真梨子
羽佐間 修:作

■ 第5章 オフィス・嬲16

『そろそろ行く時間だろ!教授と飲み会じゃないのか?真梨子ちゃん』
―どうして知ってるの… 
『ふふっ 驚くことないだろう。 さっき菅野と話してたじゃないか。 言っただろ!お前を監視してるって』
 このオフィス内の出来事は、映像も音声も梶に筒抜けであることを改めて思い知らされた。
『カメラテストはOKだ。 さあ、お出かけ前に身だしなみを整えなきゃな! お前の淫汁コロンを付けていけ! 一杯付けるんだ! 恩師に牝犬の匂いを嗅いで貰うんだ。 いいな!』
――いや… 
 今、淫汁が身体の奥で噴出したのがわかった。
 逆らえないのは分っているのだ… 

 股間の秘部をまさぐるところも、股間から抜き出した指がうなじに擦り付けられるところも、真梨子は自分の行為をすべて画面で見ながら作業を行った。
 まるで夢遊病のように梶に止められるまで何度も何度も自分の恥ずかしい分泌物を、うなじにも、手首にも、腋にもたっぷりと塗りつけていった。
『くくくっ よーし。もう良いだろう。何処かでお前を必ず見ているからな! 拭き取ったりしたら… 分かってるな!』
「はい…」
『念のためにお前に教えておいてやる。 いいか!お前の腋とうなじと手首に擦りつけたものは、羽佐間真梨子のオマ○コから溢れた淫らな愛液だぞ!忘れるな。 オマ○コ汁だ!復習だ。 口に出してみろ! お前の体中に付着しているものは何だ?…』
「…オ、オマ○コ汁です…」
――酷い…
『くふふっ もう一回だ。 お前の臭いコロンは?…』
「オマ○コ汁…」
『そうだ! 今のお前は体中からオマ○コの匂いがプンプンしてるんだ! それを忘れずに恩師に会って健気な教え子を演じてきやがれ! がはは!』

「真梨子先輩! 赤坂、7:00でしょ?! もうそろそろ出たほうがいいですよ〜」
 菅野久美が隣の席から気遣って声を掛けてきた。
「え、ええ ありがとう、久美ちゃん。 もう帰るわ」
 ヘッドセットからは梶の下品な笑い声が響いていた。
   ◆

 幹事を務める石塚を初め先輩や、同期・後輩たち関東圏に住む総勢20名程が赤坂の居酒屋に集った。
「お〜〜〜!真梨子! 元気かい?」
 懐かしい仲間が真梨子の傍に来るたびに身が縮む思いがする。
 淫らな体液を体中に塗りつけてショーツも着けずに、懐かしい学生時代の気の置けない仲間と肌を触れ合う距離で過ごすのはとても辛い。
 特に、尊敬する恩師の隣に席を与えられ何食わぬ顔をして座っている自分が惨めで仕方がなかった。
 しかし当時と同じで人の話を『うん うん』と微笑みながら嬉しそうに包み込むようにして聞いてくれる小松原の態度に心がほぐれいつの間にか学生時代に戻ってしまったような錯覚に陥る程リラックスしていた。
 懐かしい学生時代の話や、それぞれの今の生活を語り合い、本当に学生時代に戻ったようで真梨子はとても嬉しかった。
 そんな中でも話題になったのは、真梨子の変貌振りだった。

『こんなに綺麗だったっけ?』だの『無茶苦茶色っぽくなったよな!』『若奥様だもんな〜!』だの褒め言葉と同時に、当時は『化粧っ気のないソバカス姉ちゃんだった』とか『勉強一筋、真面目一徹』とか『卒業時は絶対処女だったよな?!』など際どい話が飛び交う。
 今は○◇大学の学部長をしている謹厳実直な恩師の小松原教授までもが『泉君(真梨子の旧姓)は以前にもまして随分綺麗になられましたねぇ。 淑女の風格というか香が漂っていますよ。 僕も街ですれ違っても声を掛けてくれないと判らないかも知れませんねぇ。 こんな美人を教え子に持った事がありませんでしたから…』と言った。
 小松原の口から女性の容姿に対する発言を始めて耳にし、あまりにも教授に不釣合いな言葉に、皆は顔を見合わせ一瞬の沈黙の後、大爆笑してしまった。

 真梨子は、皆に合わせて笑顔を作っていたが、”淑女の香”と小松原が言った瞬間、現実に引き戻され、身体から発する自分の匂いが気掛かりになってしまった。
 小松原は、生徒達に笑われ、似合わない言葉を吐いてしまった自分に苦笑しつつも、その目は真梨子のたおやかな笑顔に見惚れていた。
(しかし、真梨子君はこんなにも色っぽかったかね? 女って変るもんだなぁ。 俺の目は節穴だったかな?!)

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