隣人
横尾茂明:作
■ 自暴自棄1
3週間、征次は料理屋で働いた・・。働いてみると今までの運送業より自分に合っているのに気づく・・。
最近は厨房に入り料理人の真似事をさせてもらえる程になっていた。
(このままここに落ち着くかなー)
給料も時給から日給月給になり、食事も朝昼晩と出・・また夜は10時まで働くため金を使う暇もなく・・以前の浪費癖もおさまっていた。
隣りのオンナはあれから1週間ほど留守にして先週の初めに帰ってきていた。子供の泣き声が聞こえないことから・・どうやら子供は実家か何処かに預けてきたのか。
それから旦那は週1回の割で来ることが分かった。当初・・征次はオンナを犯すことばかりを考えていたが・・最近は仕事の没頭でその思いは少しずつ薄れていった。
「征次! なんだこのエビの揚げ加減は、まだ生じゃねーか、テメーやる気が無いのなら辞めちまえー」
厨房頭が怒鳴り込んできた、昼時のランチで厨房には怒号が満ち・・汗だくで征次はエビとハンバーグを焼いていたときだった・・。
「オメーが急がせるからだ!・・なに! 辞めろだとー・・おおうこんなとこ辞めてやらー」
征次は厨房の仲間が制止するのを振り切って店を飛び出す。早朝に取立て屋に踏み込まれ、今月中に利子だけでも入れろと脅されイライラしていたさなかの出来事だった。
路傍のゴミ箱をけっ飛ばし、道行く男女をにらみ付けて家路に向かう・・。
(チクショー・・少しは真面目に働こうと思ったのに・・やる気が無いだとー・・クソー)
しかし征次は家に着いた時・・(ハーッこうだから俺は長続きはしねーんだよな・・)
(前の運送屋も・・ついカーっとなって辞めちまったし)
(アー・・謝るのも癪にさわるしなー・・んんーどうするか・・・)
(くそー面白くねー)
イライラしながら思いあぐねているときに隣から軽やかなハミングが聞こえた・・。
(あのアマー・・調子くれやがって!)
(どうしてくれよーか・・)
征次はこのときオンナのハミングが無性に癇に障った・・八つ当たりもいいとこであるが・・。
立ち上がると冷蔵庫からビールを取り出し一気に飲み干した・・もう一本有ると思ったが・・無い・・。
ビールが無い事が・・征次の心にフッと暗い火を付けた・・。
(くそあのオンナ・・犯してやる!)
征次はカメラをポケットに入れ下駄を突っかけて廊下に出る・・オンナのドアまで進むと乱暴にドアを叩く。
「どちら様ですか?」
少し怯え声の美奈の声・・。
「隣りの前田っす!」
「御用は何でしょうか・・・・」
征次は・・言葉を用意してこなかった・・しかし咄嗟に「臭いんですけど」と応えた。
美奈は意味が分からず少し躊躇する様子で有ったが・・「ガチャ」と音がしてドアが開かれた。
「あのー何が臭いんですか?」
「変な匂いがお宅のベランダから匂うんです・・ちょっとベランダを見せて下さいよ!」
征次は怒気を含んだ声音で言い放った。
「ええーっ・・ベランダから?・・」
美奈は征次の怒気に完全に飲まれた顔で半身をドアに隠す仕草をする。
征次は美奈の気弱な態度に勢いを得たのか・・ここぞとばかりドアのノブを握り美奈を押し飛ばし中に踏み込んだ。
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