梨華子と亜矢子
百合ひろし:作

■ 第七章 告白3

大介は梨華子だけでなく亜矢子も好きだった。礼二には気付かれない様にしていたが、二人を好きな事は丸分かりな程だった。そして告白したいと思う様になったが一つ難題が残り、出来なかった。


一人を選ぶ事はもう一人は選ばない事。一人を愛するという事はもう一人を愛さないという事―――。

この選択が重かった。礼二だったら二股だってやるだろうが、大介は真面目だった。梨華子を選んだら亜矢子に対して、亜矢子を選んだら梨華子に対してどう接したらいいのか悩んだ。
それでも二人が好きな以上どちらかを選ばねばならない。

その葛藤の最中の梨華子の告白だった。大介は今がどんな時代だろうと男が女を振り向かせてナンボと思っていたので、先に言われてしまったか、と思ったが逆に悩む必要もなくなった。梨華子を選び、梨華子を愛するという結論に達する事に対して―――。

大介と梨華子が手を繋いでるのを見て亜矢子は目を伏せた。そこに丁度礼二が現れた。礼二は亜矢子の様子から結果がどうだったか予測できた。亜矢子の肩にポンと手を置き、公園内の大介と梨華子を見た。亜矢子は顔を上げて礼二に、
「梨華子―――良かったね」
と言った。礼二は、
「亜矢ちゃんも好きなんだろ?いいのか?」
と確認するように聞いた。亜矢子は、
「うん―――。でも梨華子に幸せになって欲しい」
と答えた。礼二は口にはしなかったが、
「そんなもんかね。力づくでも奪うのが恋愛じゃないのかな」
と思うと同時に亜矢子は諦めないのではないかとも思った。どんな手段を使うかは分からないが―――、そんな予感がした。
梨華子と大介は礼二と亜矢子に合流した。そしていつもの4人で帰った―――。一つ変わったのは梨華子と大介が付き合う事になった事だった。


「明日、デートに行く事になったよ」
土曜日に亜矢子は梨華子からメールを受けた。今回の日曜は陸上部が月に一度の休みで大介は体と心を共にリフレッシュして、更に付き合い始めなんだから早速デートしようと誘ったのだった。

日曜日―――。梨華子と大介は駅で待ち合わせた。梨華子は考えてみれば一人や家族で行動する時以外に亜矢子が側に居ないのは亜矢子と出会って以来初めてだった。それが新鮮であったし不安でもあった。
大介はデートは勿論その他の事でも女性と一対一になることは殆んど無かったので、デートをどう進めればいいかは予め簡単に礼二に聞いていた。
初めてという事でファミレスで食事し、電車で色々な所で降りてブラブラしようといった感じであんまり綿密には計画しなかった。
「それ、何処で買ったの?」
大介は梨華子の着ている服を指して聞いた。梨華子は、
「駅前の百貨店の3階だよ」
と答えて、その店の事を簡単に説明した。大介はその百貨店自体はそれなりに行く。しかし、そんな店が入ってるとは知らなかった。7階の文具と書籍、5階のスポーツ用品、2階のメンズ、地下の食品しか行かないからだった。
白のブラウスに白のフリルのミニスカートが晴れの日という事もあり映えていた。そよ風が吹いた時にボブカットの髪とスカートが軽く揺れた。
「凄くかわいいよ」
大介は照れを隠すように梨華子から顔をそらし、無表情を装って言った。梨華子は、
「嬉しい……ありがとう」
と答えた。一対一でかわいいと言われたのは―――亜矢子以外に居たかどうか梨華子は思い出そうとした。
小学生の時も中学生の時もクラスの可愛い人と言えば名前が上がったし、彼女にしたい人と言えば梨華子または亜矢子と名前が上がったりしていた。しかし、一対一では女子相手にも言われた事は無かった。可愛いと正面から言ってくれたのは亜矢子のみだった。梨華子は大介が言ってくれたのが嬉しかった。


梨華子と大介が電車に乗る時、少し離れて同じ様に乗る一見カップルに見える二人が乗った。礼二と亜矢子である―――。
礼二は亜矢子から相談を受けていた。梨華子が亜矢子が側に居ないのは久し振りといったが、当然亜矢子にとっても梨華子が側に居ないのは久し振りだった。双子の様に育ってきた亜矢子は不安で礼二に話を持ち掛けた。
「なら、つけようぜ」
礼二の答えは簡単だった。
そして二人でつけて来てる訳だが、礼二は時々態と亜矢子を不安にさせる言葉を混ぜた。例えば―――、
「最後は何処に行くんだろうな」
「喜ばれるテクニックってあるんだぜ」
「ダイには梨華ちゃんの"好み"聞いときな、強引はよくないぜ。て話したなあ〜」
等々。

昼過ぎ―――。日は高く、かなり暑くなった。礼二は自分は勿論となりの亜矢子もかなり汗をかいていた。礼二はタオルを出して汗を拭いた。
「話に夢中でまだ俺達に気付いてないな。すぐバレると思ったが」
亜矢子もハンカチを出して汗を拭いた。
歩いてる梨華子と大介を見ると、大介がウエットティッシュを使って梨華子の額の汗を拭いていた。そしてそのまま自分の顔を拭いた。礼二は、
「オイオイ、マジかよ」
と笑った。何だか相手の汗まで愛しい―――ティッシュまで共用なんてアツアツ振りだった。


「梨華ちゃん、あんな薄出のブラウス着るからブラジャー透けまくりじゃん」
礼二は亜矢子に言った。亜矢子は顔を上げて梨華子の後ろ姿を見ると確かにさっきまではそんなに気にならなかったのに今は結構透けて、ピンクのブラジャーを着けているのが分かった。
因みに亜矢子は白のセットを着けているが灰色のポロシャツに水色のミニスカートなので透ける事は無かった。
亜矢子は自分の事の様に恥ずかしくなり、顔を真っ赤にしてうつ向いた。そして、
「梨華子……、多分気付いてない」
と言った。

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