隷属姉妹
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■ 第4章 突き付けられる選択8-6

 笠原は、泣き崩れる恵美を見下ろし、ニヤリと笑いマウスを操作した。
 すると、パソコンからDVDを乗せたトレイがせり出し
「あの映像をどうするかは、おまえに決めさせてやる。その代わりちゃんと責任持てよ」
 恵美は、ガバリと頭を跳ね上げ笠原の顔を見詰め、次の瞬間ベッドから飛び降り、パソコンのトレイからDVDを抜き取り胸に抱え
「は、はい!必ず」
 笠原に約束する。

 笠原がニヤリと笑ってベッドを叩き
「なら、誠意を見せて貰おうか。俺は、前にも言ったが、いやらしく乱れる女が好みだぜ」
 恵美に告げると、恵美はコクリと頷き
「はい。精一杯、お好みの姿をお見せできるよう頑張ります」
 笠原に答え、ベッドの上に戻る。
 この日から、恵美は笠原の望むがまま、痴態を晒し、よがり乱れて、送り込まれる快楽を隠そうともせず、身の内で渦巻く悦楽を淫語で報告する様に成った。
 だが、元来の強い羞恥心は隠せず、チラリチラリと滲むように浮き出し、それが笠原の嗜虐心を擽る。
 この態度の変化は、聞いていただけのイメージより、見る事で依りリアルな物へと変わったのが原因である。
 DVDを見せた笠原の計略に、恵美は物の見事に嵌ってしまったのだ。
 だが、既に愛美がそのビデオを見た事を知らぬ恵美は、受け取ったDVDを封印してしまった為、一番反抗心を持つ好美の目には触れなかった。
 それがどう言う結果を生むか、この時点で誰も想像していなかった。

 好美が罰せられた日から、1週間が経ち、好美も反抗的な態度を表に出さなく成って、笠原の命令に従順に従い、日常の着衣と入浴を許されるように成っていた。
 だが、好美の顔からは明るさが消え、覇気と言う物がまるで無く、部屋に引き籠もりがちと成っている。
 それは、愛美も同じで、笠原に呼ばれた時以外、殆ど自分の部屋から出て来ない。
 表面上は、落ち着いたように見えるが、恵美の心配事の種は尽きない。

 ナースセンターの壁際に立ち、大きな溜息を漏らすと
「どうしたの恵美ちゃん?今日10回目よ」
 恭子が覗き込みながら、恵美に問い掛けてくる。
 恭子は、5交代制の勤務サイクルに入っている為、常日勤の恵美とは、あまり顔を合わせる事が無いが、マメに声を掛け気遣ってくれる優しい先輩だった。
 だが、恵美の抱えている悩みは、軽々しく他人に相談できる類の物でもない。
 家の中で起きている事も然り、今こうして立っていても疼く身体も然り、笠原に身を預け乱れるように成ってから、日毎に増して行く快感も然りなのだが、最も切迫し早急な解決策を出さなければ成らない悩みが、恵美に溜息を吐かせていた。

 そう、恵美の直面している悩みは、金である。
 どれ程切り詰めても、突発的に笠原が金を使い、その支払いが恵美に回ってくるのだ。
 次の給料日までまだ10日も有るのに、財布の中には千円札が数枚と小銭しか入っていない。
 どう考えても、お金が足り無いのだ。
 金融会社に駆け込めば、当座は凌げるが、返す当てのない借金をすれば、その行き着く先は火を見るより明らかで、手出しもできず、かと言って恵美に金を貸してくれる知り合いも居ない。
 病院関係者間での金銭の貸し借りは、就業規定で固く禁じられており、破れば解雇を含めた罰則が科されるからで、親戚筋にも絶対に頼めないし頼みたくも無い。
 恵美は、正に四面楚歌の状態なのである。
 そして、その状態は時を追う毎に、刻一刻と悪化して行く。

 恵美が又溜息を吐き掛けた時
「お昼交替よ」
 昼食を終えた青服ナース達が声を掛けながら現れ、恵美達の昼食が許されたが、恵美は財布の中身に思いを馳せ、空腹を抱えて立ち尽くすと、恵美の手を恭子が握り
「恵美ちゃん行こ」
 引っ張りながら、関係者専用扉を押す。
 恵美は、慌てながら
「えっ、あっ、まっ、待って下さい。私、その、お昼は…抜く事にしたんです…」
 恭子に告げる。
 恵美の言葉に、恭子が足を止め、振り返ると、恵美のお腹が[く〜〜〜っ]と盛大に鳴った。
 その音に、恵美が頬を赤く染め俯くと、恭子がクスクス笑い
「無理なダイエットは、お肌に悪いわよ。それに、それ以上痩せたら、鶏ガラみたいに成っちゃって、女の魅力を目減りさせるわ。恵美ちゃんがそんな事したら、勿体ないわよ」
 恵美の顔を覗き込んで、ニッコリ笑いながら告げた。

 恵美は、恭子の言葉に何と答えて良いのか分からず、思わず視線を反らすと、再び手を握られ
「悩める恵美ちゃんに、今日はお姉さんが奢って上げる。だから、お食事しながら話を聞かせて」
 グイッと手を引かれ、恵美達は食堂に向かう。
 恵美は、戸惑いながらも、胸の奥が熱く成って目頭に涙を浮かべた。
 両親の死後、気を張り詰めて続けて居た恵美は、久しぶりに掛けられた優しい言葉に、胸が締め付けられたのだ。
 こうして恵美は、恭子にされるが儘に着いて行き、己の抱えた切迫した悩みを相談した。

 恵美の話を聞いた恭子は、難しい顔をして大きな溜息を吐き
「う〜ん…。それは、切実な問題ね。でも、その男も我が儘よね。そりゃ、賠償義務が恵美ちゃんに有っても、やり過ぎ何じゃない?」
 怒った顔で、笠原を非難すると、恵美は困った顔で恭子を宥めながら
「え、ええ…。でも、笠原さんの使うお金は、賠償額から減って行きますし、使って貰った方が、早く賠償金を払えるので、私としては口出しできないんです…」
 恵美が答えると、恭子はムッとした顔で
「それで、恵美ちゃん達が餓死しちゃったら、その男も、本末転倒でしょ?」
 本気で怒りながら、潜めた声で捲し立て、いきなり立ち上がり
「恵美ちゃん、連れション付き合って」
 食べ終えた定食のトレーを持って、スタスタ歩き出す。
 唐突な恭子の行動に、恵美は面食らいながらも、トレーを持って立ち上がり、恭子の後を追い掛ける。

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