梨華子と亜矢子
百合ひろし:作

■ 第七章 告白2

亜矢子の気持ちは知っていた。大介は亜矢子にも同じ様に接し、亜矢子も大介に恋心を抱いていた。しかし、大介は一人しか選べない。その為梨華子は気持ちをまとめ、亜矢子に大介に告白する事を告げた。きっと亜矢子は―――悔しかったに違いない。今もしかしたら泣いてるかもしれない。
「亜矢子……ゴメン……」
梨華子は静かに呟いた。そして亜矢子に対する気持ちを押し殺すように両手で顔を覆った。もし逆に亜矢子が告白の意思を固めて梨華子に言ってきたらきっと自分は亜矢子が取った様な態度を取っただろう。内心悔しくてもそれは早く気持ちをまとめられなかった自分が悪いと諦め、亜矢子を応援しただろう―――。しかし、梨華子が先に気持ちをまとめた。それだけだった―――。
「……亜矢子……ゴメン……」
梨華子は繰り返し呟いた。しかし、これしか方法は無いのだろうか―――?


亜矢子は泣いてはいなかった。ただ、梨華子から告白の宣言を受けて、自分も大介に告白したいと思いながら出来なかった―――気持ちがまとめられなかった事を後悔した。梨華子が告白を宣言したという事ははっきりと具体的にまとめたということだ。今から明日、梨華子が告白するまでにそれをまとめる事など到底無理だった―――。しかし、大事な大事な梨華子が大介に告白するのだから嫉妬等してはいけない。
『ずっと一緒だよ……』
お互いにそう認識しあって今までそうやって生きてきた。これからもそうだ。ならばもう梨華子の幸せを願うしかない。亜矢子は机に掛けて両肘をついて両手で顔を覆いながらそう思った。もしも立場が逆だったら梨華子が今亜矢子が考えていた事をやるだろう―――。


梨華子は暫く立っていた後、床に落ちている夏服のスカートとネクタイを拾ってハンガーに掛け、ワイシャツは椅子に掛けた。そしてベッドに倒れ込むとそのまま布団を被って眠ってしまった。食事もせず、宿題もせずに下着姿のままで―――。


次の日―――。梨華子と亜矢子はいつもの様に登校した。そして教室に入ると梨華子は大介を呼んだ。大介が梨華子の所に行くと、
「放課後……東公園で……」
梨華子はそう言った。大介は、
「わかった」
と答えた。

亜矢子と礼二は付いて行かずに待っていた。亜矢子は梨華子が何で大介を呼んだのかは解っていたが礼二には言わなかった。また礼二は詮索しなかった。呑気にガムを噛み、
「何が起こるのかな〜」
と呟いた。亜矢子はその時は何も言わなかった。


いつもの様に授業は行われ、いつもの様に放課後になった。亜矢子から見て梨華子は授業に気が入っていない感じがしたが、梨華子が授業中に指名される事は滅多に無く、この日も指名されなかった為、梨華子の様子がいつもと違う事に気付く者は少なかった。
「梨華子」
亜矢子が呼んだ。梨華子が振り向くと、亜矢子は拳を握り、ファイティングポーズを取った。そして笑顔で、
「梨華子も握って」
と言った。梨華子が握って亜矢子と同様に構えると、亜矢子は以前やったように、拳を梨華子の拳に軽く合わせた。それから耳元に口を近付け、
「頑張って」
と言った。梨華子は、
「うん」
と答えた。


東公園―――。梨華子と亜矢子は先に行って大介が部活を終えるのを待っていた。
日が西に傾き、光も弱くなった頃、梨華子はブランコに腰掛けた。
「これ―――、こんなに小さかったんだ」
梨華子がブランコを揺らしながら言った。小学生時代はよく亜矢子と遊んだブランコだった。椅子の板は当時は木だったが、今は硬質プラスチックに変わっている。それ以外は当時のままだった。
そして鉄棒もあった。梨華子はブランコを揺らして勢いを付けて飛び降りた。スカートが捲れ、薄い黄緑のパンティが見えた。しかし、一緒にいるのが亜矢子なので気にしなかった。うまく着地した後、スカートの尻を叩き、汚れを落とした。


大介が来た―――。亜矢子は気を利かせて梨華子に手を振りその場から去った。梨華子はギュッと拳を握り、緊張した面持ちで大介を見つめた。大介は一人である、礼二は居ない―――。
「岡山―――君」
梨華子は歩いて近付いた。大介は梨華子が何故呼び出したかは解っていた。
「好きなの。付き合って下さい」
梨華子はあれこれ言葉を並べず単刀直入に言った。告白を決心した後、何と言おうか考えた。色々思い付いたが、どれも周りくどく結局何が言いたいか分からず、うまく行かないと思った。
下着姿でベッドに潜り込んだ時に決めたのが今の言葉―――。自分の気持ちを正直に、そして大介の性格からストレートな表現の方がいいと思ってこの言葉にした。
梨華子は顔を赤くして大介を見つめていた。大介は、
「参ったな。俺から言おうと思ってたのにな―――いいよ」
と照れ臭さを隠すように梨華子から視線を外して横を向いて言った後、今度はきっちり梨華子を見つめ、
「Okだ」
と力強く言った。梨華子は、
「ありがとう」
と答えた。

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