隷属姉妹
MIN:作

■ 第4章 突き付けられる選択9-5

 サイレンの音を聞いた瞬間、好美の表情からサッと血の気が引き、以前の光景が脳裏に浮かぶ。
 そう、笠原が来た当日の夜の事だ。
 警察が来ても、自分達の立場が悪く成るだけで、更に追い詰められる。
 好美は、蒼白な顔でバッと振り返り、半狂乱で笠原に掴み掛かる恵美を見詰め
「お姉ちゃん!警察が来る!」
 大きな声で叫ぶと、笠原に襲い掛かっていた恵美の身体がビクリと震え、動きが止まる。
 目を吊り上げ、髪を振り乱した恵美が、その言葉に我を取り戻し、目の前の笠原に目を向けると、笠原の身体は頬や胸や首に無数の掻き傷が走り、所々の皮膚が抉れ血が流れていた。
 それに対して、恵美は乱れているのは髪型程度で、かすり傷一つ負っていない。
 いや、それどころか、家族の誰も外見的な傷など無い。
 被害者である愛美にバッと目を向けると、愛美はいつの間にかきちんと洋服を着込んでいた。
 この状況で、警察に見られた場合、被害者は傷だらけの笠原で、加害者は間違い無く恵美だった。

 恵美が、[あっ]と呟き、震えながら身を起こすと、玄関の扉にドンドンドンと強めのノックがされ、髪の毛をグシャグシャに振り乱した恵美の顔が、ギッギッと油の切れたロボットのように動き、玄関に向く。
 その恵美の背中に
「おう。この状況、どう説明する?おまえと好美が実際に目にした事を言っても、俺も愛美も認め無ぇ。好美はどうか知ら無ぇがおまえの証言が通ったとして、俺の罪は良い所淫行だな。まぁ、淫行なんて|小便刑《しょんべんけい》じゃ|刑務所《むしょ》は無ぇ。がよぉ、おまえ達は揃って海外旅行…。どっちを選ぶかおまえ達の好きにしろ」
 笠原は頬の傷を押さえながら、ニンマリ笑って告げる。

 笠原の言葉に恵美は、蒼白な顔を強張らせ、脱兎の如く玄関に走り、好美の横に立ち
「好美!ゴキブリが出てみんな逃げまどった!良いわね!」
 声を潜めて早口で捲し立てると、引き攣り蒼白な顔をした好美もコクリと頷き、2人で玄関の扉を開ける。
 駆けつけた警察官に、2人で口裏を合わせた言い訳をし、何度も何度も頭を下げ、辟易した表情の警察官がブツブツ言いながらパトカーに乗り、野次馬の周辺居住者達に[お騒がせしました]と頭を下げると、恵美と好美を白い目で見ながら、ザワザワと囁き合って散って行く。
 その野次馬達の放つ心無い呟きが、グサリ、グサリと恵美と好美の心に突き刺さり、窮地に立たされている姉妹を追い詰める。

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