真梨子
羽佐間 修:作

■ 第2章 目覚め27

 沈んだ気持ちを浩二に悟られまいと真梨子は、今しがたの奈保子からの提案を明るく浩二に披露した。
「浩二さん あと少し時間いいですか?」
 真梨子は、少し甘えた口調になって話し始めた。
(ああ いいよ。 なんだ?いい事でもあったのかい?)
「ね 浩二さん! 私ね、1ヶ月前に高倉ビューティで乳首にピアスして貰ったでしょ!?」
(ああ 早く口に含んでコロコロ転がしてみたいよ!)
「もう でね。今度はね、いらない脂肪を取ってもらおうと思ってるんです。 脂肪吸引って知ってます?」
(ああ、聞いたことはあるなぁ。)
「今度、それをして貰おうと思ってるんです」
(…大丈夫なのか?)
「ピアスの時と同じ、高倉の提携病院の高瀬クリニックのお医者様がしてくださる最新の技術です。 メスを入れるんじゃないんですよ。 掃除機みたいなので余計な脂肪をチューって吸い取って貰うの」
「ははっ そっか。 安心そうだな。 じゃお腹の”ぷるぷる”綺麗に取って貰いなさい」
「もぉ〜 それでね。 随分前に、浩二さんにお願いして叱られたことがあったバストを大きくしたいって話、覚えています?」
(あぁ、覚えてるよ! シリコンのバックが胸の中で破れたらどうすんだ!って叱ったやつだろ!?)
「はい…」
(で、なんだい?)
「…でね。 脂肪吸引した自分の脂肪の良い部分だけを胸に入れてバストを大きく出来る技術があるんです。 それを受けたいんです…… ダメですか?」
(…それはメスを身体に入れるのか?)
「いいえ… 注射器で自分の脂肪をバストに注入するだけなんです」
(入院はするのか?)
「いいえ。 3時間程で終わってそのまま帰ってもいいんですって…」
(傷は残らないのか?)
「直径、3mmの傷だから1ヶ月も経てばなくなるって先生が仰ってました。 自分の脂肪だから、拒絶反応とかもまったくないんですって」
(そっか ふふっ いいよ!真梨子 お前の念願だったもんなぁ。 おっきなオッパイ、俺に見せてくれ!)
「え、ホント!ホントに許してくれるんですか? 嬉しい〜〜〜!」
(ああ。 決して無理をするんじゃないぞ! 判ったな!)
「はい!浩二さん! ありがとう とっても嬉しい!!」
(でも、怖がりのお前が、俺がそばに付いていなくて大丈夫か?)
「はい。 麻酔で寝てる間の事ですから」
(そうか。 じゃ、今度会う時は素敵に変身したお前を目一杯可愛がってやるよ! 寝かしまへんでぇ)
「もぉ〜  はい… じゃ身体に気をつけてお仕事、頑張ってくださいね」
「ああ、真梨子も頑張れよ!」

真梨子は、電話を切るなり、奈保子のところへ駆け戻った。

「店長〜 さっきの件、お願いできますか?」気恥ずかしそうにスケジュールの調整を依頼した。
「あら どうしたの?」
 電話で浩二に了解を取った事を話し、手術は何時になるかを尋ねた。
「うふっ 焦らないの〜 貴女方夫婦は以心伝心ねぇ。 そんなタイミングで電話があるなんて 感心しちゃうわ。 でも、折角旦那様に内緒で綺麗な乳房になってビックリさせようって言ってたのに言っちゃったのね」
「ええ… やはり彼の承諾を得ずに美容整形したなんて知れたら叱られますもん。 これでスッキリしました」

 スケジュール表をめくりながら上目遣いに見詰める奈保子が、舞い上がった真梨子をクスクス笑っているのに気付き、恥ずかしくて、頬を真っ赤に染めて俯いてしまった。
「ほほほっ 相変わらず可愛い人ね 真梨子さん」
「ごめんなさい… 自分の都合ばかり言って…」
「うふふ いいのよ。 で、スケジュールだけどねぇ、う〜ん…そうねぇ。 急だけど明日はどうかしら? 明日を外すと一番早くて2週間先しか空いてないわね… どうする?」

「2週間… 明日って何時頃なら可能なんでしょうか?…」
「夕方の600しか空いてないわ。 貴女、そんな時間に仕事、終われるの? どうする? 時間が取れるなら明日施術しちゃった方がいいんじゃなくって!? ご主人が戻られるのは2週間後でしょ? 戻られた時はちゃんと可愛がっていただける状態になっているわよ」
「意地悪ですねぇ、川上店長 う〜ん…どうしましょう…」
「どうしましょうねぇ」 
「え〜いその気になっちゃいましたぁ! 秋山さんには明日は神戸に帰るって事にして定時に退社します」
「そう。 さっきのシュミレーションで火がついちゃったのね!? 真梨子さん」
「はい…」
「それじゃ、明日ね」
「はい! お願いします」

「そうだ。 ね!真梨子さん 今夜Half Moonへ行かない?」
「えっ…」
「貴女、行きたくても一人じゃいけないでしょ!? それに明日手術をすると暫くの間、気持ち良い事は禁止だし〜」
「そ、そんな事…」
「うふ。 恥かしがることないわ そりゃ人に吹聴するような性の好みだけど、悪い事している訳じゃないもの。  ちゃんと安全に貴女を楽しませてあげたいの」
「…はぁ、う〜ん… で、でも……」
「ご主人と離れ離れになっている貴女を慰めてあげたいの! 真梨子さん 楽しんで欲しいの! 貴女のこの素敵な身体」
「……」
――素敵な身体…
「ねっ! 一緒に行きましょ!」

「…はい」
「そっ。 じゃ仕事が終わったら、声掛けてね」
「はい」

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