真梨子
羽佐間 修:作

■ 第4章 淫・由梨10

(吉岡専務。ベンチャーエンゼルの橘様がお見えです。)
 スピーカーから聞こえた声の主は、秘書になったばかりの新谷裕美だった。
「分った。 応接ではなしに、この部屋にお通ししてくれ。 それとお茶はお前が持って来るんだ!」
(・・・・・・・・・)
「返事は?」
(・・・はい。 承知いたしました。)
 間もなく、別の秘書に伴われて橘 啓介が吉岡(昌也)の執務室にやってきた。
「やぁ!どうもどうも!久しぶりですねぇ。お元気でしたか?」
 橘は関西出身者らしく人懐っこい笑みを湛えて挨拶し、勧められるまでもなく当然のように昌也の向かいのソファにどっかと腰を降ろした。
「ええ。元気でやってます。 橘さんの方は、マスコミを通じて華やかなご活躍は、よく存じ上げていますよ。 忙しくてウチの倶楽部の方へは足を向けていただけないようで皆、寂しがっています」
「あはは。 そのうち寄らせて貰いますよ」
「そう願いますよ。 ところで…」
 ドアをノックする音の後(失礼します)の声とともにドアが開いた。
 橘の背後にあるドアから、裕美がお茶を持って入ってきた。
 裕美は少し躊躇う素振りを見せ、やがて真っ直ぐにテーブル近付き、橘に向って会釈をした。
 裕美は、テーブルの脇に静かに跪(ひざまず)き、そしてゆっくりと橘の前にお茶を差し出した。
「どうぞ…」
 心持ち、茶托をもつ手が震えている。
「ほっほぉ〜、これはこれは 昼間から素敵なおもてなしで」
 橘の視線の先には、上半身には秘書らしい襟元にリボンのある白いブラウスを着ているが、下半身には大腿に幅広のレースの飾りが付いた黒いストッキングのみで、薄い陰毛を露にした裕美がいた。
 昌也の前にお茶を出した時、昌也の指が裕美の淫肉に差し挿れられた。
 身体をくねらせ、抗うことなく裕美は来訪者の前で蜜壷を弄られ、抜き取られた指は濡れ光っていた。
 その指が、顔の前に差し出されると、やがて裕美は赤い舌を差し出し、昌也の指に付着する自分の分泌物を舐めとった。

「失礼致します…」
 橘が振り返ってドアに向う裕美を見ると、つんと上向いたヒップが恥かしそうに左右に揺れていた。
「吉岡さん いい女ですねぇ。 会社の中でも楽しんでいらっしゃるんですね」
「ええ、まぁオフィスの中にも1匹くらいは飼っておこうかと… まだ調教中なんですがね」
「そう言えば、前室に入った時、カウンターに座っていた彼女が立たずにお辞儀するので、躾の行き届いているはずの高倉さんらしくないなぁと思っていたんですが、彼女の制服にはスカートがないんですね」
「そんなところです。 あれは裕美というんですが、橘さんも一度可愛がってやってください」
「ええ。 そのうち楽しませて貰いましょう」

「ところで、羽佐間の会社、潟Eェブコミュニケーションズ(WCC)ですが、やはり上場するんですか?」
「ええ。 遅くとも9月の末頃にはね。 羽佐間社長は、中々大したものですよ」
「ほう。そうなんですか… で、奴は潰せそうですか?」
「いやぁ、前にも申し上げましたように、申し訳ないですが、貴方が言うような根こそぎ金も地位も奪い取るなんてのは、今すぐにはちょっと難しいなぁ。 それに何より勿体無い!」
「勿体無い?」
「ええ。 彼は使えますよ。 稼いでくれますからね」
「本当は奴を潰したくなくなったんでしょう?!」
「あはは。 そうだなぁ。そりゃ投資して儲けるのが僕の仕事だからねぇ。 会社を奪い取って売っぱらっちまうより、毎日たくさん儲ける会社が手に入るのであれば、それも良いですからね。 あはは」
「そうですか…」
「実はね、今、羽佐間さんが自ら手掛けているアメリカのエンデバー社との提携が巧くいくと、更に大化けする可能性があるんですよ。 エンデバー社のバイオメトリクス(生体認証)は全世界が注目している技術でね。 WCCが提携し、商品化に成功すると全世界で採用される可能性があります。 その提携には羽佐間は不可欠なんです。 気難しいと噂されるエンデバー社の社長が何故か羽佐間を気に入っているようで、信用が厚いんですよ。 吉岡さん。上場させて、たらふく儲けましょうよ」

 昌也は思惑が外れて少し落胆していた。
 橘に協力して貰って羽佐間の会社を乗っ取るか潰すかを考えていたのだった。
 想像以上に羽佐間本人もその会社も評価が高く、橘には羽佐間を陥れる事にまったく興味を失っているようだった。
 このまま真梨子を堕としたとしても、羽佐間の資力をバックに昌也の秘密を嗅ぎつけられる可能性がないとは言えない。
「橘さん。羽佐間のWCCが上場すると、奴は幾らくらい手にするんですかね?!」
「そうだな。売却益でざっと50億、社長と奥さん名義で上場後も40%は保有する事になるから、彼の保有する株価は50〜60億くらいになるかなぁ」

「ほぉ〜 凄いもんですね。ちっ!」
 昌也は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ思わず舌打ちをしてしまった。
「ふふっ^^ 吉岡専務は、何か個人的に羽佐間社長に恨みでもお持ちなんですか?」
「恨みなんてとんでもないです。羨ましいんですよ、羽佐間がね」
「羨ましい?」
「ええ。持つものすべて持っている奴に対する嫉妬ですかね。 はは」

「羨ましいといえば、羽佐間さんの奥さんが、こちらへコンサルティング業務で出向なさっているって聞きましたが、再婚したばかりのずいぶん若くて美人って噂でしたな 」
「ええ、そうなんですよ。 たまたま我が社のシステムの再構築を頼んだITコンサルティングの社員だったんですよ」
「ほぉー、そうですか。 一度お会いしたいものだな。 しかし羽佐間さんもずいぶん可愛がっておられるらしい嫁さんを自分の会社に入れずに、外で働かせるなんて、その辺も公私の区別がしっかりしててあの人らしいや」
「ええ。 公私の区別か知らないが、私なら片時もそばから離さないですね。 結構グッと来る女ですよ。ふふっ」
「吉岡さん。 羽佐間さんを潰したいっていうのは、もしかしてその奥さんと関係があるんじゃないですか?」
「いえいえ、ぜんぜん関係ありません」
「本当ですか? あはは 吉岡さん?! 何か企んでいるでしょ!」

――今、真梨子を堕とそうとしている事を橘に喋ると、金儲けのために羽佐間の会社を守ろうとして羽佐間に告げ口するかも知れんなぁ、こいつ…  羽佐間の力を削ぐ算段がついてから、橘に真梨子を提供してやろうと思っていたが、真梨子の魅力を先に味合わせて欲しがらせてみるか?!  橘の好みからすると、絶対真梨子が気に入るはずだ!

「何も企んでなんかいませんよ。 それより近々倶楽部の方へ来てください。 さっきの裕美の他にももう一人、仕込んでいるのがいるんですよ。 陽子が売れてしまいましたんでね。 その補充の奴隷たちです」
「ほう そうですか。 随分ご無沙汰だったですからね。久々に楽しませてもらうとしますかね。あははっ」

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