梨華子と亜矢子
百合ひろし:作

■ 第10章 幸福1

亜矢子はいつもとは違う服装にした。オレンジに近い黄色のポロシャツにデニムの半ズボンとジャケットという組み合わせに、太いベルトを巻いてポシェットを着けていた。更に今まで履いた事がない黒のニーソックスを履いていた。
亜矢子が待ち合わせ場所に着いた時は大介も梨華子も来ていなかった。亜矢子は携帯を見ながら手摺に腰掛けた。するとその時梨華子が来た。
「おはよう」
二人は笑顔で挨拶した。梨華子は白いブラウスにネクタイを着けて赤いミニスカートにジャケットを着ていた。
「珍しいね、スカートじゃないなんて」
梨華子が言うと亜矢子は、
「うん。たまにはいいんじゃないかな。ニーソも初めて」
と答えた。そう―――この服装は意外と露出は少ないのである。

二人が話してる所に大介が来た。大介は梨華子が居る事に違和感を感じた。
「あれ?二人なのか」
大介は聞いた。亜矢子は、
「うん―――。ただ梨華子はついてくるだけだよ」
と答えた。大介は梨華子と亜矢子の間で何かしらの話があった事は理解したが、梨華子はただ一日時間を潰す事になる―――。
「梨華子はいいのか?目の前で楽しくしてても」
この間の亜矢子の告白で梨華子と亜矢子二人の絆の深さは理解したが念の為に聞いた。梨華子は、
「うん。何があっても―――」
とだけ答えた。その返事に大介は何か引っ掛かるものを感じたが、梨華子が言う事だから大丈夫かとそれを無視した。
デートする時は梨華子は亜矢子を、亜矢子は梨華子を呼ぶ約束をしていた。二人はそれに従って―――だった。


大介と亜矢子、そして梨華子の三人は何処へ行くか決めていなかった。大介は梨華子と初めて行った時は海の見える公園だったが、梨華子も一緒にいるだけに同じ場所というのは芸が無い。逆に丘陵地がいいかとも思ったが、礼二と違って大介はデートスポットに明るく無かった。しかし、ここでうまく亜矢子をリードしてこそとも思った。
梨華子とは何度かデートしたが初めての時以外はお互いの事を大体掴んでいるので色々迷いながら行くのも逆に楽しかったりするが、初めての亜矢子に対してはしっかりした方がいい。梨華子とデートして色々な所に行ってるのを知ってるだけに尚更だった―――。

少し考えた後で大介は礼二に教えてもらったスポットを思い出した。
「こっちに行こうか」
大介は亜矢子に言って軽く袖を引っ張った。亜矢子はコクリと頷いた後、
「手、繋ごうよ」
と言った。大介は、
「ああ」
と返事をして二人はギュッと握りあった。梨華子はその様子を見ながら黙ってついていった―――。

三人が行ったのはいつもの行動範囲より遠い街だった。遊園地で何かに乗って遊んだり、観覧車に乗ってキスしたり―――というのは全く無い。
その代わりに食事処は沢山あるしショッピングも出来る。また、ゲームして遊んだりも出来た。
三人はその後若者向けの店―――、駅ビルに入ったり、向かいの百貨店に入ったりもした。そこで大介は色々亜矢子に似合いそうな服を見付けては勧めたりした。梨華子はそこでも口を挟まず楽しそうに聞いてるだけだった。

食事―――。大介は近くのファミレスに二人を誘った。
「よく見付けたね」
亜矢子が言うと大介は、
「こういう時に携帯は便利だと思うよ」
と答えた。急遽この街に決めたから準備はまったくしていなかったが、歩いてる最中等に携帯使って色々調べていた。
ファミレスに入り席に着いた。大介が一人掛け、反対側に亜矢子と梨華子が座って向き合った。そこで色々話をしながらその場を楽しんだ。やっぱり大介も亜矢子と梨華子も量いける―――。
並んだ皿を見て三人は笑った。
因みに梨華子は自分の注文した分は自分で払った。


一通り楽しんだ後、亜矢子は大介の手を握った後、指を絡ませた。
「今日は本当に楽しかったよ―――。ありがとう」
と言った。大介は、
「俺も楽しかった。楽しいって言われるのが嬉しいな」
と答えた。すると亜矢子は、
「お礼―――させて」
と言って顔をそらせた。大介は何の事か解らなかった。目を閉じて、と言われて閉じるとキスが待っているとかその位の事しか思い付かなかった。
亜矢子は大介と指を絡ませたまま、
「帰ろうか―――。"家"に」
と言って笑顔を見せた。ますます意味が解らなくなった。お礼をするのに家とはこれ如何に、である。するとそこに梨華子が初めてこのデートの内容に関して口を挟んだ。
「大介……。亜矢子に任せて」
とだけ言った。大介は亜矢子が何をしたいのか解らなかったが梨華子がそう言ったので従う事にした。大介が亜矢子、梨華子の二人と知り合ったのはつい一年ほど前である。しかし、梨華子は違う―――。気付いた時には亜矢子の親友だったのだ。なので大介は梨華子に何か考えがあって亜矢子に従う様に言ったのだと思った。。
『亜矢ちゃんが大介とヤッてもいいのか?』
『亜矢子だったら、いいよ』
梨華子は礼二と会話した内容を思い出した。亜矢子は一度失った恋愛を梨華子の承認の下取り返した。ならば礼二が予想した様に梨華子に追いつこうとする。しかし梨華子は全てを承知だった。このデートで亜矢子が精神的だけではない、肉体的な充実も大介に求めるだろう事はデートが決まった瞬間には気付いていたのだった。

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