梨華子と亜矢子
百合ひろし:作

■ 第七章 告白4

「あそこに入ろうか」
大介はファミレスの看板を指して言った。梨華子は汗を拭いて、
「そうだね。メニュー好きなの多いし、よく亜矢子と来たんだよ」
と賛同した。そして二人は一階が駐車場のファミレスに入った。それに遅れて礼二と亜矢子が入った。
梨華子と大介は道路に面した席に座り、礼二と亜矢子は逆側でかつ梨華子達が見える席に座った。
梨華子は背中が濡れてる事を気にして、背もたれには寄りかからず、食事中に乾くよう心掛けた。
二人の話題は普段4人でいる時には話さない事―――、例えば亜矢子の話とか礼二の話になったりした。梨華子も大介もお互いに一番親しい友人を大切にしている事が解った。気が付いたら相手を誉めていた。今回のデートについても礼二が教えてくれたのが多くあった事―――。梨華子にしても、緊張して眠れないと亜矢子に打ち明けたら長電話に付き合ってくれたりした事―――。
そして、何よりも替えがたい大切な友人でありながら、負けたくない人でもあると。
それについてはスターティングブロックの件で大介は気付いていたが、その気持ちは半端ない事―――。勿論告白の件、亜矢子にも大介に告白する気持ちがあったが梨華子の方が早かった、なんていうことは亜矢子の気持ちもあったので言わなかったが―――。

「俺達。初恋でいきなりデートなんて凄いよ」
大介は頭の後ろで腕を組んで言った。梨華子は、
「うん」
と答えた。

梨華子と大介の前に料理が運ばれて来た。明らかに普通の男女のカップルより量が多い―――。
「頂きます」
二人は声が揃ったので顔を見合わせて笑った。
礼二と亜矢子の方も量は多目だった。


大介は、
「弁当は控え目だったの?」
と聞いた。梨華子も亜矢子も弁当のサイズは普通の女子と大差は無かった。その為大介は疑問に思った。梨華子は、
「確かに―――横はね」
と言って、手で弁当箱の大きさを表現した。そして、
「亜矢子もだけど、スポーツクラブ行ってるからお腹空くんだ。だから深さが少し深めにしてその分入れてるよ。あと入れ方を工夫したりして―――」
と答えた。つまり、弁当箱の面積を小さくしてあまり大食いな印象を与えず、工夫して量をとっていた事を説明した。
「なるほどね」
大介は答えた。女性には難しい事情があるようだ。大介はそう思った。

礼二は大介と梨華子がほぼ食べ終わった事を確認し、
「ちょっと急ぐぞ」
と言って急いで食べた。亜矢子もそれを見て残ってるメニューを片付けた。
「よく分かるね」
亜矢子は聞いた。亜矢子は視力はいいが、ほぼ店内の反対側の席に座っているので細かくは見えなかった。礼二は笑って、
「俺の視力は5.0だぜ。アフリカ合宿の時に視力上げてもらったのさ」
と言った。勿論それは嘘でありアフリカ合宿もやってないが、2.0の視力と相手の所作で大体分かるのは本当だった。


大介と梨華子が会計を済ませて出るとそれに合わせて礼二と亜矢子も会計を済ませて店を出た。
「梨華ちゃん、汗乾いたみたいだね」
礼二が言った。亜矢子は礼二が言った意味はすぐに解った。続きは言わなかったがきっと礼二は、
「まあすぐにまた透けるんだろうけど、ね」
と思ってるだろうと考えると顔が赤くなった。礼二はそれを見て、
「亜矢ちゃん、どうしたの?」
ととぼけて聞いた。亜矢子は、
「あ―――うん。何でもない……」
と答えたが自分も透けてるのではないかと背中に手を回して気にした。梨華子とは透けるどころか外し合う仲ではあるが、街中で透けるのは自分の事の様に恥ずかしかった。礼二は亜矢子が背中を気にしたのを見てニヤリと笑い、
「亜矢ちゃん、梨華ちゃんのブラが透けるの期待して興奮しちゃったかな?外してあげようか」
と耳元で囁いた。亜矢子は益々顔を赤くして両手で顔を覆い首を振った。ツインテールの髪が左右に揺れた。
梨華子―――か大介でないと嫌だ、との拒否表明だった。外される事自体を拒否した訳では無かったが流石の礼二もそこまでは分からなかった。
礼二は普段からこの様な事を言う―――。大抵は大介が止めて礼二は残念がるが、梨華子と亜矢子が顔を赤くするのが気に入ってた。そして兎に角二人を色々観察していた。梨華子と亜矢子の反応から身に着けてるアクセサリ、亜矢子のツインテールのまとめ方、そしてその日に着けているブラジャーの色、形まで―――可能な限り。
その為礼二は端から見てると軽口を叩いてる様にしか見えないが実は相手の気分などを身に付けている物から判断して言ったりしていた。例えば少し厚目の生地のワイシャツに白のブラジャーをしていたら、透けるのをその日は極端に嫌がり、体調が悪い―――要はあの日なのではと判断し、また別の日―――。汗で濡れればブラジャーどころか肌が透ける位生地が薄かったり、黄色やピンクのブラジャーをしていたら、開放的になっていると判断したりしていた。


夕方―――。
「今日は楽しかったな。また明日ね」
梨華子の家の前で梨華子と大介は別れた。梨華子は門の中に入り、大介が角を曲がって見えなくなるまで見送った。それから家に入り、自分の部屋に入った。
一方、礼二と亜矢子は梨華子と大介が別れるまで見ていた。
「安心したかい?」
礼二が聞くと亜矢子は、
「うん、良かった」
と答えた。礼二は亜矢子の答えの真意が知りたくなった。
「何が?」
と聞いた。例えば大介が梨華子を初デートでいきなりホテルに連れていかなかったからなのか、それとも別の理由があったのか。亜矢子は、
「初デートでうまく行かなくて別れちゃう話聞いた事あるから」
と言った。それは一年の時一緒のグループにいた人の事だった。見ての通り無事に終わったので安心した。そして自宅のマンション前で礼二と別れ、階段を上がっていった。


ピピピピピ。
梨華子の部屋のアラームが鳴った。前に『騎馬戦』で使っていた物である。梨華子は少し時間を置いて気分が落ち着いたら亜矢子にデートの事を話したいと思っていた。しかし、亜矢子は電話に出なかった。無機質な女性の声が聞こえてきた。
「まいっか。明日でも」
と呟き、携帯電話を置いた。

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