ベッドを筆頭に、1人用の冷蔵庫が内蔵されたサイドテーブルなどの家具や、大型液晶テレビなどの家電製品、その他足の不自由な笠原に必要な介護用品が、数十点送られ、その中にそれに倍する淫具の数々が混ざっていた。
 笠原は、伝票の金額を頭の中で概算し、百万を超えた辺りで計算を止め、呆れ返ると伝票を受け取った配送員が勢い良く頭を下げ
「有り難う御座いました」
 笠原に告げながら、踵を返す。
 それを合図のように、荷物を運び込んだ配送員達も、一挙に家を飛び出し、トラックに乗って帰って行った。

 嵐のように過ぎ去って行った配送員の姿を、門脇が呆然と見詰めながら
「な、何だったんだ…。今の…?」
 ボソリと問い掛けると、笠原は自分の手の中に有る物を見詰め、噛み殺した笑いを漏らす。
 門脇が訝しげに笠原を覗き込むと、笠原はフッと鼻先で笑い
「まぁ、俺も[仲良しこよし]で馴れ合う積もりなんか無かったが、まだまだ甘いってこったな。あの女…、マジで質が悪い…」
 自嘲気味に呟くと、まるで意味が掴めない門脇が、笠原の顔を覗き込み
「おまえ、何言ってんだ?俺にも分かり易く説明しろよ!」
 捲し立てる。

 すると、笠原はチラリと門脇に視線を向け、配送伝票を翳し
「今、送られてきた物は、あの師長が送って来た物だ。多分、あの病院の備品だろう…。物自体は新品だが、叩き売るしかない型後れの在庫品だ。それを俺に押し付けた…。恵美も、俺に必要な物だったら、文句も付けられ無ぇからな…」
 笠原が説明すると、門脇が目を剥き、口をパクパク開け閉めする。
「俺が勝手に買い物をして、請求は恵美に行き、払えない恵美は雇用主に泣きつくしか無ぇ。病院側は、だぶついた在庫品を処分し、強制的に借金させる事で、恵美の選択を縛ったんだ。ったく、阿漕と言うか、がめついと言うか…。やっぱ、抜け目が無ぇ」
 言い切ると、門脇も笠原の行き着いた答えに気付き、驚きながら頭を縦に振る。

 笠原は、鼻先で小さく笑って、邪悪な笑みを浮かべ
「まぁ、兎にも角にも、この買い物でこの家の家計は火の車だ…。精々頑張って金を工面して貰おうか」
 ボソボソと呟くと、門脇もニンマリと笑い
「金に困った女が、金を稼ぐには…」
 笠原に問い掛け、笠原もコクリと頷き
「[女]を使うしか無ぇ…。だが、ここまで遠回しにやる意味が有るのかよ…」
 ボソリと呟き首を捻る。

 だが、笠原が抱いた疑問は、実は大きな意味が有った。
 強要され身体を売れば、必ず不満を抱く。
 そう成れば、情報が漏れる確率が格段に跳ね上がる。
 それを未然に防ぐ為、[自ら申し出る]事が必要だったのである。
 それも、命令されて申し出るのでは無く、自らが選んで言い出さなければ成らない。
 そうする事により、どんな扱いを受けても文句を言えない、[奴隷看護師]が出来上がるのだ。
 一旦この立場に堕ちてしまえば、マゾ牝に染め上げるのも容易で、事実全てのピンク服看護師がそうで有った。
 彼女達は、例外無く病院に依存し無ければならない理由が有り、その身を投げ出してマゾ牝看護師として勤務している。
 依存させる事により、100%の確率でマゾ牝看護師達は逃げず、訴えず、献身的な奉仕を行い、圧倒的優位に立つ一般看護師も、優越感と共に何時自分がその立場に落ちてしまうか分からない恐怖を抱き、口を閉ざす。
 このシステムに因り、殿村病院はこの市の中枢に君臨し、覇を誇っていたのである。

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