隣人
横尾茂明:作

■ 隣人の音1

 征次は尻ポケットから財布を取り出し中を覗く・・。
「くそー二千円しかねーか! これじゃパチンコも行けやしねー」
先週まで勤めていた運送屋をクビになり3日ほどブラブラしてたが金もつき、しかたなく先ほどハローワークに行ってきた・・。
「係員の野郎・・カッタリー仕事ばかり勧めやがってクソー」

 征次はアパートに帰ってきたもののやることもなく・・向かいのパチン屋の音につられ出かけてみるかと考えたが軍資金がない。サラ金も借り尽くし・・明日からの飯代もことかく始末。
(さてと・・これからどうするかなー)

 征次が思案に暮れているときドアを叩く音・・。
(おいおいまた取り立てかー)
 征次は居留守を使おうと息を殺す。

「すみません・・隣に引っ越してきたものですが・・)

(なんだ・・取り立てじゃねーのか)

 征次は面倒くさそうに立ち上がり、キッチン横の粗末な玄関ドアを乱暴に開けた。

「あのー・・今日から隣に引っ越してきた高田と申します、よろしくお見知りおきを・・」

 征次は逆光に手をかざしながら廊下に立つ女を見た・・。

(・・・・・・)
(スゲーいい女・・これほど品のあるオンナが・・こんなボロアパートに・・)

 にこやかに微笑む女は・・歳のころは26・・7と征次はみた。

 その女の横には2〜3才くらいのお人形さんのように可愛い女の子が甘えるようにしがみついている。

「あのー・・子供がおりますので・・夜泣きの際はどうぞ堪忍して下さいまし・・これはつまらない物ですが・・」

「へー・・隣に引っ越してきたんですかー・・俺・・前田いいます! まっよろしく」

「ではこれで失礼いたします」

 女がきびすを返すと、少女はこちらを向いてニコっと笑いペコとお辞儀をして母の後を追う・・。

(しかし・・いい女だなー・・最近テレビを見ても・・あれほどいいタレントは見ねーよなー)
(どうよあの尻と脚の艶めかしさ・・うーたまんねーなー)

 征次は品定めするようなねばい目で、女の後ろ姿をつま先から頭のてっぺんまで舐るように見た。

(あんないい女が・・しかしなんでこんなボロアパートに・・こりゃなにか曰くが有りそうだなー)

 征次はドアを閉め女の事を考える・・。
(気品有るたたずまいの美しい女・・あの白さはどうよ・・)
(ブラウスから覗いた胸の辺りのきめ細かい肌・・ああいうのが吸い付くような餅肌って言うんだよな)

 征次は生まれてこのかたこんないい女は見たことがないと思った。そんな美しい女が薄い壁を挟んですぐ隣りにいると思うだけでペニスが硬くなる・・
(あー抱きてーなーチクショー)

 征次は去年、東北から家出してきた少女を騙して2ヶ月ほど同棲していた。しかし征次の異常な性癖に恐怖したのか・・征次が九州方面に混載便を転がしていた留守に少女は消えた・・。

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