梨華子と亜矢子
百合ひろし:作

■ 第六章 恋心1

「亜矢子、放課後陸上部行かない?」
梨華子は学校へ行くときに亜矢子に提案した。体育祭前に行ったきりだった事と、あの場で学んだ事が多かったので、また何か発見があるかも知れないと思ったのである。亜矢子もいいのではないかと思っていたので了承した。


陸上部―――。長距離のエースの礼二が練習を見に来ている女子生徒、2年生だが構わずに声を掛け、口説いていた。それを見て短距離のエースの大介は呆れて、
「オイオイ、練習中だろ。いくらなんでも―――」
と言うと礼二は笑って、
「結果が出なくなる―――だろ?心配無用さ。俺は常に結果を出す男」
と返した。礼二は自分が認める様に、いわゆるイケメンではない。しかし、何と表現すればいいのか―――、結果を出すカッコ良さや気さくに誰にでも話し掛ける性格が受けるのである。その為女子が来るのだが口説きまくるために特定の彼女がいない。
「まあ妬くな。いかにも肉食系の見た目じゃウケ悪いの解るが―――」
礼二がお茶らけて言うと、大介は両手を広げて呆れるしかなかった。
大介は礼二とは逆にいわゆるイケメンである―――とはいっても爽やか系で如何にも優しそうなタイプではなく、筋骨逞しい、ワイルドなタイプである。その為女子のウケはそんなによくなかった。カッコイイんだけどちょっと引くな―――、とか強引そうだ、とかそんな印象なのである。

「ん?」
礼二が更に二人練習を見に来た事に気付いた。
「あれは―――?」
可愛く綺麗に揃えられたボブカットとリボンをつけていないツインテールの二人といえば、梨華子と亜矢子以外にはいなかった。考えてみれば二人は体育祭前に来て以来である。廊下ですれ違って挨拶を交す事はあったが接点はほぼ無かった。ならなぜ今になって来たのだろうか?
大介は違和感を感じた―――。そう、礼二が口説きに行かないのである。女が来たら迷わず口説きにかかる礼二がである。
「口説かないのか?」
大介は意地悪く笑って聞くと礼二は、
「二人だからな―――俺は一人を口説くのが好きだからな」
と言った。要は二人のうち一人を口説くともう一人は手が空いてしまう、礼二なりの気の使い方だった。しかし、多人数になれば口説くが―――。
『この間も言ったように、如何にも真面目そうだからな』
礼二は思った。梨華子も亜矢子も付き合ったら束縛されそうな感じがして、どうしても彼女の候補にはならなかった。礼二の情報網を使って調べれば調べる程。
とはいっても会話しない訳では無いので梨華子と亜矢子の所にも行って話しかけたりはした。


梨華子と亜矢子は適当な所で切り上げて帰路についた。その時に会話は無い―――。二人共口数は元々少なく、グループで行動する時など聞き役に回る事が多いし、二人の時もそんなに会話が多い訳では無い。しかし、全く無口というのも珍しい―――。
「どうしたの?」
亜矢子が聞くと梨華子は首を軽く振り、
「ううん、何でもないよ」
と答えたが、お互いにこの空気はおかしい事に気付いていた。しかし何がおかしいのか、この時はそれの正体が解らなかった。
「じゃあ……久し振りに騎馬戦する……?」
亜矢子が言った。梨華子はニコッと笑って首を振った。そして、
「もう……やらなくてもいいんじゃないかな」
と答えた。元々梨華子の悩みから来たものであるので亜矢子のブラジャーを外して、快感を与えたからもう―――役目を終えたと、そう思った。
二人はそれからまた無口になり、亜矢子の住むマンションの前で別れた。


梨華子と亜矢子はそれから何度か陸上部に足を運んで練習を見学するようになった。そして、12月半ば―――クリスマスが近付いてきた。
帰り道―――。亜矢子が梨華子に向かって、
「梨華子、岡山君の事……好き?」
と聞いた。梨華子は顔を赤らめて下を向き、
「うん―――、ああやって打ち込むのが」
と答えた。ついこの間まで解らなかったモヤモヤしていたものの正体に気付くのには時間は掛らなかった。その顔を上げて、
「亜矢子は?」
と聞いた。亜矢子は、
「私もだよ―――。またライバルになっちゃうね」
と言った。梨華子を見ずに顔をそらして―――。
それから暫く二人の間に沈黙が流れた。そして沈黙を破るように亜矢子が拳を握ってファイティングポーズを取り、
「どっちが先に告白するか……勝負しよ」
と笑顔で言った。梨華子は笑顔を返し、
「うん……」
と答え、亜矢子と同じ様にファイティングポーズを取って、まるでボクシングの試合開始時にやるように亜矢子の拳に自分の拳を合わせた。二人はそれがおかしくてクスクスと笑った。二人はまだ大介に告白は遠いと思っていた。まだ陸上部の練習を見ているだけ、そして少し話すだけに過ぎず、パーセントとして表すと告白を100パーセントとして20〜30パーセント位だった。しかし、お互いにそれに気付いたらやはり意識せずにはいられなかった。
「お互い頑張れるように―――。今日は家、誰も居ないんだ……」
亜矢子が言った。梨華子はその意味を瞬時に理解した。
「うん、行く」
梨華子はそう返事した。


梨華子は家につくなり着替えてシャワーを浴び、白を基調としたブラウスとミニスカート、そしてジャケットを着て、その上にコートを羽織りポシェットを持って、亜矢子の家に行く、と行き先を告げて家を出た。
亜矢子の家は近いので直ぐに着いた。エレベーターで登り目的の階に着くと、それから通路を歩いて亜矢子の家に着いた。
チャイムを鳴らすと直ぐに亜矢子が出て来た。亜矢子もシャワーを浴びて着替えたようで、髪を下ろしていた。梨華子を上げた後、髪をツインテールにまとめて、
「今日は大丈夫だよ」
と言って自分の部屋に招いた。以前『騎馬戦』をした時に工事していた歩道橋はとっくに直っていたが、もう周りが薄暗くなってきていた為、亜矢子は雨戸を閉めた。これで室内は誰にも見られない―――。
「いつから―――たの?」
梨華子は顔を赤くして聞いた。亜矢子は良く聞き取れなかったが、
「1週間くらい前から」
と答えた。梨華子の質問内容は『いつから性的行為をやりたくなったのか』と判断した。梨華子は、
「私も大体それ位……だよ。もう少し早いかもしれないけど」
と答えた。亜矢子の判断は正しかった。その後お互い顔を赤くして見合せた―――。


男性に抱かれるのはどんな気分なのだろうか―――?二人共大介の事を意識すればする程それについて考えるようになった。その為時々性欲が沸き上がって来たのだが、それなら性欲発散の為にオナニーすればいいとなる。しかし経験が無いし、また一人で篭ってやる気にはならなかった。それならば、お互い1回ずつ性的快感を得た―――イカせた訳だし、今回もそうすればいいのではないかと思った。
蛍光灯の昼白色の光がコートを脱いだ梨華子の服の白を一層引き立たせ、亜矢子の水色のセーターと黒のシャツ、青のミニスカートの色を一層鮮やかにした。
お互いに思った―――可愛いと。普段から、どんな格好の時でも思っていたが、今一度そう思った。

「今日は―――一緒にやろう……よ」
亜矢子はそう言って梨華子に同意を求めた。梨華子はコクリと頷いた。
梨華子と亜矢子はお互いに向き合って床に座り、上着を脱がし合った。梨華子の白いジャケットと亜矢子の水色のセーターをお互いに床に置いた。そして服の上から胸を揉み合った。梨華子も亜矢子も互いに目を合わさずうつ向き加減で自分の胸を揉む相手の腕と自分のスカートから太股、そして膝を見ていた―――。
胸から快感が少しずつ登って来たがまだ声を出す程では無かった。まだ下着すら見せていないのに声を出すのは早すぎた―――。
「上……脱がそうか」
梨華子がうつ向いて顔を赤くしたまま言った。亜矢子は黙って頷いた。梨華子は亜矢子のシャツに指を掛けた。亜矢子は梨華子のブラウスのボタンを一つずつ丁寧に外した。梨華子は亜矢子のシャツを掴んだまま亜矢子がボタンを外し終わるのを待った。
梨華子のブラウスのボタンが外れていくに従って段々と腹、そしてピンクのブラジャーが露になった。そして亜矢子は梨華子のブラウスのボタンを全て外すと手を離してだらりと下げた。梨華子はそれを見て亜矢子のシャツを上に持ち上げた。
亜矢子の腹、そして黄緑の縞模様のブラジャーが露になった。亜矢子は梨華子が脱がしやすい様に頭を下げて、腕を前に出した。梨華子はシャツが裏返らないように丁寧に持ち上げ、亜矢子の頭を抜いた。それから袖を引っ張って亜矢子の腕を抜き、シャツを畳んでセーターの上に置いて腕をだらりと下げた。
亜矢子は何も言わずに梨華子の肩に掛ってるだけになったブラウスに手を掛けて肩から抜いた。ブラウスは後ろに落ち、残りは梨華子の前腕に引っ掛かっているだけとなった。袖のボタンを外して腕から抜き取った。
梨華子と亜矢子はその間全く話さなかった。もうお互いの呼吸で解る―――。

「寒いね」
亜矢子が呟いた。しかし、この呟きは何の意味も為さなかった。梨華子が、
「うん」
と返事してそこで会話は終わってしまったから―――。

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