隷属姉妹
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■ 第4章 突き付けられる選択7-3

 余談では有るが一般看護師が肥満傾向に有り、ピンク服看護師のスタイルが良いのは、全てこのシステムが原因である。
 美しければ美しい程、嵌められ、ピンク服看護師に堕とされる可能性が高く、システムに組み込まれた女性達は、優遇を求める為に人気を得なければならない。
 その為には、スタイルを維持し、美貌を磨かなければならないのだ。
 その費やす経費が、自分の首を絞め、荒淫に身を投げる事に成っても、止められない。
 正に両輪が燃えさかる自転車操業の典型である。
 そして、一旦身を堕とした女は、最早普通の生活は送れない。
 マゾ牝の快楽にドップリと浸かった女達は、闇の奥底に堕ち、人間を辞めて家畜と成る。
 その再就職先を斡旋するのも、このシステムの一環だった。

◇◇◇◇◇

 一新された私室に入ると、笠原は呆気に取られる。
 型後れだが、最高級の介護ベッドが部屋の真ん中に位置し、その周りに冷蔵庫付きのサイドテーブルが配置され、正面の壁には大型液晶テレビが掛けられていた。
 そのテレビの下には、見慣れぬ黒い金属製の箱が有り、チカチカ赤と緑の光りが灯っている。
 門脇がそれに気付いて近付くと
「おい、これ最新のDOS/V機だぜ…。インテルのオクトコアをデュアルで積んで、しかも水冷式だ…」
 蓋を開けて中身を確認しながら笠原に告げると
「おい、日本語喋れ。ベラベラ並べられても、意味分かん無ぇ」
 笠原は不機嫌そうに告げ、ベッドに向かう。

 門脇がパソコンの蓋を閉じ、ベッドに近付きながら
「ったく…。豚に真珠だな…。まぁ、高性能マシンってこった。使いこなせりゃ、大概の事はできるぜ」
 言い放ち、サイドテーブルに載ったリモコンの一つを手に取り、テレビの電源を入れた。
 地上波のテレビ放送が流れ、門脇がリモコンを操作すると、BS、CSと画面が切り替わり、ウィンドウズの画面が現れ、門脇は口笛を鳴らす。
 門脇の態度に、笠原が首を捻ると、門脇はニヤニヤした笑いを浮かべ
「どうやら、これを送ったヤツは、画像をご所望だぜ」
 笠原に言い放ち、周囲を見渡して目的の箱を見付ける。
 笠原に箱を差し出しながら、門脇はニヤニヤ笑いを強め
「こいつは、俺が渡したビデオカメラに対応する、リモコンキットだ。こいつを付ければ、あの8台を思いのままに操作できる」
 笠原に熱く説明すると、笠原は門脇の興奮が理解出来ず気圧されながら曖昧に返事し、門脇は笠原の希薄な反応に舌打ちして
「ったく…。良いか、このパソコンには、最新の顔認証システムが入ってる。このソフトだけでもウン十万って代物だ。それに連動させれば、8台のビデオカメラが自動でズームやパンを調整して、画像を撮り続けるんだ」
 笠原に説明するが、笠原は門脇の並べる説明に、何の驚きも示さず
「だから、何だ?」
 ボソリと問い返す。

 笠原の問い返しに、門脇は唖然とした後、大きな溜息を吐きガックリと肩を落として
「ああ…、もう良い…。設定は、俺がやっとくわ…」
 言いながら、サイドテーブルに載ったワイヤレスキーボードとマウスをひったくって、テレビの前に胡座を掻いて陣取り、カタカタとキーボードを叩く。
 笠原は、門脇の後ろ姿を見て、首を捻った後、興味を無くしたように新しく成った住環境を確かめる。
 介護用のベッドは、ボタン一つで身体を起こし、車椅子への移動も容易にさせ、冷蔵庫付きのサイドテーブルには、冷えた飲み物が常備でき、格段に便利に成った。
 ベッドから降りなくても、殆どの事がそのままできるのだ。
 そして、そのサイドテーブルに並ぶ、大小2つのアナル栓を見て、笠原はピシャリと額を叩く。
(あちゃっ…。そう言や朝方、恵美と愛美が言ってたな…。眠気に負けて、[今日は良い]って言っちまった…)
 朝の光景を思い出し、後悔するもフフンと小さく笑い。
(恵美の奴は、刺激が無く成って逆に効果的かもな…。愛美は…。まぁ、逃げる訳無ぇか…。まぁ、やっちまった事は仕方無ぇ)
 さっさと開き直ってしまった。

 小さな後悔をさっさと頭から叩き出した笠原は、快適な新たな住空間に満悦の笑みを浮かべると、門脇がスッと立ち上がり、笠原のベッドに近付いた途端、四隅のビデオカメラが一斉に動き、門脇の姿を追う。
 固定していたカメラが動いた事に、笠原が目を剥くと
「カメラの三脚も変わってる。上下左右に80度動いて、設定した被写体を追う。カメラの高さも100pから180pまで高さを変える。こんなの、市販品じゃ無ぇぞ…」
 真剣な表情の門脇が笠原に告げる。
 笠原は、門脇の言葉を鼻先で笑い
「だから言ったじゃ無ぇか。普通じゃ無ぇって…。諦めろ、俺もお前も、もう逃げられ無ぇ…。精々、許される範囲で愉しもうぜ」
 諦めたような口調で言い放つと、門脇は奥歯を噛み締めて顔を顰め、無言で踵を返す。

 門脇が出て行くと、笠原の携帯電話が鳴り、笠原は着信ボタンを押しながら耳に当てると
『贈り物は届いたかしら?』
 艶のある女の声が問い掛け、笠原は小さく笑いながら
「ええ、快適な空間を満喫してますよ」
 答えると、小さな含み笑いの後
『私の望みは、分かるわよね?望みが叶わなかった時の事も…』
 ゾッとするような静かな声で問い掛ける。
 笠原の顔から、スッと笑みが消え
「分かってるつもりです…。ですが、一つだけお願いが…」
 相手に答え、問い掛けると
『何?』
 短く問い返され
「あの女をどうするつもりですか?」
 最大の疑問を問うと、一瞬の沈黙の後噛み殺したような含み笑いが聞こえ
『どうも…』
 ボソリと囁いた。

 余りに予想外の答えに、笠原が唖然とすると
『どうもしないわ…。私が必要なのは、この病院で働く特別なスタッフ。病院内での勤務態度が私達の要望通りなら、他のプライベートなんかには干渉しない。無論、勤務に支障がでない範囲の話しだけどね…。私達は、ギブアンドテイクなのよ。高いお給料を払う代わりに、とくべつなお仕事をして貰う…。そう言う事…』
 ネットリとした声音で笠原に告げ、通話を切った。
 色気の有るゾクゾクとする声に耳を震わされたが、笠原の身体はジットリと粘つく汗で濡れていた。
 自分より年若い女の底が、全く見えなかったからだ。
 悪党を自称し、人を騙し、金を巻き上げて、人を踏みにじる生活をしてきたが、自分が今相手をしている女の足元にも及ばない。
 強い敗北感に、笠原の中に苛立ちが拡がって行く。

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