梨華子と亜矢子
百合ひろし:作

■ 第一章 劣情2

それから約10ヶ月後、二人が中2の時の体育祭―――。
もう二人はダークフォースでは無かった。しかし今度はクラスが違う為敵味方に別れて闘う事になった。
梨華子と亜矢子はお互いに成績でも運動でも対決してきた仲でもあった。しかし、お互いに実力は伯仲している為、リレーの様に自分の番に来る前に差がついていたら逆転はほぼ不可能だった。
その為、HRでどの種目に入るかを決めるのだが、二人ともサシで対戦できるものを希望した。
それが100mとクラス対抗リレーの1走だった―――。
スウェーデンリレーの1走でも良かったが、1走の距離が短すぎるので先の2つが無理だったらという条件だった。

その想いが実り対決した。100mでは亜矢子が勝ちクラス対抗リレーでは梨華子が勝った。
しかし、この日の対戦はこれだけでは無かったのである―――。
クラス対抗騎馬戦というのがあった。1年から3年までの1組が一つのチームといった具合だった。
梨華子の組、3組と亜矢子の組、4組が勝ち残り、決勝戦が行われた。しかし、制限時間一杯まで闘っても同数残り、決着が着かなかった。
そこで行われた大将戦が行われた。その大将の騎手になったのが―――梨華子と亜矢子だった。
梨華子と亜矢子は身長160cmを越えるやや大柄な体型であり、通常小柄な人が努める騎手には不向きだった。男子ならば平均より大きい人が騎手になっても、高校生にもなればその平均より大きな騎手を支えられるだけの相当な体力を持つ人がいる。そういう人が馬をやればいいが、女子でそういう人は稀だった。
しかし、短い時間で勝負が決まると踏んだのと、お互いに絶対に勝ちたいから騎手に強い人を選びたいというのがあった。ちなみに梨華子も亜矢子も平均より大柄だった為今までは馬だったが―――。

梨華子と亜矢子は馬の人や応援するクラスメートも驚く位の取っ組み合いをした。頭の鉢巻きを必死で守り、相手の腕を掴んで更に鉢巻きに手を伸ばす―――。
その凄まじい闘いにいつの間にやら静かになっていた。普段の仲の良さを知ってるだけに、まるで喧嘩そのものの様な闘いに息を飲むしか出来なかった。
結果は―――亜矢子のクラスの馬が力尽きて崩れた瞬間に梨華子が亜矢子の鉢巻きを奪って勝利した。鉢巻き奪うか馬を潰せば勝ちというルールで両方を成し遂げるという完全勝利だった。
後ろ手をついて起き上がろうとする亜矢子を梨華子は何も言わずに見下ろした―――。
敵味方ではなくなったその日の帰り道では梨華子と亜矢子はお互いの健闘を称え合った―――。


梨華子と亜矢子が再び同じクラスの2組になった中3の1学期終わり―――。一人の女子生徒が停学になった。担任の先生はその生徒の為に詳しい事情は伏せていたがクラスメートの大半は理由を知っていた。

不純異性交遊―――

様はその女子生徒は誰だか分からないけど男とsexしたということだ。そこまでは知らなくても、その女子生徒には彼氏が居るというレベルで知っていた人も含めればその中には梨華子と亜矢子も含まれた。更にその話を聞いた直後に保健の授業なんてあった日には性というものを意識せずにはいられなかった。
梨華子は初めて大人への階段を登る事、女の子ではなく女性である事を意識した時の事を思い出した。
「おめでとう、梨華子」
と亜矢子が初ブラジャーを祝ってくれた日―――。である。その頃―――、クラスでのブラジャー普及率が9割を越えた頃悪戯で他の子のブラジャーのホックを外して回る子がいた。彼女は軽量級ではあるが柔道部員であり、軽快さと素早さを活かして器用にホックを外していた。そして親しい人が相手だった時は態と男子に向かって
「誰誰ちゃんのホック外したよ〜」
とか言っていた。梨華子、そして後にブラジャーを着けた亜矢子もターゲットになったが、その子が近付いたら何とかかわしていたので被害には合わなかった。しかし、普及率が100パーセントになった頃には飽きたのか、それとも精神的に落ち着いてきたからなのか、それは分からないがその悪戯をしなくなっていた。その子を今更ながら思い出すと同時に梨華子は亜矢子のブラジャーのホックを自分の手で外してみたい、と思うようになった。
しかし、亜矢子には何と言えばいいのだろうかと悩んだ―――。

そんな想いは一時的な物であったかの様に暫くすると梨華子は忘れ去ってしまった。しかしある事―――普通の人なら何でもない誰もが経験するイベントが忘れかけていた記憶のスイッチを再び入れた。

中学最後の体育祭である―――。

梨華子は今度は味方となった亜矢子とは今度は同じ種目で戦い、クラスの点数アップに貢献したいと思った。
一年の時は違う種目でクラスに貢献し、二年の時は敵味方で同じ種目で闘って決着をつけた。だから三年では一緒に戦い、しかも手から手へとバトンを繋ぎたかった。その為二人はクラス対抗リレーとスウェーデンリレーの二つにエントリーして二つ共認められた。この二つは配点が高く、どのクラスも運動神経のいい人を並べてくるので異論は無かった。
そして全て決まった後、委員長は一年から三年まで全員でやる騎馬戦の説明に入った。
「今年も今までと同じで男女共鉢巻きを取るか馬を潰したら勝ちです。騎手を誰にするかは1〜3年の2組全員集まって決めます―――」
と言った―――。

去年の大将戦が特別なのであって体格的に自分も亜矢子も、もう騎手になる事なんてないだろうな……と思い、ボーッと話半分で聞いてたら、

騎馬戦―――を取る……

と聞こえた。その時たまたま前の方の席に座っていた亜矢子の背中が見え、薄い黄色のブラジャーが所々透けて見えていた。それを見て自分もそうだが、初めて着けて二年も経てば慣れもあるのか、色がついたり可愛いのを着ける様になってくるんだな、と思った。

そう―――。亜矢子と二人で去年鉢巻きを取り合ったようにブラジャーを取り合えば―――。と思った。問題はこんな嫌らしい遊びがしたいなんてどう亜矢子に伝えるかだが。
それにうまく伝えた所で亜矢子が引いてしまう、今までの友情が壊れてしまうかもしれないと思うと怖くて言えずに悶々としていた―――。


体育祭が終わって一週間―――。梨華子は一度嵌ったその気持から抜け出せず、身が入らない状態になっていた。
珍しく小テストで亜矢子には愚かクラスの上位1/3位の人よりも低い点数となってしまい、先生には、
「一気に落ちたぞ。気を抜くと竹田と同じ高校は入れなくなるから気を付けなさい」
と注意された。梨華子は、
「はい……気を付けます。頑張ります……」
と力無く答えた。
その日の帰り道、亜矢子は流石に心配になった。今までも梨華子が調子崩していたのには気付いていたが、梨華子は弱くないからきっと自分で解決すると思ったし、今までもそうだったので聞かなかった。
しかし、今回は不調な期間が長すぎた。最初のうちは今までの貯金があるからいきなり成績が落ちたりはしない。しかし、それが底をついたら一気に出る―――。今回の梨華子はそれだった。

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