真梨子
羽佐間 修:作
■ 第3章 目覚め1
−Half Moon− 5月23日(月)
真梨子は、5Fの喫茶・喫煙コーナーに紙コップのコーヒーを手に一人座っていた。
電車の中で晒した痴態が恥かしく、顔を隠すようにして高倉ビルに辿り付いた…
トイレで下半身の乱れを整え、プロジェクトルームに入る前に動揺する心を落ち着けようとしていた。
――翔太っていったい誰なの? どうして私の名前を知ってるの… どうしてあんなに感じてしまったの?・・・
翔太の直ぐ後ろにいた冴えない風貌の中年の男が、二人の様子に感付いていたようなのだが、翔太の肩越しに見えるその男の目を見詰めながら身体を奔り抜けた強烈な快感がショックだった。
翔太に白く濁った愛液にまみれた指を見せられた時は、恥かしくて、それだけで更に淫汁を噴出してしまった。
本気で感じた時に自分が分泌するネットリした淫汁だ。
『虐めるほど出てくる牝奴隷の証だな!』と浩二に揶揄される真梨子の恥かしい分泌物。
痴漢をされるのがわかっていながら、しかも、彼に付けるように言われたラビアのピアスを付けての出来事…
己の浅はかさに呆れてしまう。
――浩二さんに対する裏切りだわ… でも、あの子は何故私の名前を知っているのかしら?…
翔太の面影を頭に思い浮かべてみる。
――何処かで出会った? 会社関係?…
いくら考えても思い当たる節はなかった。
明日は、下着を着けずに電車に乗れと言う…
――言われた通りしなかったらどうなるんだろう… 何か脅されたりするのかしら?
こんな危険な事をこれ以上続けるわけにはいかないのは十分判っている。
しかし翔太の口が『マゾ女』と動くのを見た瞬間に感じた、あのゾクゾクとした快感は何だったんだろう…
見知らぬ男に、逝く顔を見られる時に奔ったあの怪しい快感は・・・
身体への刺激が無くてもふっと逝ってしまいそうな感覚が身体を包んだのだった。
――私は、浩二さんだからこそ、浩二さんが悦んでくれるからこそ淫らな女になれるの! そうよ!
『私はマゾ女…』
認めたくない言葉を頭で反芻しながら、プロジェクト室に戻っていった。
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