真梨子
羽佐間 修:作
■ 第2章 体験エステ15
−再 び …− 5月23日(月)
出勤の用意をしていても何か落ち着かない。
昨日買い求めた新しい下着、Cカップのブラジャーを着けた。
手術後より少し小さくなったようだが、新しい下着は、ピッタリと乳房を包んでくれる。
引き出しからストッキングを選ぶ手が止まった。
――ガーターをやめて、パンストにしようかな・・・
豊かな胸になって初めての出勤で嬉しいはずなのだが、真梨子の心に蔭を落とす出来事がある。
再び、姿を見せるようになった翔太のせいだった。
真梨子は、翔太に二度目の痴漢をされてから、毎朝、駅に着くと翔太がいないかを確かめてしまう。
しかしその時以来、彼の姿を見ることはなく、それはきっと『警察に通報する!』という言葉が効いたのだろうと思っていた。
ところが、先週の月曜日に、新御茶ノ水駅のホームにまた姿を現したのだ。
見かけた途端、鼓動が早くなってきた・・・
翔太は、同じ車両の隣の列に並び、真梨子をじっと見詰めている。
真梨子は、彼が近付いてこないのか、気が気ではない・・・
今日の自分の下着を思い浮かべた。
そしてラビアの飾りや、本当にスベスベの肌になった秘丘の感触が頭をよぎる・・・
そんな事を考えていると、トロリと愛液が溢れてきてしまう・・・
電車が到着し、二人は違うドアから乗り込んだ。
人影から時々こちらを見ている翔太の目線に気付く。
まっすぐに真梨子を見詰める翔太の熱い目線に気圧されて、真梨子の方がが目線を逸らせてしまう。
代々木公園で真梨子が降車して、走りすぎる車両に目をやると、電車の中から真梨子を一心に見詰める翔太がいた。
ただ同じ車両に乗り、真梨子をじっと見詰めるだけの奇妙な緊張を感じるそんな朝が、何日か続いていた。
今日も駅に着くと、その翔太がいた。
翔太の姿を探すことは、警戒するというより、何か気を惹かれる習慣のような感じになっている。
何がある訳でもない。唯、彼の熱い視線を一身に浴びるだけだ。
真梨子を見詰める翔太の姿を見つけると、恥かしいような気分と、不安な気持ちとが同居し、不思議な気分が湧き上がってくる。
電車がホームに入り乗り込もうとした時、翔太が真梨子の並ぶ列の方へ移動してきた。
――えっ・・・ まさか・・・ どうしよう・・・
急に不安になってきた。
――やはりパンストにしてれば良かった・・・
雪崩れ込むようにして乗り込んだ車両で、翔太との間には二人のサラリーマン風の男性が立ち、無言で電車に揺られる。
緊張して喉が渇いてきた。
何もされていないのに、身体の奥が熱くなり、潤いが染み出しているのを感じる・・・
電車が、代々木公園に着いた。
吐き出されるようにしてホームに降り立つと、真後ろに翔太がいた。
「あのー、これを・・・」
翔太が、真梨子に小さな紙袋を差し出した。
受け取るやいなや、翔太は、発車直前の電車に戻って去っていった。
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