梨華子と亜矢子
百合ひろし:作

■ 第一章 劣情3

「梨華子―――どうしたの?最近おかしいよ」
亜矢子は一緒に帰りながら聞いた。梨華子は最初は隠していた。こんな事言える筈が無かった。この日は亜矢子は薄いピンクのブラジャーをしているがそれを外してみたいだなんて―――。
亜矢子は暫く聞いたりなだめたりしたが梨華子が話す気配が無かったのでツインテールを翻して、
「梨華子はいつから私に隠し事をするようになったの?」
と声を震わせながら聞いた。梨華子はハッとした。そして、
「亜矢子……ゴメン。体育祭の種目決めの日から―――」
と答えた。亜矢子はそれを聞いて、
「随分長いね……。私の事信じられなくなったの?もしそうなら何で信じられないのか教えてよ」
と言った。梨華子は、
「そんな事無い……」
と答えた。亜矢子は更に、
「なら何で言えないの?」
と向き直って梨華子の肩を掴んで握った。力が強い―――、痛かった。亜矢子の手は震えてた。
「亜矢子……痛い、痛いよ」
梨華子は苦しそうに言った。亜矢子は、
「なら言って。言わないと絶交する」
と言葉にも力を込めた。梨華子は、
「先に―――離して……。言いたくても痛くて―――」
と言った。亜矢子は梨華子の肩から手を離した。すると梨華子はボブカットの髪で顔が隠れる程下を向き、
「今ここでは言えない事だから、今晩うちに来て……今日は私以外は居ないから」
と言った。亜矢子は、
「分かったよ……行く。聞かせてもらうよ」
と言った。梨華子は、
「一番気に入ってる下着を着けて来て……」
と言った。亜矢子は、
「?」
と不思議に思った。一体下着と梨華子の悩みと何の関係があるのだろうか―――と。
「言わなきゃ絶交って亜矢子は言ったけど聞いても絶交しない自信ある?」
梨華子は下を向いたまま握った拳を震わせて言った。亜矢子は、
「どうして……?」
と聞いた。梨華子は、
「それ位の事で悩んでいたのに言わなきゃ絶交なんて軽々しく言わないで」
大声では無かったが力の込もった声で梨華子は言って亜矢子の前から走り去った。亜矢子は追い掛けようとしたが諦め、
「絶交するわけ―――無いじゃん……」
と呟き、暫くその場を動かなかった。
兎に角言われた通り、気に入った下着を身に付けて行くしか無かった。


亜矢子はマンションに帰るなりシャワーを浴びて汗を流した。そして髪を乾かしてから部屋に戻ると梨華子に言われた通り、今一番好きな下着―――、白に近い水色のブラジャーと同じ色のパンツ、いや、もう前にリボンが付いてたりする大人用のパンツ、パンティだった―――を身に付けた。その上に黒のポロシャツを着てジャケットをはおった。そして下はまだフリルの付いたミニスカートは可愛すぎて抵抗があったのか持っていなかった。その代わり赤のチェックのミニスカートを穿いた。そして靴下はピンクに赤いボンボンの付いた可愛いものを選び、最後に髪をツインテールにまとめた。そして机に向かい宿題をしながら夜を待った。

一方梨華子は気分が晴れず、宿題も半分位しか手に付かなかった。やらなきゃ、と思いながらも途中で手が止まってしまう。
しかし、今日は亜矢子が来る―――。やらないわけにはいかないと思い、歯を食い縛った。
「言わないと絶交する」
亜矢子の言葉を思い出した。どうせ言わなかったら絶交だ―――。亜矢子が本当に絶交出来ると思うかと聞かれれば梨華子は出来ないと思う、と答えるが、この際どちらにしろどう話を切り出すべきか悩んでいたのだから思い切りぶつけてやろうと思った。その結果軽蔑されても構わない―――。
この間の小テストは亜矢子に完敗だった。気持ちの整理が付いたらその事が悔しく思えるようになって来た。宿題の残りを終わらせて風呂に入り食事をした。それから夜を待った―――。


梨華子がテーブルに掛けて本を読んでいると玄関のチャイムが鳴った。梨華子が出ると立っていたのは亜矢子だった。
「言われた通り、気に入ったのにしてきたよ」
亜矢子は言った。梨華子は、
「うん。私も―――。じゃ、上がって」
と答えて亜矢子を上げ、部屋に案内した。亜矢子が部屋に入るとドアを閉めて、
「好きなだけ暴れられるから安心して」
と笑顔で言った。亜矢子は、
「暴れる?どういう事?」
と聞いた。好きな下着と注文した次は好きなだけ暴れられるとは全く持って意味不明だった―――。梨華子はそれを聞いてから、
「話すよ。覚悟して聞いてね―――」
と先ず釘をさした。亜矢子は覚悟というまたこの場で使う意味が分からない単語が出てきたので、
「う、うん」
と、もう生返事してしまうより無かった。


梨華子は先ずは去年の騎馬戦の話をした。梨華子が亜矢子をねじ伏せた形になった事だ。亜矢子は、
「勝ちたかった―――。運が無かったけどそれも含めての勝負だから」
と少し悔しそうに言ってから笑った。梨華子は、
「私も勝ったから言う訳じゃ無いけど亜矢子とやれて良かったと思うよ」
とボブカットの髪を少し気にして後ろにやった。そして、
「馬は無いけど……も……もう一度やりたいと……思ったんだ……」
と、突然言葉を詰まらせた。そして亜矢子から顔をそらし、ペットボトルの水を含んだ。そして気持ちを落ち着けた。亜矢子は、
「うん、ならやろうよ。ハチマキなら100均にあるし」
と言った。しかしフに落ちない。たったこれだけの事を言うのに一見繋がりのない訳分からない要求をしたり覚悟を求めたりはしない筈である―――。
「ううん、鉢巻きは要らない。何故なら―――」
梨華子は顔から火が出そうな程恥ずかしい気持ちになり、左手で顔を押さえながら右手は最初に亜矢子の顔を指差し、少しずつその指は下がっていった。
梨華子は口からさっき食べたものを全部吐き出したい気持ちになった。心臓はドクドクと気色悪い鼓動を打ち、そして呼吸は浅く早くなった。
梨華子の指は亜矢子の胸で止まり、カタカタと震えていた―――。
「その下に着けてるブラ……ブラジャーを取り……合うから」
梨華子はそう言うと膝から崩れ落ちた。亜矢子は、
「り、梨華子」
と言って梨華子を抱き止めた。梨華子は、
「こんな事ずっと思ってた―――。亜矢子のブラジャー外したい……って。変態だよね……」
と言うと、亜矢子は、
「いいよ―――」
と答えた。梨華子は、
「軽蔑―――しない……の?」
と聞いた。亜矢子は、
「梨華子に謝りたい。確かにこんな悩み言えないよ……。絶交なんて軽々しく言ってごめんなさい……軽蔑なんかしない―――」
亜矢子は頭を下げた。梨華子は気持ちが落ち着いてきて、謝る亜矢子に、
「ううん、亜矢子は正しいよ。信用してないと思われたら―――私も辛いよ」
と言った。それから二人に笑顔が戻った―――。

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