梨華子と亜矢子
百合ひろし:作

■ 第九章 公認3

亜矢子は帰った後、大介に何と言えばいいのだろうと思った。十中八九、梨華子と付き合ってるのは知ってるだろ?と言われる。亜矢子は梨華子の事は何でも知っていると言ってもいい。知らない筈が無いのだからそれに対してどう言えばいいのだろうか?梨華子の公認だと言えばいいのか?それは梨華子が言わなければ説得力は全く無い―――。
亜矢子は机に肘をついて頭を抱えた。ツインテールの髪が机につき、先が分かれた。


次の日―――。亜矢子は目を真っ赤にしていた。全く眠れなかった。結局言葉をまとめる事は出来なかった。梨華子は心配そうに眺めていたが、そこは何も言わなかった。告白の事で声を掛けるべきではないと思っていた―――。
幸い亜矢子が授業中に指名される事は無かった。一応梨華子が勉強に身が入らなかっただろうと気を利かせて亜矢子に宿題等を教えておいたのだがその必要は無かった。
「助かった―――」
亜矢子はそう言って昼休み中ずっと寝ていたのが全てを表していた―――。梨華子はその隣で黙って座っていた。


放課後―――。亜矢子は大介を東公園に呼び出した。東公園はかつて梨華子が大介を呼び出して告白し、亜矢子がそれを陰から見た場所―――。
大介が来るまで亜矢子はブランコに掛けていた。途中まで梨華子と一緒だったが別れて梨華子は大介がどこから来るか分からないので茂みに隠れていた。


大介が来ると亜矢子はブランコから降りて、大介の元に行った。
「どうしたんだ?こんなとこに呼び出して―――」
大介は聞いた。亜矢子が一睡もしていなく、その為に昼休みに熟睡していたのだからただ事では無いと思っていたが梨華子に聞いても答えてくれなかった。ただ、梨華子は事情は知ってるのだろうとは思った。
亜矢子はまだ目が赤かった。休み時間は全て睡眠に充てて、自習時間も寝ていたのだが、それでも睡眠時間は足りなかった。
「私―――、大介君が好き。だから付き合って」
亜矢子は絞り出すように言った。大介は驚いた―――。
亜矢子が眠れない程悩んでいたのはこの事だったのか、告白する言葉をまとめる為に―――。
「それは、無理だよ」
大介は答えた。当然の答えだった。
「俺が梨華子と付き合ってるのは一番近くに居て知ってるだろ。今亜矢子にOkしたら二股になるじゃないか」
大介は付け加えた。亜矢子は首を振った。
「それは……解ってる。解ってるけど好きなのは諦められないよ。何度も諦めようとした。礼二君にも相談した……」
亜矢子は下を向いて言った。顔が段々赤くなっていくのを感じた。大介は、
「礼二に―――?」
と聞いた。亜矢子が頷くと、大介は亜矢子は礼二にけしかけられたなと思った。礼二は日頃から恋愛は戦争だと言っていた。つまり、大介が好きなら梨華子から奪い取れ―――とでも。亜矢子はそれに従って告白に来たのだと。
「でも、俺は梨華子が好きなんだ。梨華子を捨てられないよ」
と言った。奪い取れと言われた亜矢子に対してそれは無理だという答え方だった。すると亜矢子は、
「梨華子も大介君が大好きだよ。奪おうなんて思わないよ……」
と言った。大介は今の答えの意味が分からなかった。それならこっそりと付き合おうと言うのだろうか―――?
「梨華子にも相談した」
亜矢子が切り札を出した。梨華子と相談した、ということは、梨華子は完璧に知っている事になる。さっき梨華子に聞いたとき梨華子は事情を知ってる風な感じがしたが、これで繋がった―――。
「梨華子が―――だと??」
この矛盾をどう理解すればいいか解らなかった。浮気をしてもいいと言うのか?そんな話がどこにある。そこに梨華子が来た。大介は梨華子を睨むように見つめ、
「どういう事だよ」
と説明を求めた。梨華子は、
「亜矢子は大切なの」
と答えた。大介は、
「ちょっと分からないな……説明してくれよ」
と言った。梨華子は亜矢子をかばうように自分が前に立ち、
「私も亜矢子も大介が好きになった。ただ、私の方が告白が早くて付き合った」
と言った。大介は、
「ああ。俺も二人が好きで、どっちを選ぶか迷っていた」
と返した。梨華子は、
「選ばないで両方を愛して欲しい。私は亜矢子ならいい。ずっと一緒だから」
と亜矢子を守りながら言った。亜矢子はここで口出しするとこじれるので黙っていた。大介は、
「梨華子も悩んでたのか?」
と聞いた。梨華子は頷いた―――。
梨華子は亜矢子がおかしくなっていくのをずっと辛そうに見ていた。自分が大介と付き合うことが亜矢子を叩き落としてる事。それに対する罪悪感はあった。当然の事だが大介はそれに気付く事は出来なかった―――。
恋愛は綺麗事ばかりではない、選ばれなければ傷付くだけだ。しかし梨華子は亜矢子に限りそれを許容出来なかったのだった。大介とSexした事を話した時に見せた亜矢子のあの寂しそうな笑顔を忘れられずにいたのだった。
『ごめん亜矢子、これだけは譲れない』
また告白する前の日、そう言いながらも亜矢子に対しての罪悪感があったのだった―――。
「私だけいいのかって」
梨華子は言った―――。


大介は梨華子の気持ちにどうすればいいのか揺れた。まさか揺れるとは思わなかったし、梨華子がこんな事を言ってくるとは思わなかった。女性は彼氏を独占したがる、当然の事だ。梨華子は違う、違っていたことに悩んだ―――。かつて梨華子と亜矢子の二人のどちらかを選ばなければならなかった事に悩んだ。そしてその事を悩まなくて良いということに悩んだ。そして悩みまくり、結論が出るまでに二時間掛った。辺りはすっかり暗くなり、公園は街灯の明かりで緩やかに照らされた―――。

「わかった。亜矢子の告白、受けるよ」
大介は亜矢子の肩をポンと叩いた。亜矢子は大介に抱きつき、
「ありがとう……」
と顔を埋めた。梨華子は安堵の表情を見せた―――。
その後三人で食事をして解散した。時間は二十一時だった―――。

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